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56.帰還

いつも、誤字脱字報告ありがとうございます!

とても助かっておりますm(__)m

 ――ゴゴゴッと地響きが起こった。


 先程の大きな魔力の影響か、グラグラと足元が揺れている。


 魔力の減ったステファンとシュヴァリエに、癒しをかけてさっさと回復してもらう。二人は、まだ魔力の残っている沙織に唖然とし、何か言いたそうだが……今はそれどころではない。


 シュヴァリエがステファンの母親を背負い、出口まで全速力で走った。

 間一髪で出口を出ると、通って来たばかりの通路が潰れ……轟音と共に山が一段低くなった。


(あ、危なかったぁ! 色々な意味で。先に、ステファンの母親を助けていなかったら……勝てなかったかも。うわぁ……考えただけでゾッとするわ)


 ステファンの母親を見て、今更ながらホッとする。

 ふと視線が合った。


「あ、ステファン様のお母様! お身体は大丈夫ですか?」

「ありがとうございます、光の乙女様。私は、エーヴと申します」

「エーヴ様、私は沙織です!」


 ニッコリと微笑むと、エーヴは涙を流して感謝した。

 そして、ステファンに向かって、またも何度も謝った。


「僕は、ずっと母上(あなた)に呪いをかけられる程……憎まれていると思っていました。でも、違ったのですね……。それを知れただけで、充分です」


 エーヴは震える手を伸ばし、大きくなった息子を強く抱きしめた。



 ――それから。


 四人は、王都に向けて出発した。

 沙織は、来た時と同様シュヴァリエの馬に。ステファンの馬にはエーヴが乗って、ゆっくりと帰路に就いた。

 沙織の提案で、途中の宿は少し良い所に泊まり、エーヴの長年の疲れを取ってもらうことにする。


 どうやら、エーヴの皮膚の爛れは、王太后の毒の影響だったらしい。

 キメラになったのは、悪魔召喚の贄の影響なのかは定かではないそうだ。キメラになってしまってからの記憶は、残ってないと……まあ、その方が幸せだろう。


 ステファンが親子の時間を過ごす間、シュヴァリエと二人でのんびりとお茶をした。

 リュカの姿ではないシュヴァリエとお茶をするのは、初めてのことだ。


「それにしても! シュヴァリエに、瞬間で移動する方法を教えてもらって良かったわ」

「……サオリ様。あの技は普通……一度教えたくらいで、出来るものではありません」

「えっ!? じゃあ、たまたま成功なんて。運が良かったのね!」

「…………」

「でも。これで、ステファン様は本当に王太子になるのねぇ」


 しみじみ思う。


「そうですね。サオリ様は……お帰りになるのですか?」


 シュヴァリエは、元の世界に帰るのかを尋ねてきた。


「んー。ステファン様が方法を見つけてくれたら……たぶん、ね」

「……そうですか」


 シュヴァリエは短く言った。


 影として訓練されたシュヴァリエは、心の内を見せない。それなのに、ステファンと関係のない、沙織自身のことを尋ねてきたのには正直驚いた。

 そんなシュヴァリエを眺めながら、自分の気持ちが固まっていくのを感じた。


(正直……パパとママには会いたい。でも、本当は、帰りたくない!)


 この世界に残りたい――それが、今回の件ではっきりとした、沙織の本心だった。




 シュヴァリエは、自分に当てられた部屋に戻り、独りになると瞑目する。


 沙織の答えに、胸が締め付けられるように苦しかったのだ。何故かは分からない。ただ――沙織に悟られないよう、平然を装うことがシュヴァリエには精一杯だった。




 ◇◇◇




 ――無事、宮殿まで辿り着いた。


 エーヴが一緒の為、誰にも見つからないようにステファンの研究室へと向かう。


 帰還の連絡を受けて、早速ガブリエルがやって来た。

 国王と謁見する前に、ガブリエルにエーヴの事を相談したかったのだ。


「お義父様、行って参りました!」

「ああ……サオリ。無事で、本当に……良かった」


 ガブリエルは目を細めると、沙織の頬に触れた。

 それから、エーヴの存在に気が付き驚く。


 ガブリエルは、エーヴを何度か見たことがあると以前言っていた。その為か、直ぐにステファンの母親であると理解した様だ。


 ステファンによって、ガブリエルに全ての経緯が報告された。話を聞いたガブリエルは暫く考え込み、ゆっくりとエーヴに話しかける。


「エーヴ様、貴女は王族と関わりを持ちたくありませんか?」


「はい。私は、()()が苦手です。それに、悪魔の呪いで王太后様が……私のせいです。もしも、許されるのであれば、どこかでひっそりと暮らしたいです」


(王太后は自業自得よ! 被害者のエーヴ様は、悪くないから!)


 自分勝手な王太后の、歪んだ愛が生んだ悲劇が、どうしても許せなかった。思わずガブリエルに、訴えるような視線を送ってしまう。

 それに気付いたガブリエルは、小さく頷く。


「そうですか。ならば国王陛下に謁見を願い出て参ります。こちらで、少々お待ち下さい」


 ガブリエルは、踵を返すと研究室を後にした。



 そして暫くすると、謁見の間に向かうようにと、使いの者がやって来た。

 緊張で震えるエーヴの手を取る。


「大丈夫です。何があっても、私が守ります!」


 沙織が励ますように言うと、エーヴの強張った表情が少しだけ和らいだ。


 四人で謁見の間に入ると、国王とアレクサンドル、ガブリエルが待っていた。此処に居るのは、ステファンの呪いについて知っている者だけだ。


 ジッと四人を見回してから、国王はゆっくりと口を開いた。


「光の乙女、サオリよ。我が願いを叶えてくれ、感謝する。何か褒美を取らせよう。希望が有れば申し出るように」


「我が息子ステファン。其方は、次期国王となるべき王太子として国民に知らしめる。アレクサンドルと共に、国の為に生きよ」


「そして、ステファンに長年仕えたシュヴァリエよ。其方はこれから、影としてではなく、魔導師としてステファンに仕えよ。ガブリエルに言われたが、ステファンと同等の仕事が出来る人材が必要だそうだ。但し! 影の特秘事項は死守するように」


「……有難き幸せ」とシュヴァリエは、影特有の礼をする。


 最後に国王は、エーヴを愛おしそうに暫く見つめてから、話し出した。


「……エーヴ。其方には本当にすまぬ事をした。……無事で良かった。エーヴの希望であれば、幼馴染の魔導士が住む領地に行くと良い。きっと、其方を支えてくれるであろう」


「陛下……。ありがとう存じます。これからも、ステファンをよろしくお願いいたします」

「其方も……幸せになるように」



 ――こうして、謁見は終わった。


(良かった……)


 国王とガブリエル、それにアレクサンドルも一緒に、四人の最善を考えていてくれた事が何より嬉しかった。



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