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49.それぞれの考え

 シモンズ領の一件は、直ぐにガブリエルの耳に届いた。


 ようやく軍を動かせる所までは漕ぎ着けたのだが、その必要は無くなった。沙織達のスピード解決によって。


(素晴らしい結果を出してくれた。だが、沙織の存在が――)


 ステファンだけでなく、この国にとっても大きな影響をもたらす事に、ガブリエルは一抹の不安を感じていた。沙織の能力が知れ渡れば……国の象徴として担ぎ上げ、利用しようとする輩が出て来るだろう。


 このままずっと、養女として……否、いつか妻として沙織を手元に置きたい。

 それが、ガブリエルの本心だったが。元の世界へ帰してやりたいと思うのも、また真実だった。


(取り敢えず。今回の件は、アレクサンドル殿下とステファンの手柄にしなくては……)


 ガブリエルは頭痛を紛らわすように、こめかみを指で解しながら、瞑目して考える。


 ――そして、ステファンの研究室へと向かった。




 ◇◇◇




 ガブリエルが宮廷で頭を悩ましている頃――。


 沙織とアレクサンドル、シュヴァリエは、決して綺麗とは言い難い宿屋で寛いでいた。

 行きは、殆ど休まずに向かったが、流石に帰りは宿を取り、一泊して身体を休ませる事にしたのだ。


 旅費は国から出ているし、お金には不自由しないメンバーだったけれど、敢えて庶民的な宿屋を選んだ。

 三人別々の部屋を用意してもらう。軍服を着ていたせいか宿の対応も良く、沙織の黒髪にも然程反応はない。


 アレクサンドルは、アレクの姿に変装し、市井を見に行くと出かけて行った。


(シュヴァリエは、多分……)


 姿を消して、アレクサンドルの護衛に行ったはず。沙織は宿を出るつもりはなかったし、いくら変装しても、王子に一人歩きはさせられないからだ。


 この世界にやって来て、ずっと豪奢な装飾品や綺麗な家具ばかりを見てきた。久しぶりの、何の変哲も無い机や椅子、シンプルなベットに落ち着きを感じる。


 ボスッとベッドに倒れ込み、天井の木目を見ながら考えた。


(ここは本当に『乙女ゲーム』の世界なのかなぁ?)


 見る物、触れる物、大切な人々が、とても作られた物とは思えない。沙織にとって、全てがリアルな現実だ。確かに自分がチートな存在であると、頭ではわかっている。


 けれど――。痛みもあれば、苦しさ、感情もちゃんとあるのだ。多分だが、この世界で殺されたら本当に死ぬだろう。

 やはり、ゲームとは違う。それだけは、本能的に理解出来た。


(パパとママは、どうしてるかな……?)


 一人娘が突然消えた後、元の世界がどうなっているのか。行方不明として捜索されているのか――それとも、時空の歪みとかで、存在自体が消えて無くなっている、なんてことも考えられる。


 前者だと家族に辛い思いをさせているだろう。

 後者なら家族との絆が消えてしまう。


(なんか、どっちも嫌だなぁ)


 そう考えると、すごく悲しくなってくる。かと言って、簡単には帰れない。

 それに、この世界のカリーヌをはじめ、出会った人々がとても大切な存在になった。沙織は、みんなが大好きになってしまったのだ。


(いざ、帰れるようになった時。私はこの世界を離れられるのかしら……。向こうの世界が、本当に私の居るべき場所なの? もしも、この魔法や身体能力がそのままだったら、元の世界では異端者よね?)


 全く纏まらない。そんな事ばかりを考えていたら、いつの間にか眠ってしまった。



 翌朝。

 たっぷりと眠ってたせいか、スッキリしていた。


 アレクサンドルもシュヴァリエも、多少はゆっくりできたのか顔色がいい。


(ま、なるようになるさ!)


 三人は、元気に宿を出発した。




 ◇◇◇




 遠目でもよくわかる、見慣れた宮殿が見えて来た。


「あー! やっと着いたわね」

「サオリ様、お疲れ様でした」

「明日から、また学園での生活だ。今日中に寮に戻らないと」


 そんな会話をしつつ、三人で宮廷のステファンの部屋へと向かった。


「ステファン様〜、行って参りました」と、呑気に扉を開けて中へ入る。


「サオリ、お帰り。三人とも、本当に良くやってくれたね」


 聞き慣れた低めのイケボは、ステファンの隣で微笑むガブリエルの声だった。


「お義父様! いらしてたのですねっ!」

「サオリ達を待っていたのだよ。……おや、それは軍服かい?」

「そうです! とても素敵な服で、気に入ってます」


 クルッと回転して、全身を見せた。


「美しいサオリが着ると、より素晴らしい服に見えるよ」


 美貌の公爵は、さらりと褒める。


「これ、頂いてもよろしいですか?」と、テレを隠すように、軍服を用意してくれたステファンに尋ねた。


「ええ、勿論です。そんな、凄過ぎる機能付きは……。ご自身で管理していただけると助かります。アレクサンドル、シュヴァリエも、自分達で管理してください。それはもう、戦闘に特化した服ですから……他の者の手に渡るのは、危険です」


 ステファンの言葉にガブリエルは驚く。


「……サオリ。今度それを着て、特訓するのを見せてほしいのだが」

「はい、喜んで!」


 もちろん、沙織は即答する。


「それから、今回の件だが。サオリが関わった事は秘密にした方が良い」


 と、ガブリエルから提案された。


 とても真剣な顔つきだった。

 ガブリエルは、いつも沙織を大切に思っていてくれている。ならば、秘密にした方が良い理由が必ずある筈だ。


「はい! お義父様にお任せします」


 絶対的信頼を持って、ガブリエルに一任した。


 シモンズ辺境伯や、オリヴァーにも口裏を合わせてもらい、沙織が関わった事――特に、怪我人を癒したことは、シモンズ領の中だけの話にしてもらった。




 ――その後。


 シモンズ領の騎士の間だけで、『黒髪の光の乙女の癒し』と、秘密の伝説として勝手に広まって行ったのだった。



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