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52.恋愛相談

「だああああぁぁ……」


 部屋に戻るや否や、沙織は頭を抱えて唸る。


(覚悟って……なに? ダメだ、どうしたらいいか解らない。誰かに相談したいけど、誰に相談していいのかも分からないわ)


 帰り際にミシェルから言われた一言に、頭の中が軽くパニックを起こしている。

 そんな中、ふと思い出した。


(あっ、いけない! 明日の件を、お義父様に伝えなきゃだ)


 もしかしたら、ガブリエルはまだ帰っていないかもしれないが。とはいえ、この時間から一人でステファンの研究室を訪ねるのも憚られる。

 ガブリエルが邸に居なければ、また明日ステラに連絡を入れてもらえばいい。きっと、ピアノは弾かせてもらえるだろう。


 沙織は思い切って、アーレンハイム邸に転移した。ひとり悶々と考えているより、外の空気が吸いたかったのだ。


 転移陣から一歩踏み出せば、アーレンハイム邸のいつもの庭。


 屋敷に入る前に、月の美しい夜空を見上げた。


(なんか、一人でここに居るのは初めてかも)


「……サオリ?」


 ――ドキッ!


 いきなり名前を呼ばれて驚いた。人が居るとは思っていなかったのだ。

 振り向くと、ガブリエルが立っている。


「あっ、お義父様。帰っていらして良かったです」

「一人で来たのかい?」

「はい。お義父様にお願いがありまして」


 そんなに長話をするつもりも無いので、庭にあるお洒落なベンチに座って話した。


 自分のうっかりで、ミシェルの地雷を踏みまくったこと。アーレンハイム邸へ転移し、訓練以外にも、ピアノを弾かせてもらっていたのがバレたこと。

 しかも、ミシェルには……シモンズ領にステファンではなくシュヴァリエが行ったことも、鎌をかけられ知られてしまった、と。


 シュヴァリエの件以外は、別に隠していた訳ではないのだが――。


 明日、ミシェルとカリーヌを連れて、アーレンハイム邸へ転移で来ることなってしまったと伝えた。カリーヌは、ガブリエルとの訓練が見たいとも言っていたが、どうにかピアノ演奏で我慢してくれそうだ――とも。


「そうか。それならば……明日、私は留守にしているが、ピアノは使って構わない」

「わあ、嬉しいです! ありがとう存じます!」

「サオリ……他に何かあったのだろう? 原因は、ミシェルかい?」


 ガブリエルは、優しく尋ねる。


 図星をつかれて、目を見開いた。空元気に振る舞っていたのを気づかれていたのだ。


「どうして……わかったのですか?」

「ミシェルは私に似ているからな。何を言われた?」


 正直、迷ったが……ミシェルから言われた事を、ガブリエルに相談した。


「……そうか」

「私、どうしたらいいか分からなくて」

「サオリは、誰か思いを寄せている相手はいるのかい?」

「思いを寄せる……好きな人ってことですよね?」

「そうだね」

「うーん……恋愛ってちょっと苦手で。たぶん私はまだ、誰かを本気で好きになったことが無いのかもしれません」

「誰も?」

「はい。家族や、友人、周りの大切で好きな人は沢山いるのですが……。それって、恋愛感情とは違いますよね。でも、私は……ミシェルも、シュヴァリエも、お義父様も、カリーヌ様も大好きなのです」


 ガブリエルはクスッと笑い、沙織の頬を両手でそっと包み、視線を合わせた。

 頬に、ガブリエルの手の温もりを感じる。


(ヒヤァァァ! 顔が、近い……近すぎです!)


「ありがとう、私もサオリが大好きだよ」


 ーー心臓がキュッとなった。


「サオリは、そのままで良い……いつか、自然と誰かを愛する時が来るだろう。今は、自分の思う通りに生きなさい」


 そうして、ガブリエルは手を離し立ち上がる。その、大きな背中が安心感を与えてくれた。


「ミシェルがサオリを傷つけるなら、私は息子でも容赦はしない。だが、ミシェルは優しい子だ。心配はいらないよ」


 月明かりに照らされた、美貌の公爵は息を呑むほど美しかった。


(私は……私の思うように。うんっ! ミシェルもシュヴァリエも、大好きな事に変わりはないもの)


「お義父様、ありがとうございました!! 私、帰りますっ」


 ――来た時とは違い、沙織の足取りは軽かった。




 スッキリとした表情で、元気よく帰って行った沙織を、ガブリエルは静かに見送った。

 沙織が消えた転移陣を見ながら、ガブリエルは呟く。


「私の子供達は、素直な良い子に育っているね。……だが、そう簡単にサオリは渡さないよ」


 それはミシェルに対してなのか、将又、シュヴァリエや他のライバルに対しての言葉だったのかは、ガブリエル以外には分からない。




◇◇◇




 寮へ戻ってきた途端――。


「お嬢様!こんな時間に、勝手に転移しないでくださいませっ!!」


 またしても、魔道具の前で待機していたステラに、がっつりお説教された。叱られながらも、ちょっとだけ嬉しくなる。


(ふふ……ステラも私にとって、大切で大好きな人よ)




 ――窓の外では、入るタイミングを逃したリュカ姿のシュヴァリエが、心配そうに眺めていた。



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