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27.獣人の姉弟

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アレクサンドルの続きのお話です。

 足の怪我のせいで、アレクサンドルは熱を出してしまった。ボーッとする頭で考える。


(――あれから、何日経っただろうか?)


 どうやら、あの二人が看病してくれたらしい。獣人の少年はレオ、姉はアリス、7歳と9歳のまだ幼い姉弟だった。

 アレクサンドルは身元を隠す為、アレクと名乗り、言葉使いも荒くして自分を「俺」と呼ぶようにした。


(だいぶ動かせるようになってきたな……。ここに、長居をする訳にはいかない……)


 アリスが出してくれた食事は、雑穀の粥だった。酷い味の粥で、王太子としてずっと豪華な食事をしてきたアレクサンドルの口には――飲み込むのもやっとの不味さだった。


(あの不味い粥でも、あの二人には大切な食料の筈だ。あんなに痩せ細って……一人増えれば、更に生活は苦しくなるだろう)


 アレクサンドルは、換金して使おうと、幾つか宝石も持ってきていた。

 それを渡して、二人に換金するよう渡そうとも考えたが――。なんせ幼い獣人だ。相手が悪ければ宝石だけ取り上げられて、下手したら殺される場合もある。


 だから――。

 動けるようになったら、アレクサンドル自身でお金を手に入れて、二人にお礼として渡すことにした。


 これが自国であれば、この環境をどうにか出来るかもしれないが、ここは隣国だ。宮殿を飛び出し、継承権を無くした他国の王子ができる事など何も無い。


(くそっ)


 アレクサンドルは、改めて自分の無力さを知った。




 ◇◇◇




 アリスとレオは、何処かで雇われているのか、毎日決まった時間に出かけて行く。そんな、帰ってきたばかりの二人に声をかけた。


「何か、俺に出来る事はあるか?」


「アレクはまだ、怪我が治ってないでしょ? 私たち、人間がやっている畑を手伝っているの。同じ年くらいの獣人の仲間がたくさんいるから、平気よ」とアリス。


「見て見て、今日はこんなに野菜をもらったよ」


 レオは嬉しそうにズダ袋に入った野菜を見せた。明るく笑うアリスとレオから、覚えのある匂いがした。


(……っ! この、甘い香りは!)


 アレクサンドルは、逸る気持ちを抑えつつ、落ち着いた声でアリスに尋ねる。


「アリス……その畑では何を作っているんだ?」


「うーん、よく分からないのっ。あまり見たことない葉っぱよ。教えてくれないし、質問した子は叩かれてたから、みんな怖くて聞けないの。でも、終わると食べ物もらえるから、知らなくてもいいの」


 アリスとレオからした匂いは、スフィアがくれた焼き菓子の甘い香り。今なら分かる。砂糖などではない、媚薬の匂いだった。


「その畑の葉っぱを見たいんだが、一緒に行ってもいいか?」

「それは無理だわ。秘密の場所だって言われているの」

「でもさ、アレクが内緒でついて来ちゃえば大丈夫だよ!」


 姉のアリスは契約が気になるらしいが、レオはまだ幼いせいか無邪気に答える。


「いや、無理を言った。ちょっと聞いてみただけだから、行かないよ」


「うん、行かない方がいいわ。見つかったら鞭で叩かれるもの」


(……鞭か。扱いは奴隷に近いな)


 アレクサンドルは、嫌な感じがしてならなかった。

 そして、核心をつく質問をする。


「その、雇い主はどんな人間なんだ? 鞭を持つくらいだと、大きな男か?」


(どうか、違っていてくれ……)


 アリスとレオは首をブンブンと横に振った。


「ううん。普通のおじさんと、可愛いお姉さんよ」

「うん! 可愛いお姉さんの方が、怖いんだよ」


 違っていてほしかった事実を突き付けられ、アレクサンドルは足元が崩れて行く感覚に襲われた。


(真実を、確かめなければならない。その女が、もしも……スフィアだったら?)


 そうなると、スフィアは媚薬をたまたま手に入れたのではない。寧ろ、犯罪に加担した張本人になる。


 アレクサンドルは、それがスフィアではない事を願い――。アリスとレオの跡をつけ、真実を確かめると決めた。



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