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37.作戦会議

 目立ってはいけないので、平民が乗るような小さめの馬車を使う。


 早速みんなで乗り込むが、さすがに狭かった……。

シュヴァリエにはリュカ姿になってもらい、沙織の膝の上に乗せることにした。馬車が出発すると、シュヴァリエは居た堪れなくなったのか口を開く。


『サオリ様……。私は姿を消して、馬車の外におりますので。この状態は……』


 影であるシュヴァリエが、王族に囲まれて沙織に抱っこされているこの状況。何とも気まずい……そう言いたいのだろう。


「え? ダメよ、シュヴァリエ。みんなで、作戦会議をしておかないとですもの! アレクサンドル様、ステファン様、何も問題無いですよね?」


 当たり前だと言わんばかりの問いかけに、アレクサンドルもステファンも苦笑いするしかない。ちなみに、この先誰に聞かれるか分からないので、『殿下』呼びは無しだ。


「大丈夫です。シュヴァリエの意見も聞きたいので」

「兄上が宜しければ、僕に異存はありません」


「ほらねっ!」と、シュヴァリエリュカを抱き上げると、沙織は正面からリュカの可愛いらしい顔を見て、にっこりと笑いかけた。


『……………』


 ステファンとアレクサンドルは、シュヴァリエに同情の目を向けた。


「それで、どうすれば一番効率が良いかしら?」


 沙織が尋ねると、ステファンが答えた。


「先ずは、その男とスフィアが一緒にいる所を狙いましょう。出来れば、幼い獣人達がやって来る前に」


「そうですね。子供達が人質に取られたら厄介です。ただ、スフィアの能力は分かっていますが……男の力が分かりません。魔力持ちかもしれませんし、武器や変な薬をやっている可能性もあります。スフィアが、利用できない男と一緒にいる筈がありませんから……」


 とアレクサンドルは顔を顰めた。

 スフィアを思い出すだけで、嫌悪感に襲われているようだ。


「んー。じゃあ、私とシュヴァリエで二人を倒して捕まえましょう! ステファン様、二人を拘束できる魔法はあるかしら?」


「ありますね。結界と似ていますが、魔力で作る檻です。一度中へ入れてしまえば抜け出せません。相当、魔力が強くない限り。シュヴァリエも檻は作れます」


 スフィア達を捕まえたら、そのままステファンが、転移陣で城の牢に送る。牢の方の転移陣は、もう敷いてあるそうだ。


「なるほど! そうしたら、アレクサンドル様は村で獣人の子供達を集めておいてください。私達が戦っている間は、ステファン様に結界で守っていただきましょう!」


「ちょっ、ちょっと待って下さい! いくら光の乙女と言えども、女性のサオリ様では危ないです。シュヴァリエと……僕にやらせてください!」


 慌ててアレクサンドルは、反論する。


「え? でも……多分ですが、アレクサンドル様より私の方が強いかと。シュヴァリエに訓練してもらってますし……」


 チラッと、ステファンに視線を送る。


「確かに。(更に呆れる程)サオリ様は強くなられました。ですが――。アレクサンドル自身が、スフィア達を捕らえる必要があるかもしれませんね」


(あ、そうか! アレクサンドルが、ケジメをつけなきゃいけないのね)


「そうね! では、私が()()()()結界を張ります」

『……あれ以上ですか? 普通でよろしいかと』

「そうかしら? 子供を守るのですもの、頑張ります!」


 はあぁぁ……と、ステファンとシュヴァリエは、揃って大きな溜息を吐く。

 アレクサンドルは全く意味が分からずに、きょとんとしていた。




◇◇◇




 ――目的地に近づいてきた。


 国境門の手前で止まると、その場で馬車を降りた。ここからは、目立たないよう徒歩にする。


 アレクサンドルは、獣人の子供達を怖がらせない為に、見知ったアレク姿になった。反対にステファンは、本来の姿に戻る。

 髪色は違うが、まるでアレクサンドルが、アレクという人物を連れているよう見える。


 シュヴァリエは、リュカの姿から人に戻ると気配を消した。


 国王に用意してもらった通行許可証を見せ、国境門をくぐると先ずは獣人の村へ向かう。




 沙織は、その村の状態に息を呑んだ。


ボロボロの家ばかりで、臭いも酷く、彼方此方が壊されている。どす黒くなった古い血痕も沢山あり、見るに堪えないものだった。


「酷い……」


 込み上げるものがあり、思わず口を覆う。


「……ああ。以前、大人の獣人達が一斉に奴隷として連れて行かれたらしい。その時の跡だ」


 アレクサンドルではなく、アレクとして答える。

 何軒かの家を通り過ぎると、アレクサンドルは足を止めた。やはり、ボロボロの無惨な家だ。ノックをすると、アレクサンドルは家の扉を開ける。


「ここが、アリスとレオの家だ……」


 家の中はシ――ン……としている。

 アレクサンドルの顔が強張った。


「アリス! レオ! 俺だ、アレクだ!」


 大声で呼びかけるが、返事は無い。


「おかしい……。この時間なら二人はいる筈なんだ」


 アレクサンドルは、嫌な予感がした。

 顔を見合わせると互いに頷く。部屋の中に入り、手分けして二人を探した。


 ――すると。


 カタッと、どこかで物音がした。その音のした方へ急いで向かう。

 そこは、アレクが泊まっていたという部屋。息を顰めながら、慎重に中に入ると――部屋の隅で膝を抱えて震えている、小さな獣人が居た。


「レオ! 俺だ、アレクだ! 大丈夫かっ!?」


 真っ青で耳を伏せ、アレクが渡した袋を抱え泣いているレオだった。


「……う、うわぁぁん!! アレク……アレク……」


 レオは、アレクサンドルに抱きついて泣きじゃくる。


「レオ、しっかりしろ! アリスはどうした?」


「ヒ……ッ、ヒック……お、お姉ちゃんは。今日、あの葉っぱの収穫だったんだ。ぼく……とちゅうで虫見つけたから、サボっちゃったんだ……。気がついたら、みんなつかまってた……」


「っ!! クソッ……収穫前に間に合わなかったか」


 泣きながら話すレオが言いたい事は、だいたい理解できた。要は、今日が最悪の収穫日だったのだ。

 途中から虫を追いかけてサボったレオは、仲間が捕まったのを見た。


 そして、怖くなって逃げ帰ったのだ。

 アレクサンドルが渡したという袋を持って、逃げなくてはと思いつつ、アリスが心配で動けなかったのだろう。


 沙織は、レオの前に出て膝をつく。


「レオ、はじめまして。私はサオリよ。それは、どのくらい前のこと?」


 できる限り優しく、レオを怖がらせないように話しかけた。


「いつもより、時間かかっちゃってたから……。ちょっと前……?」

「教えてくれて、ありがとう」


 レオの頭を撫でて、立ち上がる。


「きっと間に合うわ! 急ぎましょう!!」



 ――作戦変更で、全員で畑へ向った。

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