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46.男の友情

 砦を後にした三人は、辺境伯に説明された場所へと急いで向かう。


 以前入った森の入り口とは違う、シモンズ領側の森。地図で深緑に塗られていた、もう一方の森の入り口へとやって来た。

 森の中からは――なんとも表現できない、不穏な感じが漂っていた。馬が、先に進むことを拒んでいるのか、足を止めた。


「ここからは、歩きましょう」と、シュヴァリエに言われて馬を降りる。



 暫く行くと、木々に寄り掛かり怪我をして動けなくなってしまった者が何人も居た。

 今すぐ治癒が必要な人には、その場で癒しをかけておく。軽傷ならば、後で纏めて一気にかけた方が早い。とにかく今は、先に進み魔物を抑えるのが先決だ。


 ――と、その時!


「グオォォオオォーー……!!!」


 腹の底へ響く、大きな咆哮が聞こえて来た。

 

 嫌な予感がして、アレクサンドルは走った。シュヴァリエと沙織も後に続く。


 アレクサンドルがピタリと立ち止まった。

 呆然とするアレクサンドルの先に居たのは、以前、沙織達が見た倍以上もある魔物……真っ赤な眼球のミノタウロスだった。


 そして、その魔物は――。


 赤茶髪の人間の、首根っこを掴んで持ち上げている。首を掴まれ、苦しそうに必死で抵抗していたが……気絶したのかダラリと手足から力が抜けた。

 その赤茶髪の人物こそ、アレクサンドルと沙織が探していた友人、オリヴァーだった。


 アレクサンドルは怒りでカッとなり、恐怖を忘れたかのように剣を抜いて、ミノタウロスに飛びかかる。軍服の機能を上手く使い、かなりの高さまで跳躍すると、そのまま振り下ろす腕に重力をかけて、オリヴァーを掴んでいた魔物の手首ごと斬り落とした。


「グゥワァァァ……ッ!!」


 ミノタウロスが咆える。


 魔物の手から離れたオリヴァーは、ドサッと地面に落ちた。アレクサンドルが駆け寄ろうとするが――。

怒り狂ったミノタウロスが、アレクサンドルとオリヴァーに向かって突進してくる。


 アレクサンドルが絶望しそうになった、その刹那――沙織とシュヴァリエは同時に動いた。


 沙織はタンッと地を蹴ると、一瞬でアレクサンドルとオリヴァーの所へ行き結界を張る。シュヴァリエは、アレクサンドルに向かって突進したミノタウロスの首を切り落とす。


 アレクサンドルは、影の強さは知っていたが、初めて沙織の動きを目の当たりにしたせいか、開いた口が塞がらない。


 見事な連携プレーだったなと、沙織は自分で思ったが……。


(今はそんなことより、急がなきゃ!)


 結界を解くと、すぐにオリヴァーに癒しをかける。


 ――ピクッと、瞼が動きオリヴァーが目を覚ました。


「オリヴァー! 大丈夫かっ!?」


 アレクサンドルが、オリヴァーの上半身を支えて声をかけた。


「ぅぅんっ。……で、殿下!? ど、どうしてここへ?」


 状況に理解できず、頭が混乱しているオリヴァーにアレクサンドルは言った。


「助けに来た。当たり前だろう、オリヴァー……お前は大切な友なのだから」


 オリヴァーは、「殿下……」と嬉しそうに涙を流した。


(……男の友情って、なんて良いのかしら)


 つい感動して涙腺が緩んでくる。沙織はスズッと鼻をすすった。

 綺麗さっぱり怪我が治ったオリヴァーは、沙織とシュヴァリエの存在に、やっと気が付いた。


「サオリ嬢に、ステファン先輩! ま、まさか、お二人まで!? ありがとうございます!!!」


 勢いよく、飛び起きて頭を下げた。


(あ、やっぱりオリヴァーって。体育会系のノリなのね……)


「説明は後にしましょう。今は、魔物達を抑えることが先決です」と、冷静なシュヴァリエ。


「私達が奥へ向かいます。お二人は、他の方々と魔物が森から出ないように、こちらで対応をお願いします!」


 沙織はそう言い残し、アレクサンドルとオリヴァーの返事も聞かず走り出す。シュヴァリエと視線を交わし、森の中へ飛び込んだ。




「で、殿下! いくら何でも、サオリ嬢が危ないです! 追いかけましょう!」


 焦るオリヴァーは、アレクサンドルに言った。


「……いや。僕らでは、二人の足手纏いになってしまう。僕らは、僕らの出来る事をやろう。絶対に、森の外へ魔物を出さないように!」


 アレクサンドルはシュヴァリエが倒した……綺麗に、首と胴体が別れたミノタウロスを指差す。さっきの沙織とシュヴァリエのスピードを見たら、誰もついて行けないと判断せざるを得なかった。


「ま、まさか、アレをお二人が?」


 実際にはシュヴァリエが切ったのだが。アレクサンドルは、沙織にも同等かそれ以上の力があると思った。

なんせ沙織は、兄であるステファンを救える唯一の存在……()()()()なのだから。



◇◇◇



 ――その頃。


 沙織とシュヴァリエは、森の中の嫌な感じが強く漂う方向へ、物凄いスピードで向かって行った。


(もしかして、ここは……)


 そこには、大きな洞窟の入り口があった。




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