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38.奇襲をかけましょう

 アレクサンドルを先頭に、急いで林を駆け抜けた――。


「ここが、例の畑です」


 あまり近付き過ぎないように、畑とスフィア達が居るであろう家の様子を窺う。

 シュヴァリエは視力を強化し、周囲を凝視する。


「……畑には、誰も居ません。収穫された葉は、束ねて玄関近くに積んであります」


「例の葉が残っているなら、スフィア達はまだ居るわね!」


(どうやら、間に合ったみたいね。……良かった!)


「気配を消して近付いてみましょう」


 ステファンの提案で、ステファンと沙織、シュヴァリエとアレクサンドルの二人一組で、逆方向から家の中を覗く。


 沙織達の方から見える部屋には、縛られた小さな獣人達が身を寄せあって泣いている姿があった。


(……可哀想に。絶対に助けるからね!)


 再度、四人で集まり情報共有する。


 アレクサンドル達からは、中でいちゃついてるスフィアと中年男が見えたそうだ。


「あの男……前科があり、逃亡中で指名手配されています」


 シュヴァリエが、中年男に見覚えがあったみたいだ。影は、そういった情報は常に頭に入れているらしい。


「どんな奴なの?」


「悪質な密売を行なっており、魔力は少しだけありますが、武器も隠し持っている筈です」


「向こうの部屋には、幼い獣人がまとめて閉じ込められていたわ」


「では、場所は変わりましたが……二手に分かれて、予定通り奇襲をかけましょう」


 四人は頷き、先程の場所へ戻った。







 沙織が再度、さっきの窓から中を覗き込むと……一人の女の子と目が合った。女の子は驚いて目を大きく開く。沙織は慌てて、シー……ッと人差し指を立て、声を出さないようにジェスチャーで伝える。

 そして、ステファンが窓の鍵を魔法で解除すると、二人で窓から中に入った。


『助けに来たわ。でも、まだ声を出さないで。もう少しだけ頑張ってね。ここに居るので全員かしら?』


 と小声で確認する。

 さっき目の合った女の子が、瞳を潤ませ首を横に振る。


『……弟が。レオが居なくなっちゃったの!』

『あなた、もしかしてアリス? レオなら、家で隠れているから心配いらないわ』

『う、うぅ……良かった』

『今からここに結界を張るから、みんな集まって』


 ステファンと目配せして、一気に全員が入れる結界を――宣言通り、()()()に作り出した。

 これなら、外の音は聞こえるが、中の声は外に漏れない。しかも、マジックミラーを意識したので、鏡みたいなドームの中は、外から見えない仕様にしてある。


「……サオリ様。また貴女はなんて規格外な物を……はあぁぁ」


 結界に触れて仕様を確認した、ステファンは呆れ顔で大きな溜息をついた。


「ステファン様、そんなにいつも溜息ばかり吐くと、幸せが逃げちゃいますよ?」


 沙織は、至極真面目に教えてあげた。


「……誰のせいでしょうねっ?」と、ステファンは顔を顰めた。


 そして、子供達の縄を解き自由にする。アリスは沙織とステファンに寄ってきて声をかけた。


「お姉ちゃん達は誰? 本当にレオは無事?」


 アリスの頭を撫でると、少しかがんで目線を合わせた。


「レオは、本当に大丈夫よ。私達は、アレクのお友達だから、あなた達を助けに来たの。今、アレク達が悪い奴らをやっつけているからね」


 ニッコリと微笑むと、アリスは嬉しそうに笑った。







 その頃、反対側では。


 ――ガシャンッ!!


 アレクサンドルとシュヴァリエが、窓を叩き割り中へ飛び込んだ。


「――ヒィっ! なっ、何なのよっ!」

「誰だ!? お前達はっ!」


 突然窓から入ってきた二人に、スフィア達は狼狽える。


 シュヴァリエは、スッと気配を消して男の背後にまわり込み、急所に一撃を入れて一瞬で制圧した。


「スフィア! お前達の悪事は全て分かっている! これ以上、好きなようにはさせないっ」

「なっ! あんた誰よっ?」


 アレクの変装を解き、アレクサンドルの姿になる。

 アレクサンドルだと知ったスフィアは、途端に頬を高揚させて、猫撫で声を出して寄って来た。


「アレク様! 私を助けに来てくださったのね! 私、知らない国で……そこの男に捕まって、無理矢理に……とても怖かったのです!」


 そう言って、スフィアは涙を流す。

 嘗ては愛らしく思えたはずの――歪な笑顔で、アレクサンドルの手を握る。


「……吐き気がする、触るな」

「えっ?」


 アレクサンドルは、汚物を見るように冷ややかな表情浮かべると……スフィアの腕を捻り上げて、両手を魔力封じの手錠で拘束した。


「な、何をするのですかっ!?」

「お前のような穢らわしい醜い悪女が、俺に触れるなっ!」

「はあ?醜いですって!? この糞王子がっ!」


 本性を現したスフィア。汚い言葉を次々と発して、拘束された両手を振り上げアレクサンドルに飛びかかった。

 アレクサンドルは、それを避けるとスフィアの足を払い転倒させる。顔面から転んだスフィアは、痛みでのたうち回る。


 それから、スフィアと失神している男をそれぞれ檻に入れ、逃げられないようにすると、アレクサンドルはアレクに戻る。


 そして、沙織達と合流する為に移動した。







 急いで、目的の部屋の扉を開けた途端……なぜか巨大な鏡。

 沙織作のマジックミラー風結界に、アレクサンドルとシュヴァリエは言葉を失い、膝から崩れた。


(……あら? 二人とも何でしゃがんでるのかしら?)


「サオリ様、またなんて結界を……。制圧完了しましたので、結界を解除してください」


 力無いシュヴァリエの声が聞こえ、沙織は結界を解いた。


「アレクー……!」


 アリスはアレクサンドルに駆け寄り、抱きついて泣きじゃくった。ずっと泣くのを我慢していたのだろう。


「私達は、奴らを城に転移させて来ます」


 ステファンは、シュヴァリエとスフィア達の所へ向かった。


「アリス、もう大丈夫だ。お前達は、ベネディクト国で一時的に保護する事になった。大丈夫、心配するな」


 アレクサンドルは安心させるように、何度も大丈夫だと繰り返して言った。




 それから、レオも呼びに行き、子供達を連れて国境門へ向かう。


 沙織と手を繋いで、嬉しそうに歩くアリスとレオの後ろ姿を見ながら、アレクサンドルは胸に()()()()を抱く。

 そして、ステファンを呼び止めた。


「兄上、僕の本当の戦いはこれからです。あの子達がこの先、差別を受けたり奴隷にされない為に――市井を調べ、国が正しく進む道を探します。どうか、兄上……貴方が王になり、この国を導いてはくれませんか?」


 アレクサンドルは真剣にステファンに想いを伝える。


「……わかった。絶対に呪いを解くよ」


 ステファンは、真剣な弟の想いを確かに受け取った。


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