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34.嫌悪

アレクサンドルのお話です。

やっと、目が覚めました。

 アリスとレオは手を繋ぎ、林の中を楽しそうに尻尾を振りながら歩いていた。


 レオは、途中で花や虫を見つけては立ち止まり、アリスに呼ばれて走って追いかけて行く。それを何度も繰り返す。


(……これでは目的地に着くまで、だいふ時間がかかりそうだ)


 アレクサンドルは二人に気づかれないよう、気配を消して跡をつける。

幸い、怪我した所はもう大して痛くはなかった。




 ――林を抜けると、そこには畑があった。


 畑には、同じ葉が一面に生え揃っている。風に吹かれて揺れる葉から、あの香りが漂ってきた。

 畑の中では、アリスとレオと同じくらいの子供の獣人が何人もいた。皆、何かしらの仕事をしているようだ。


 その一角には、納屋と並んでボロ家が建っていた。家の周りには、やはり畑があったが、そこに植わっているのは普通の野菜のようだ。

 王子として育ったアレクサンドルは、本物の畑や、収穫前の野菜などは見たことなかったが、レオ達の家で見た野菜と同じだった。


(あの野菜を、アリスとレオは報酬として貰っていたのか……)


 働いている獣人に見つからないように、林からぐるりと回り込む。家の死角に隠れると、息を殺して中の様子を窺う。

 耳を澄ますとカタカタ物音が聞こえ、人が居る気配があった。


(一人……いや、二人居る)


 アリス達の話通りなら、男と女が居る筈だ。窓がある位置まで移動して、そっと端から中を覗き込んだ。


(な……あれはっ!!)


 室内には、見知らぬ中年男と……スフィアが居た。


 学園で制服を着ていた時とは違い、品の無い薄汚れたワンピースを着ている。追放されたが為に、ボロの服しか無いのかと思った。よくよく見ると、同じ年のはずのスフィアが少し歳をとって見える。


(いくら何でも、この短期間であんなに老けるだろうか? スフィアに似ているが、姉……いや、母親か?)


 窓の隙間に近づいて、二人の話し声に耳を傾ける。


「……まったく! あのクソ公爵令嬢のせいで、今までの苦労がパァじゃない! ガルニエ男爵も役立たずだし! もうっ」


 女は近くにあった花瓶を男に投げつけた。

 男はそれを避けると、花瓶は壁に当たって割れた。破片が飛んだのか、男の頬から血が流れている。カッとなり、男は声を荒げた。


「おい! スフィア、俺や物に当たるな! 痛いだろうがっ」


「ふんっ!」と女は外方を向く。


(やはり……あれは、スフィアなのか?)


「さっさと、傷を治してくれ!」

「分かったわよ! そこに座って」


 スフィアは男の膝に乗って頬を触り、癒しの魔法をかけて傷を治した。


「ねえ、あなた。あの薬はまだ手に入らないの? 最近、効果が切れてきて肌の調子が良くないのよ」


 今度は甘い声で、媚びるように男の首に腕を回す。


「例の媚薬が完成すれば、引き換えにあの若返り薬が手に入る。もう少し待っていろ」


「わかったわよっ。あの国じゃ、媚薬が出来るのが遅くてしくじったけど。もっと強い媚薬が出来れば……こっちの国の王太子は逃さないわ!」


「ああ、来年から王太子は学園に入るんだったな……。それまでに、薬は手に入れるよ。いいカモになる、男爵辺りをさがしておけ」


「ええ、わかってるわ。この光属性の魔力と癒しの力さえあば、直ぐに飛びついてくるわよ。また、学園に入ったら……今度の王太子は、さっさと食べて骨抜きにしてやるわ。そうすれば、私は王妃になれる。ふ……ふふふっ」


 スフィアは、品のない笑みを浮かべ舌舐めずりした。

 

 震える手でアレクサンドルは口元を押さえる。


(……何て事だっ! あれが、スフィアの本性だったとは――。俺は馬鹿だっ! 何も分かっていなかった。あのまま、カリーヌ嬢を断罪していたら……取り返しのつかない過ちを犯すところだった。そして……国が滅びるところだった)


 アレクサンドルは全身が粟立ち、スフィアへの嫌悪で吐きそうだ。


「もうすぐ、あの葉は収穫できるのよね?」

「ああ、全て刈り取ったら足がつかないように、ここは引き上げる」

「ねえ、あの獣人達は奴隷商に売ってしまいましょうよ。子供好きな変態が買ってくれるわ」


 スフィアの一言に愕然とした。本当に最低な女だった。


(くそっ! 時間がない、直ぐに国に戻らなければっ!)


 ――アレクサンドルは、踵を返した。




 ◇◇◇




 急いでアリスとレオの家に戻り、帰る為の支度をする。変装して街へ行き、宝石を売って現金も手に入れた。


 王宮から持ち出しておいた特殊な紙に、アレクサンドルの名前と印を入れる。何かあれば、アリスとレオが、アレクサンドルと繋がりのある者だという証明を作っておく。


「「アレクー! ただいま〜!」」


 ちょうど二人が帰って来て、アレクサンドルの格好を見て驚く。


 アレクサンドルは、二人の肩を掴み真剣に話をした。アリスとレオはいまいち理解が追いつかないようだが、アレクサンドルの真剣な眼差しに頷く。


 そして、用意した証明書に二人の血判を押させて、契約の証拠とした。


「いいか、俺は行かねばならない。あの雇い主には気をつけろ。必ずお前達を助けに戻ってくる……。もしも、その前に収穫時期が来てしまったら。とにかく逃げて、ベネディクト国の国境門へ行って、門番の兵士にこれを見せろ。畑へには絶対に持って行くなよ!」


 換金せず残しておいた宝石と、証明書を袋に入れてアリスに渡した。

 アレクサンドルの正体は言えない。

 何かあって、スフィア達に自白の魔法をかけられたら二人が危険だ。知らなければ、そのままやり過ごせる。


(せめて……この二人を連れて行けたらっ。だが、俺は逃亡者だ……。城に戻るまでは、どんな追手が来ているか分からない。幼い獣人の二人には危険過ぎる……)


「これは、今までのお礼だ。好きに使うと良い。ただし、金がある事は誰にも悟られないように気をつけるんだ」


 大金を渡された、アリスとレオはビックリして目を見開いた。


「俺と関わった事は、誰にも言うな。わかったな」

「「うん! 約束する」」


 ――そして、アレクサンドルは急いで国境門へ向かった。



 

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