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19.アレクサンドルの逃亡

お読みいただき、ありがとうございます!

今回は、アレクサンドルのお話で、少し短めです。

 ――その頃。


 アレクサンドルは、暗い森の中をひたすら走っていた。


 軟禁とはいえ……見張りの目を掻い潜り、城の外に出られたのは奇跡的な事だった。


 正直に言ってしまえば、アレクサンドルはこっそり学園へ向かい、セオドアとオリヴァーに力を借りようかとも思ったのだ。

 だがしかし、二人を巻き込めば、彼らを大罪人にしてしまう。悩んだ末、やはり自分だけで行く事にした。


 アレクサンドルは王太子として、有り得ない事をしている自覚はある。

 けれど。どうしても、もう一度だけ彼女に――スフィアに会いたかったのだ。スフィアに会えば、媚薬の力などではなく、本当に彼女を愛していると確信が持てる筈だと。


 アレクサンドルの目立つ外見は、魔法で変えてある。少し長さのあるカールした金色の髪は、短髪の焦茶色に。鮮やかなエメラルドグリーンの瞳も、普通の茶色にした。

 従僕の洗濯してあった服を拝借して、宮廷機関の市井の潜入調査用のニセプレートも持ってきた。


 昼間からずっと走り続けている足は、鬱蒼と生えている木々や草で傷つけられ、もう限界に近い。魔獣も何体か倒したが、大物が出てきたらそこまでだ。

 所詮、学生のアレクサンドルには、実戦の経験が足りない。


(街中の移動だけなら、どんなに楽だっただろうか)


 すぐに見つからないように、敢えて魔獣も住む森を選んだ。


 門番が常駐する国境門は無理でも、ここを抜けさえすれば――国の外に出られる。国外追放を言い渡された者は、必ずその門から放り出されるのだ。二度と入る事を許されず。


(追放されたスフィアは、きっと……今ごろ辛い思いをして旅しているに違いない。早く見つけて、私が助けてあげなければ)


 そう思い、自分を奮い立たせ更に先に進んだ。




「……けて、……誰か……たすけ……て」


 小さな声が、アレクサンドルの耳に入った。


(今のは?)


 足を止めて耳を澄ませる。


「……助けてっ」


 子供の声だった。


 アレクサンドルは、茂みの中から聞こえるその声に、用心深く近づいて行く。茂みの草をかき分けると、尖った耳と尻尾のある小さな子供が、魔獣用の罠に掛かっていた。


(……亜人か?)


 隣国では、亜人を奴隷としている所もあるが、ベネディクト国では奴隷制度は禁止になっている。


(まだ子供だ。助けなければ、魔獣の餌になってしまう……。仕方ない)


 アレクサンドルが罠を魔法で解除すると、子供は安心したのか意識を手放した。置いて行くわけにもいかず、アレクサンドルは子供を背負って、また走り出す。


 暫く走って、もともと限界だった足と、背中に乗った重さで足が縺れてしまった。

「あっ」と思った時には、急斜面を転がり落ち――意識を失った。




◇◇◇


 


 全身の痛みで、アレクサンドルは目を覚ました。


(ここは……どこだ?)


 そこは全く見覚えの無い、ボロボロの小屋の中だった。

 痛みの強い足を見ると、薬草の類がぼろ布で巻かれている。多分だが、誰かが手当をしてくたのだ。


 ギィギィと床が鳴り、人が近づいて来る気配がした。アレクサンドルは警戒し、すぐに飛び出せるように重心の位置を変える。


 開いた扉から、そぉー……っと子供が顔を覗かせた。


 身体を起こしていたアレクサンドルを見ると、ぱあぁっ!と喜びを露わにする。

 さっき助けた亜人の子供だった。


「ねえちゃーん! お兄ちゃんが、起きたよー!」


(……ここは、あの子供の家か?)


 助けた子供と、それより少し大きな女の子。二人とも、狼のような耳と尻尾を生やした亜人――いや、獣人だった。恐る恐るやって来た姉らしき獣人は、アレクサンドルに話しかける。


「弟を助けてくれて、ありがとうございました! 何かお礼をしたいのですが、私たちは何も持っていなくて……」


「……親は居るのか?」


 アレクサンドルの質問に、二人はプルプル首を横に振った。


「父さんは殺されて。母さんは人間に連れて行かれちゃった……。私たちは、ベッドの下に隠れてたから見つからなかったの」


(母親は……やはり、奴隷として連れて行かれたのか)


「そうか。ここはどこだ?」

「弟がいた森を抜けた場所。森の外です」


(ああ、やっとあの森を抜けられたのか……でも、この足だと暫くは動けなさそうだ)


「……お礼など要らぬ。ただ、怪我が治るまでここに居させてくれ」


 二人は嬉しそうに笑みを浮かべ、顔を見合わせる。

 それから「「もちろんです!!」」と声を揃えて言った。


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