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41.お義父様は流石です

「ステラ。今日は訓練をしないので、普通のワンピースで良いわ」


 学園から戻ると直ぐに、ステラに伝えた。アーレンハイム邸に向かう前に、制服から普通のワンピースに素早く着替えを済ます。

 早くカリーヌの事を相談したくて、ウズウズしているのだ。


 先日の――。

 サプライズで、ピアノと弾き語りを披露してから、少しだけカリーヌの様子が変わった気がした。


(何か特別な事があったわけじゃないけれど……)


 ちょっとした会話から、カリーヌはステファンが好きだと分かった。沙織は、()()()()()()()()()()()()、不思議と洞察力や勘が鋭くなる。

 だからなのか、カリーヌの微妙な変化を感じ取れたのだ。


 相談内容は、昨日シュヴァリエにも話した、ステファンの本当の姿の件だ。


「シュヴァリエ、行きましょう!」

『……はい』


 シュヴァリエは、一抹の不安を抱えたままアーレンハイム邸へ転移した。取り敢えずは、リバーツェのリュカらしく振る舞うしかない。


 リュカを抱え、屋敷内のガブリエルが待つピアノがある部屋へと向かう。

 ノックすると、中から執事が扉を開けた。


「待っていたよ」


 奥のガブリエルが笑顔でそう言った。


「お義父様、お待たせいたしました! リュカも連れて来ました」


 リュカを抱いたまま、ガブリエルのそばまで行く。

ガブリエルは、ジッとリュカを見て「ふっ……」と笑った。


「リュカか……。カリーヌが命名したのだったね。いや、本当に愛らしいリバーツェだ」


「そうなのです! 抱っこすると、更に癒されます!」


 リュカを褒められて嬉しくなった沙織は、ガブリエルの膝の上に……ポンっと、リュカを乗せた。


「お義父様も癒されてくださいませ」


『………!!?』


 シュヴァリエは固まった。


 これが、人の姿だったら――ガブリエルの膝の上に、シュヴァリエが座っている。……なんてことは、沙織は全く想像していない。

 寿命が縮む思いで、リュカの姿のシュヴァリエは、ガブリエルに大人しく抱っこされている。


「ではっ、ピアノ弾かせていただきます。お義父様は、今日はどの様な曲が良いですか?」


 リュカの頭を撫でながら、ガブリエルは考えた。


「サオリの好きな曲でかまわない。カリーヌとミシェルが言っていたが、歌も素晴らしいそうだね。出来れば、それも聴いてみたい」


 沙織は嬉しくなり、「はい!」と返事をして弾き出した。


 今回は、疲れている時に安らげるクラシック曲を選択した。確か、クレールの曲も優しい旋律だった。

 ガブリエルは目を閉じて、曲に耳を傾ける。



 シュヴァリエは、初めて聴く沙織のピアノに驚いた。あの訓練で飛んでくる拳から、奏でられる優しい音色……。信じられなかった。


 そして、ガブリエルがリクエストした、ラブソングの弾き語り。これには、ガブリエルもシュヴァリエも完全に心を掴まれた。


 最後に、クレールの好きだった曲を弾いて、鍵盤から手を離した。


「ありがとう……素晴らしかった。本当にカリーヌの言った通りだね」


ガブリエルの言葉に「ありがとう存じます」と、笑顔で応えた。


「では、今度はサオリの相談とやらを聞こう」


 ベテラン執事が、絶妙なタイミングでお茶の支度を完了させた。


「はい、カリーヌ様とステファン様の事なのですが……」


 この前、シュヴァリエに相談した事をそのままガブリエルに伝えた。





「ステファンの姿を、カリーヌに……か」

「お義父様は、どう思われますか?」


 音を立てないよう、静かにカップを置く。


「そうだね、ステファンの呪いについては……カリーヌには、まだ知らせたくない。もし、サオリが言うように、カリーヌがステファンを好きなら尚更だ。もし、期待して上手くいかなかったら……カリーヌは、立ち直れない程のショックを受けるだろう」


「はい、私もそう思います」


「サオリの心配は、上手く成功した後の姿……つまり、見た目だね。それは、本当にカリーヌがステファンを愛していれば、ちゃんと誰がステファンかは判る筈だよ」


「大丈夫でしょうか……?」


 クスッと、ガブリエルは笑った。


「サオリだって、同じ姿のステファンとシュヴァリエの区別がつくだろう?」


「ええ、それは……同じ顔でも細かい仕草やちょっとした言葉使いとか。醸し出す雰囲気なんて、全く違……あっ!」


「カリーヌが、ステファンをずっと想って見ていたなら……直ぐに気がつくだろうね。この、リュカが……シュヴァリエなのかステファンなのかも、ね。今日は、シュヴァリエかな?」


「……ふぇっ!? お義父様……ど、どうしてそれをっ??」


 不意をついたガブリエルの指摘に、変な声が出てしまう。


 ガブリエルは、抱っこしていたリュカを、そっと床に置いた。


「……黙っていて、申し訳ありませんでした」


 リュカの姿から、シュヴァリエに戻ると謝罪する。


「ステラから、サオリが突然リバーツェを飼いたいと言っていると聞いたのでね。色々と調べさせてもらったのだよ」


「さ、最初から……ご存知だったのですか? まさか、カリーヌ様やミシェルもですか?」


 ガブリエルはまたもクスリと笑って、首を横に振った。


「カリーヌは、時々リュカの雰囲気が違うから、具合が悪いのかと心配していたくらいだよ。リバーツェに効く薬を教えてほしいと言ってきた。多分、カリーヌもステファンとシュヴァリエの違いを感じていたのだろう」


「……そうだったのですね。さすがカリーヌ様です」


 沙織の心配は杞憂だったみたいだ。


「サオリ、カリーヌの心配をありがとう」


 そう言って、ガブリエルは頭をポンポンしてくれた。


「ところで……」

「はい? 何でしょうか?」


 優しいが、少しだけ空気の変わったガブリエルに、きょとんとする。


「リュカを飼うのは、そのままで構わない。但し……絶対に一線を越えては駄目だよ」


 ガブリエルは、とても美しく鋭い笑顔をシュヴァリエに向けて――釘を刺した。


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