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43.ベテラン侍女ステラ

 セオドアも、状況は詳しく分からないそうだ。


「学園に入ってから、こんな事態は初めてで……」と、オリヴァーをとても心配していた。


 地理の授業が終わり、休み時間にアレクサンドルと一緒に、職員室のデーヴィドを訪ねた。当然、オリヴァーの事を詳しく訊くためだ。


「オリヴァー君ですね……。学園への連絡は、シモンズ辺境伯から、暫く休ませてほしいと来ていますが。詳しい内容までは、聞かされていないのですよ」


「「そうですか……」」


 全くと言っていい程に情報が手に入らず、ガッカリと肩を落とす。まあ、予想はしていたのだが。


 アレクサンドルと沙織は、目配せして次の手を考える。


「アレクサンドル様……。放課後、宮廷のステファン様の所へ向かいませんか?」


 沙織はこっそりと、アレクサンドルを誘ってみた。

 アレクサンドルは目を見開き、驚きの表情だ。


「その時間からの馬車での移動だと、着くのは夜になってしまうのでは?」


(あ、そうか。転移の魔道具のことは知らないのね。うーん……。教えちゃっても……ま、いいわよね)


「大丈夫だと思います。放課後、中庭に集合しましょう。必ず! お一人で来てください。リュカも連れて行きますので」


 リュカがシュヴァリエだと知っているアレクサンドルは、言いたい事が何となく分かったようだ。馬車以外に移動方法があるのだと。

 放課後の約束をして、二人は教室に戻った。



 廊下の片隅で、デーヴィドは二人の話を聞いていた。


 殆ど面識が無かった筈のアレクサンドルと沙織が、あまりにも親しくなっているのが不思議だったからだ。


「放課後……中庭か」


 そう呟くと、デーヴィドは職員室へ戻って行った。




 ◇◇◇




 放課後――。

 デーヴィドは、沙織の跡をつけていた。


 沙織は先に中庭に着いたが、アレクサンドルはまだ来ていなかった。リバーツェを抱っこしたままベンチに座って、アレクサンドルを待っている。


 暫くすると、アレクサンドルが急ぎ足でやって来て、二人で女子寮近くの人気の無い場所まで移動して行く。

 二人の仲の良さそうな様子に、デーヴィドは胸が苦しくなったが……それでも、跡をつけるのを止められない。


 辺りをキョロキョロと確認してから、沙織はポケットからコンパクトのような物を取り出す。


(何をするつもりだ?)


 目を凝らして見ていると、コンパクトが光り出す。


(なっ! あれは、魔道具か!? なぜ、そんな物を?)


 沙織が発動させた魔道具から、転移陣が現れた。

 一瞬で、沙織とアレクサンドル、リバーツェがの姿が消え――魔道具がポトリッと落ちた。


 デーヴィドが、その場で動けずに立ちつくしていると、いつの間にか現れたメイド服の女性が、それを拾って振り向いた。



 アーレンハイム公爵家のベテラン侍女のステラは、()()()()()()()を視線で捕らえ、主人であるガブリエルに負けない程の迫力で静かに言った。


「ミシェル坊ちゃん、デーヴィド先生、今見た事は他言無用ですよ」


(…………なっ!?)


「はぁ……わかってるよ。全く、ステラには敵わないな。でも、どうしてここに居るんだ?」


 木の陰からミシェルが出て来て、ベテラン侍女に返事をしながら尋ねた。


「お嬢様にこちらの回収を仰せつかっておりまして」


 そう言ったステラは、さっき拾った物――コンパクト型の魔道具を見せた。


「なるほど、ね。父上とサオリ姉様には言わないでくれよ」


「それは、ミシェル坊ちゃん次第でございますよ。デーヴィド先生も、おわかりですよね?」


 ステラはニッコリと笑みを浮かべた。


「な、なぜ……」


 どうして、この場にミシェルが居て、ベテラン侍女に自分が隠れて見ていた事がバレたのか……デーヴィドは訳が分からずにいた。


 ミシェルがデーヴィドの前にやって来る。


「どうやら……先生にはちゃんと説明しておかないと、色々やらかしそうですね。デーヴィド先生は、サオリ姉様が好きなのですよね? アレクサンドル殿下との関係が気になりますか?」


 デーヴィドはミシェルのストレートな質問に、グッと詰まりながらも「その通りです」と頷いた。


「では、お教えします。その代わり、絶対にサオリ姉様の邪魔だけはしないでください。僕だって……我慢しているのですから」


「分かりました。それが、彼女の為なら……」


「サオリ姉様は、()()()光の乙女です。そして、王命により動いています。勿論、内容は……僕も知りません。今、アレクサンドル殿下と向かったのは、きっと宮廷のステファン様の所です。多分ですが、脳筋……いえ、オリヴァー様の件を調べに行ったのでしょう」


(彼女が……本物の光の乙女だと!?)


 デーヴィドは息を呑む。


「なぜ、ステファン君の所へ?」


「それは、ステファン様が、光の乙女であるサオリ姉様をこの国に呼び――全てのサポートを、彼がしているからです」


「まさか……ステファン君も?」


「いいえ。ステファン様は、カリーヌ姉様一筋ですから。僕的には看過できませんけどね」


(やはり、ミシェル君は噂通り筋金入りの……)


「アレクサンドル殿下は、今は恋愛よりも国の為に必死ですし。サオリ姉様は――驚くほど恋愛に疎い。そんな二人ですから、先生がしている心配は無用です。まあ、他にライバルは多そうですけどね。僕らに出来る事は、サオリ姉様が無事に王命を成し遂げる為の、邪魔をしないことです。ですから――。先生も、今は見守るだけにしてください」


「わかりました。()()僕なりに彼女を見守ります」


 そして、デーヴィドは力無く、学園へ戻って行った。




 ◇◇◇




「ミシェル坊ちゃんも、サオリお嬢様を見守るだけになさってはいかがですか?」


「何のことかな? ステラ」


 白々しくミシェルは答えた。


「お嬢様に迫るのは……程々になさいませ」


(バレてたか……やはりステラには敵わないな)





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