表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/80

26.発見

 沙織の魔力は全く減らないようなので、結界を広げたまま先に進んだ。リュカの姿ではない、シュヴァリエと共に。


「この森の出口はもっと先なのかしら?」


 べつに足が痛いわけではない。だいぶ歩いた感があるので、シュヴァリエに確認しただけだ。


「少しだけ明るくなって来ましたので、出口は近いかもしれません。森の先には、獣人が住む村がある筈です」


「……獣人?」


(……うさ耳や、猫耳の美人さんとか暮らして居るのかしら? ――見たいっ!)


「彼らの中には、狩を生業とする者も居ますので。これより先は、くれぐれも足下にお気をつけください。罠が張られているかも知れません」


「罠……」


 そうに言われると、視線はつい足下ばかりに行ってしまう。

 草むらの中を用心深く歩くと、金属っぽい何かが仕掛けられていたのに気づく。獣か魔獣の脚を捕らえる物らしく、上手い具合に隠されていた。


 シュヴァリエは屈み込んで、触れないように注意深く罠を調べる。


「錆も無く新しい物ですね。これは、仕掛けられてから日が浅い罠……なるほど珍しいタイプですね」


「へぇ、珍しい罠なの?」


「はい。耐魔物用の、魔封じの罠のようです。普通の罠は平民や獣人が使うので、鍵は罠本体と同じ金属です。ですが、これは……。コツが要りそうですが、魔力を使っても解除できますね。作った職人は、獣人ではなく魔力のある人間でしょう」


「シュヴァリエ、凄いわ! 見ただけで、そこまで分かるの?」


「私達、影は……特殊な訓練を受けていますので。こういった罠や、毒の知識や耐性もあります。主人を守れなければ、影の意味がありませんので」


(……毒の耐性? つまり毒を摂取していたってこと?)


「影の訓練て、大変そうね……。シュヴァリエって、ステファンと同じ歳なの?」


「影の情報は、詳しく話せないのですが……。私は、自分の年齢を知りませんので、残念ながらお答えできません」


 シュヴァリエは申し訳なさそうに、美しい顔に儚げな微笑を浮かべた。


(自分の年齢も知らずに、只々訓練をしてきたシュヴァリエは――)


 壮絶な人生を送ってきたのだろうと、容易に想像できた。沙織は胸を突かれ、なんて言葉を掛けたらいいか分からない。


 そんな雰囲気を感じ取ったのか、シュヴァリエは困った顔をする。

 そっと沙織の頬に触れ、こぼれた涙を優しく拭ってくれた。無意識に涙が出ていたのだ。


「サオリ様が悲しむ必要はありません。私には……それが当たり前の事ですので、大丈夫です」


「ごめんなさい、嫌なことを訊いてしまって」


 シュヴァリエは首を横に振った。


(そうだ、私が泣くのは筋違いだ。シュヴァリエが、必死で耐えて乗り越えてきたことだわ。可哀想なんて、絶対に言ってはいけない。努力してきた人に同情なんてっ――シュヴァリエに失礼だもの!)


「シュヴァリエは頑張ったのね。本当に凄いわ。これからも、ステファンや私達を守ってくださいね」


 沙織はほほ笑むと、シュヴァリエの鍛えられた傷跡の残る手を握った。

 シュヴァリエは瞠目したが、徐々に目を細める。まるで眩しいものを見るように「ありがとうございます」と言った。




 気合いを入れ直し、他の罠にも気をつけつつ歩みを進めると、草が潰れ横倒しになっている場所があった。

 そこには、開かれた罠が落ちている。


「あら? 何か獲物がかかっていたのかしら?」

「そのようですね。罠に血が……これはっ」


 何かあったのか、シュヴァリエは罠を凝視している。


「これは、魔物や獣の血ではありません。獣人か人間の物ですね。そして、鍵は強い魔力で壊されています」


「……え?」


「強い魔力の持ち主がこの森に入り、仕掛けられた罠を壊したという事です」


 立ち上がったシュヴァリエは、ぐるりと森を見渡した。多分、視力を強化して見ているのだろう。


「サオリ様、あちらに行っても宜しいですか?」

「ええ、もちろん」


 シュヴァリエの向かう方へついて行く。

 すると、泥濘んだ足下の先には急な傾斜があり、下に向かって草が潰れていた。


「何かに足を取られたのか……。誰かが、落ちた形跡ですね」


「もしかして、アレクサンドル!?」


 その傾斜の下を覗くと、森が開けていた。


「まだ、はっきりは分かりませんが。その可能性はあります。念のため、先程の壊れた罠を持ち帰って、ステファン様にお見せしましょう」


「そうね。勝手に森を出て、国境を越えるわけにはいかないものね」


(……あの先には、獣人の村があるのかしら?)


 壊れた罠があった場所まで戻ると、ステファンから預かった収納の魔道具を出す。それに壊れた罠を仕舞い、もと来た道を辿って森を出た。





 予想以上に時間がかかっていたようで、森の外も薄暗くなっている。

 帰りの馬車の中で、ステラが料理人に用意させてくれた、サンドイッチをリュカと一緒に食べた。


 いつの間にか――。


 疲労とお腹が膨れたこともあり、馬車の揺れで、沙織は気持ちよく爆睡していた。


 そんな沙織を、膝の上のシュヴァリエは、温かい眼差しで見上げる。

 森の中で、シュヴァリエの手を握ってくれた沙織の柔らかな手に――リュカの小さな前足は、そっと触れた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ