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50.ご心配おかけしました

 アレクサンドルと沙織は、別々に学園へ戻る事になった。


 なぜなら学園側には――。


 アレクサンドルは、王命によりシモンズ辺境伯を手助けする為、シモンズ領へ行ったと報告されている。 沙織の方は、()()()()()()()()()()()()事になり、風邪を拗らせ寮で休養していると、伝えられていたからだ。


 だから、アレクサンドルは馬車で堂々と学園へ帰るが、沙織はコッソリと寮へ直接転移する。学園に居る者でこの事実を知っているのは、ミシェルとカリーヌ、公爵家の侍女達だけだ。


 沙織の知らない所では――。

 デーヴィドも一部の事実を知っていたが、ミシェルのお陰で決して口外することはない。


 シュヴァリエは、ステファンとガブリエルに、更に詳しく詳細を報告する為に宮廷に残り、沙織は一人で寮へ帰ることになった。




◇◇◇




 ステラは、ジッとその時を待っていた。

 寮の部屋の、いつもの場所。そこに置かれた魔道具が光り、転移陣が現れるのを――。


 間もなくして、転移陣が発動し沙織が到着した。


 ステラは、待ってましたとばかりに湯浴みの準備を始め、エミリーにカリーヌへ私の帰還を伝えるように指示を出す。


 準備が整い、さて湯浴みを――と、思ったところで。


「サオリ様! お帰りなさいませ!」


 エミリーから、沙織の帰還を知らされたカリーヌが、急いでやって来た。一見するとお淑やかな所作だが、仲の良い沙織にはカリーヌが相当慌てているのがわかった。

 カリーヌの様子に驚きつつも、元気よく返事する。


「カリーヌ様、ただ今帰りました!」

「ほ、本当に……ご無事で、良かったです……」


 と瞳を潤ませ、カリーヌはグスグスと泣き出した。


「ぇえええ!? どうされましたかっ!?」

「サ……サオリ様が、あんなに……危ない地域にっ」


 ヒック、ヒック……と、カリーヌは泣くのが止まらず会話にならなかったので、見かねたエミリーが話し出した。


「カリーヌお嬢様は、シモンズ領のご状況と……そちらに、サオリお嬢様が向かわれた事を、旦那様にお聞きになったのです。ずっと、サオリお嬢様のことを心配なさっていらっしゃいました。ご無事でお帰りになり、嬉しくて涙が止まらないそうです」


 エミリーから通訳してもらい、随分と心配させてしまったと申し訳なくなる。


 そもそもカリーヌは、沙織が内緒で訓練し強くなってることも、力試し的に死の森に行ったことだって知らないのだ。スフィアを捕らえた件は知っていたが、内容などは詳しく聞かされていないのだろう。


 沙織は、よしよしとカリーヌを慰めて、心配をかけてしまったことを謝りまくった。


 やっと泣き止んだカリーヌは、沙織の軍服姿に初めて気が付き……今度はキラキラした瞳で見てくる。


 今日の彼女は――。いつもの、全てが洗練された美貌の公爵令嬢ではなく、コロコロと表情を変える普通の女の子だった。


(カリーヌ様は、本当に可愛らしい。ふふっ……これを見れるのは、身内の特権だわね)


 ステファンは、きっと本当のカリーヌ姿を知っている。

 反対にアレクサンドルは、カリーヌの本質を見抜けなかったのだ。だからこそ、スフィアなんぞに惹かれた。他の、元ヒロインの攻略対象の数名も。

 魅了のお菓子の影響は大きいが、きっとそれだけではない。


(ふっ……。甘いな、男って)


 その後、だいぶ落ち着いたカリーヌは、沙織の湯浴みを終えたら、ミシェルも心配しているから会いに行こうと言った。


 沙織はまだ使ったことはないが、女子寮と男子寮には、共有スペースの庭があるらしい。ベンチとテーブルが設置されていて、持参すればお茶も出来るそうだ。貸し切りにしたい時は、寮監に申請すればいいのだとか。


 早速、ステラが申請に向かい、エミリーがミシェルの従者にも連絡をいれる。

 その間に、カリーヌは一度自分の部屋へ戻った。




 沙織は、一人湯浴みをしながらカリーヌの泣き顔を思い出し、暫く悩んでいた。


(うーん。これは一度、ちゃんと訓練している姿を見てもらった方が良いかしら? でも……、それにはお義父様に相談しなきゃだわ)


 湯浴みを終えて時計を見ると、カリーヌとの約束までギリギリだが時間はあった。

 急いでガブリエルに会いに行こうと思い立つ。


 まだ、シュヴァリエの報告を聞いているであろう、ステファンの研究室に――。





 突然――。

 転移陣から現れた沙織に、三人は驚いていた。


「「……っ!??」」

「サオリ!? 何かあったのかい?」


「急に戻ってしまって、ごめんなさい! 随分とカリーヌ様に心配させてしまっていて。どこまで話していいものかと。そこでまず、お義父様にご相談したくて……」


 あんなに想ってくれているカリーヌに、嘘はつきたくない。でも、言えないこともある。


 それを察したガブリエルは、シュヴァリエとの訓練は秘密にして……ステラに伝えてあるのと同じ、公爵邸でガブリエルと訓練していると伝えて良いと言われた。


「ありがとう存じます! お邪魔しました!」


 沙織は納得すると、すぐに寮へと転移した。



 残された研究室の三人には、微妙な空気が流れている。


「ふむ……。サオリは随分と便利に、転移陣を使っているようだね。ただ、湯浴み直後の姿で現れるのは……今度、注意が必要だな」


「「………………」」


 耳まで赤くなっているステファンとシュヴァリエに、苦笑いしなからガブリエルは言った。





 部屋に戻ると、ステラが仁王立ちで待っていた。


「お、お、お嬢様っ!! なんて格好で行かれたのですかっ!!」

「あ……」


 急ぐあまり、まだ髪も濡れてバスローブのままだった。まあ、裸でもなかったし……下着もつけてあったから大丈夫だろうと。


(以前、ステファンには、Tシャツとスパッツ姿も見られているしね。この世界には、水着って存在しないのかしら?)


 ステラに叱られながらも、そんな事を考えていたら……支度は終わった。




 カリーヌと共有スペースへ向かうと、ミシェルはもう来て待っていた。


 アーレンハイム家の侍女達によって、素敵なガーデンカフェ風にティーセットが準備され、美味しそうなお菓子も用意されている。


「ミシェル、お待たせしました」


 そう声をかけるとミシェルは振り向き、沙織の顔を見ると、ホッと安堵の表情をした。


 ミシェルは――。


 アレクサンドルと沙織が、ステファンの元へ向かったのは見ていたが、まさかあのままシモンズ領へ行くとは想像もしていなかった。

 後からガブリエルに状況を伝えられ、()()()ついて行かなかった事をずっと後悔していたのだ。


 ミシェルもカリーヌ同様に……いや、それ以上に、沙織をとても心配していた。



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