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36.進展

 ほどなくして、ガブリエルがやって来た。


「お義父様!」

「サオリも来ていたのだね」


 ガブリエルは、沙織とステファン、シュヴァリエにもアレクサンドルからの話の内容を説明した。

 勿論、それは重要な漏らしていけない案件だったが……。国王とガブリエルは、この三人の力が必要だと判断したのだ。


 アレクサンドルは、やはり……獣人の子供を助けて、あの村に居たのだそうだ。そこで知った、獣人の扱いや粗悪な環境。

 そして、スフィアの存在と本性と――最悪な企みを聞いてしまったそうだ。


 自分の無力さを思い知ったアレクサンドルは、自ら国境門へ行き兵士に身分を明かすと、宮廷の者に連絡させた。

 幸い、国境門には王の影が、アレクサンドルの行方を追って潜り込んで居たので、早く事が動いたのだ。


 王宮に戻ると、アレクサンドルは国王への謁見を願い出た。影に捕らえられたままの状態で、それは直ぐに叶えられた。

 そこで、ガブリエルも呼んでほしいと頼んだのは、アレクサンドル自身だったそうだ。


 アレクサンドルは全てを明らかにした。スフィア達が企んでいる隣国の王太子の懐柔、国の乗っ取り、悪質な媚薬の生産を止めなければ。そう言ったのだと。


 もしも、懐柔された王太子が王になり、スフィアが王妃にでもなったら……この国に戦争を仕掛ける可能性だってある。

 もう、最悪のシナリオしか見えて来ない。


 そして、自分はどうなっても構わないから……と前置きし、アレクサンドルは自分を助けてくれた幼い獣人と、スフィアに捕らわれるであろう他の子供の獣人達も、助けてほしいと国王に懇願したそうだ。


「それで、陛下はなんと?」


 ステファンはガブリエルに尋ねた。


「陛下は、此度のアレクサンドル殿下の失態を重く受け止め、王位継承から殿下を外された。その上で、ステファン……貴方の存在と、サオリの役目を殿下に伝えた。呪いが解けたら、王太子をステファンにすると決められたのだ。呪いが解けない場合は、次の継承権がある者が選ばれるそうだが」


 息を呑んだステファンは、眉根を寄せて俯いた。


「兎に角、時間が無い。私は隣国へ行き、彼方の国王陛下への謁見を取り付けなければならない。早急に悪質な薬の流通を止め、王太子が狙われている事を伝えなければならないからな」


「では、お義父様は直ぐに隣国へ立たれるのですか?」


「そうなる。その間……サオリ達にはやってもらいたい事がある。隣国へは、アレクサンドル殿下が国境を越えた可能性を伝えておいたので、獣人の村までなら介入することが出来る。

但し、それは秘密裏に行う約束になっているのだ。だからこそ、三人に頼みたい。直ぐに村へ向かい、幼い獣人を保護し……スフィア達を捕らえてほしい」


「私達が……」


「そうだ。アレクサンドル殿下も、協力する。殿下自身の希望で、決して裏切れないようにと……契約の紋を国王陛下が殿下に入れた。やってくれるか?」


 契約紋――学園の座学で習った。


(確か、契約に反した場合……全身が雷に打たれたような痛みが走り、酷いと心臓が止まってしまう。それをアレクサンドルが望むなんて。本気なんだわ)


 ステファンと視線を交わし、頷いた。


「「承知しました!」」


 そして、ガブリエルは颯爽と研究室を去っていく。このまま隣国へ旅立つそうだ。


「私達は、急いでアレクサンドル殿下に会いましょう!」

「では、すぐに」


 沙織とステファンは、アレクサンドルが軟禁されている部屋へと向かった。シュヴァリエは姿を消してついて来る。


(扉の前に二人の騎士が立っている……この部屋にアレクサンドルは居るのね)


 許可を得て中へ入ると、少しやつれたアレクサンドルが三人を待っていた。いかにも甘やかされた王子の雰囲気は消え去り、しっかりとした眼の精悍な顔つきになっている。


「来てくれて感謝します」


 開口一番にアレクサンドルはお礼を言った。


「ステファン……貴方が兄上だったとは。数々の失態、本当に申し訳ありませんでした」

「僕も、騙していて……すまなかった」


 そう言うと、ステファンは本来の姿に戻る。アレクサンドルは、自分とそっくりなステファンに、驚きで目を見開く。

 ステファンは、影のシュヴァリエを呼び紹介した。


「まさか、あの姿が影のものだったとは……。凄い魔法の技術ですね。そして、貴女がアーレンハイム公爵の養女……本物の光の乙女なのですね」


「初めまして……では、ないですね。アレクサンドル殿下」


 沙織は素直に微笑んだ。

 アレクサンドルは瞬いた。


「……え? 貴女が編入してから、僕は一度も学園には行ってませんよ」


 制服姿の沙織を見つめるが、やはりアレクサンドルは意味が分からなそうに首を傾げた。


「お会いするのは、二度目ですよ。初めては、カリーヌ様の断罪中に、目の前に居たではありませんか。覚えてらっしゃいますか?」


「……断罪中?」


 アレクサンドルは、突然目の前に現れた悪魔のような黒尽くめの女を思い出した。


「え、あっ!――あの時の!?」


 今の姿と、記憶の女とのあまりの違いに唖然とする。


「あの時は、確かにちょっと……突然の転移でしたので酷い格好でしたが」


 サウナスーツの黒歴史に、沙織は遠い目になる。


「光の乙女……貴女には、感謝しかありません。僕は、取り返しのつかない過ちを冒すところでした」


「わかってくれれば充分です。殿下は……もう大丈夫ですね!」


 沙織の言葉に、アレクサンドルは晴れやかな顔で頷いた。


「ではっ、殿下が助けたい獣人のもとへ出発しましょう! あの森は、遠かったですし……移動しながら作戦を立てましょう」


 流石に学園の制服では不味いので、寮へ戻って訓練着に着替えさせてもらうことにした。





 部屋を出た沙織を見送ると、アレクサンドルはステファンにしみじみと言った。


「兄上……女性って、怖いですね」


「それは、アレクサンドルが出会ったのがスフィアと……特殊な人ばかりだったからですよ。まあ、サオリ様の場合は良い意味でですが」


 ステファンは、アレクサンドルに兄上と呼ばれた事が嬉しかった。



 ――そして、四人は国境門に向かうため城を後にした。

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