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55.ラスボス登場

 飛び出した沙織には目もくれず、執拗にキメラは結界を襲う。自分にキメラを引きつけるつもりだったのに――。


(どうして? 何か……変だ。光の魔力なら、結界より私自身の方がある筈なのに。あのキメラは、ステファンを認識出来ているの?)


 やむを得ず、沙織はキメラの周りをぐるっと駆け抜けて、祭壇があるかを確認する。


(……駄目、ここには祭壇が――無い!)


 だからといって、この場所を離れてしまう訳にはいかない。万が一、沙織が離れて結界が壊れたら、ステファンとシュヴァリエが危ない。


 キメラの結界への攻撃を、障壁を出して弾きながら躱し続けているが……それも、いつまで持つかわからない。

 問題は、どうしたらあのキメラを、殺さないで倒せるかだ。


(考えろ……。考えろっ、私!)


 明らかにステファンを狙っているのは、あの真ん中の女――母親だ。


(瘴気は、光の魔力で消せたじゃない? なのにキメラは、光の結界に触れても弾かれるだけ……)


 試しに、飛び掛かって来たキメラの脚に、光の魔力を含ませた魔力攻撃を仕掛けてみる。だが、ダメージは与えられるが、それだけだ。


(やはり、あの首を落として殺すしか……)


 ――と、その時。


 キメラの脚に当たって、細かく弾けた光の粒子が胸の位置まで舞った。女は、キメラの胸部から出ている自分の手で、光が顔に掛からないように払い除ける。


(――もしかしたら! シュヴァリエと、何度も訓練をしたように……)


 沙織は高く跳躍し、大きなキメラの真正面から攻撃をした。すると、キメラは当然の如く、正面に来た獲物を叩き落とすように前足を下ろす。


 刹那!


 何重にも強化した障壁でそれを躱し、間合いを詰め胸元へ入り込む。

 沙織の両膝で、キメラの胴体へと女の腕を押さえ込むと同時に、両手で女の頬を包むように捕らえ……一気に魔力を流し込む。


(……毒も、怪我も、貴女の心も! ――全てに癒しを!!)


「浄化しますっ!!」


 キメラの中心から莫大な量の光の閃光が、四方八方に飛び出した。




 結界の中から、固唾を呑んで見ていたステファンとシュヴァリエは、その光景に驚愕した。


「なっ……何が、起こった?」

「サオリ様が……癒しを行なったのかもしれません」


 シュヴァリエは――。一人で立ち向かう沙織を、見ているしか出来ない自分に苛立ち、拳を強く握りしめていた。


 一方で、沙織は――浄化の手応えを感じながら、更に癒しの力を強めていく。


 目の前の爛れた皮膚が再生され、飛び出した眼球も元の位置に収まる。真っ赤な目は、綺麗な瑠璃色の瞳になった。

 女の身体から、徐々にキメラだった物が剥がれ落ちていく。全てが剥がれると、ステファンによく似た黒髪の美しい女性が現れるが――。土台を失った女性は、バランスを崩した。




 沙織は空中で、落下しないよう女性を抱えると、地面に着地した。

 気を失っている女性をそっと横に寝かせて、今度はステファン達の結界を解く。


 すると――ステファンの体から、ガクンッと力が抜けた。


「ステファン様っ!」


 かなりの魔力を消費したステファンは、シュヴァリエに支えられたまま、女性の側まで行き膝をついた。


 意を決したように、ステファンは母親に呼びかける。


「……母上っ」


 その声が届いたのか――ピクッと目蓋が痙攣し、ゆっくりと目を開く。朦朧としていた女性は、信じられないといった表情で訊いた。


「貴方は………ステファン?」

「……そうです、母上」


 その言葉に、女性はポロポロと涙を零す。


「ごめんなさい……ごめんなさい」と何度も、何度も、ステファンに謝った。


「本当は、貴方を守るために()()を呼び出したのに……ステファンにまで呪いを掛けてしまうなんて……」


(……んんっ!?)


「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! ()()()()()()()()って、何ですか?」


 ゾワゾワとした嫌な予感に、沙織は口を挟んでしまった。


「……悪魔の、ベリアルの召喚です」


(ヒイィーーッ! 最悪の展開だぁっ!)




『……全く人間てのはっ。……光の乙女か、嫌な邪魔が入ったね』



 直接、脳に響いてくる異質な声。


(出たぁ〜! ――ラスボス!!)


 真っ黒な全身に、大きな羽で浮遊する、その悪魔は表情の無い顔を沙織に向けた。


(祭壇というのは、黒魔術の魔法陣……。悪魔の召喚をする為の物だったのね。だったら! やっぱり、それを見つけて壊さないとっ)


「……お母様、祭壇の場所はどこですか?」


 沙織は小声で尋ねた。


「あの、私が居た暗闇の先です」


 言われた方向をみる。ジ――ッと、視力を強化して暗闇を探っていく。


(……あった!!)


 チラリとシュヴァリエに視線を送った。


『折角、僕がその女の望みを叶えてあげたのに』


 悪魔は何が不服なのかと、ぶつぶつ文句を言う。


「わ、私は! 王太后から……息子に、王族の手が及ばない様にしてと! そう願ったではないですかっ!」


『だ、か、ら。その王太后は、さっさと殺してあげたじゃないか。ついでに、息子に呪いをかけて、王族からは逃れられたでしょ? まあ、さっさと契約完了するように20歳までの期間にしたけどね。それ以上、待つのは面倒くさいし』


「そ、そんなっ!」


『あと少しで契約完了だったのに。二つの魂を取り損ねちゃったじゃないか。……さあ、どう責任を取る? 光の乙女!!!』


 カッと目を見開き、沙織を見た。



 直ぐ様、沙織は三人を守るよう結界に閉じ込める。シュヴァリエと視線を交わすと、暗闇に向かって悪魔の目の前からスッと消えた。


『んなっ!?』


 瞬時に、暗闇の中にあった祭壇まで行く。そのまま魔法陣に手を伸ばして――叩き込む様に、光の魔力を勢いよく流し込んだ!!


 赤黒い魔法陣は、金色に光輝き……ピキッと亀裂が入り、見る見るうちに消滅していく。


『……クソがぁっ!!』


 魔力が減ったステファンに代わり、シュヴァリエが魔力を流して結界をキープする。

 消えかかった悪魔は、残された力をステファン達にぶつけた。


 が、軽く弾かれた。


『な、に? ……おぼえ……て……い』


 ベリアルは、強制的に魔界へ返され、最後の言葉は聞こえなかった。


 ただでさえ頑丈な結界に、更には光の魔力まで入っているのだ。残り僅かな闇の魔力程度で、壊せる筈がなかった。


「……道理でこの結界。異常な程の魔力を持って行かれた訳だ」

「……はい。サオリ様の作る結界(もの)ですから」



「「――はぁぁ……」」と、ステファンとシュヴァリエは大きな溜息を吐いた。




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