表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/80

18.魔法レクチャー

 一頻り、リバーツェの名前を悩んだカリーヌは、結局この場では決められず――。


「明日までに、男の子の名前を決めますねっ!」と、意気揚々と自分の部屋に帰って行く。


 名前をつけるにあたり、リバーツェの性別を確かめようとしたカリーヌを沙織は必死で止めた。どうにか理由を付けて、男の子だと納得してもらったのだ。

 もしも、カリーヌにそんな所を見られたら――ステファンは羞恥で即死だろうから。


「ねえ、ステファン様……。貴方、カリーヌ様のリバーツェ好きをご存知だったのではなくて?」


 沙織は胡乱な目でステファンリバーツェを見た。


『きゅるる……』と鳴き声らしい音をさせて、物陰に隠れる。


(鳴き声も愛らしいけど……。カリーヌが来るまで、ぺらぺら喋っていたし、今さら鳴き声って……)


「シッポ見えてますし、絶対知っててリバーツェになりましたね。ステファン様……策士ですね」


『ごめんなさい……』


 可愛いもふもふが、これでもかってくらい縮こまってしまったので、沙織は許してあげることにした。クスッと笑うとチェストの上に戻す。


「ステファン様。明日から私、魔法の実習があるのです。折角なので、コツとか教えていただきたいのですが?」


 パァッと、クリクリの目に光が戻る。


『サオリ様は、魔法についてどの程度ご存知ですか?』


「全く。今日、授業の座学で齧ったくらいです。私の世界では、魔法は存在していません。御伽噺などではありましたが。その代わりに、科学というもので文明が発達しているのです。ですから、私に魔力があること自体が不思議で……」


『わかりました。根本的なところは座学で習いますので、実技の授業でのコツを教えますね。この部屋では、不味いので……僕の研究室に移動しましょう。お渡ししてある魔道具はありますか?』


(そうだ! お義父様から、ステファンの研究室に繋がる魔道具を貰っていたわ)


 どうやら、制作したのはステファン自身のようだ。コンパクトサイズのそれは、一見すると魔道具には見えない。

 ステファンは一応、学園のどこかに転移陣を敷いているらしく、沙織もそっちを使えなくはないが。女生徒がこの時間に寮を出るのはよろしくない。


 ステラには、ガブリエルから沙織が宮廷を行き来する旨は伝えてあるので、メモを残しておけば問題ないだろう。


 リバーツェステファンを抱えて、言われた通り魔道具に魔力を流すと、金色の魔法陣が現れて吸い込まれた。


 眩しくて一瞬目を閉じたが……目を開けた時にはもう、研究室に居た。

 正面では、普通にステファンが事務仕事をしている。


(あれっ……?)


 腕の中のリバーツェステファンを見た。


「ステファン様、お帰りなさいませ」


(あ、声が違う。シュヴァリエだ!)


『ただいま』とリバーツェステファンは、腕から飛び降りて人の姿に戻る。二人のステファンが目の前に居るのは、なんとも不思議な光景だ。


「こんな時間まで、シュヴァリエはお仕事なの?」

「ステファン様の日常業務をそのまま行っています」


ステファンの仕事は、中々のハードスケジュールらしい。


「シュヴァリエ、悪いがそのまま続けてくれ。サオリ様、こちらに来てください」


 研究室の奥、何も無いスペースに案内される。そこに結界を張って、音や衝撃を外に漏らさないようにするらしい。

 早速ステファンが結界を張ったようだが、見た目には何も変化はなかった。


「では、先ず魔力を練ることから始めます。サオリ様、プレートを見せてください」


 他の人には見せてはいけないと言われていたが、ステファンは別だ。素直にプレートを渡す。ステファンが手で撫でると、プレートの文字が浮かび上がる。


「やはり……メインは三属性です。ですが、サオリ様はそれ以外の属性の物も使えそうですね。多分、プレートの許容範囲を超えてしまった為、表示不可になっているだけです。レベルや魔力量も、同じ理由で表示されてませんね」


(つまり、全てにおいてカンストしたって事かしら?)


「魔法に大切なのは、イメージです。難しい原理や理については時間がないので、授業でしっかり勉強してください」


「……イメージ?」

「はい。身体の中に流れる魔力を感じて下さい」


「流れを感じる? ……うーん、よく分からないわ」


「では、体内を流れている血液のようなものを、イメージしてください。サオリ様ならすぐ理解出来ます」


 瞑目して、自分自身を想像して身体に流れている血管をイメージしてみる。すると、血管の他に何かが通っているのが見える……いや、感じた。


(これが、魔力?)


「魔力……分かったみたいです」

「では、それを手の上に集めて、捏ねてみてください」


(捏ねる? 粘土みたいでいいかしら?)


 やってみると――視覚的には見えないが、掌に何かがあるのを感じる。


「そのまま、そこに水をイメージをしてください。ただし、少量でお願いします」

「少量の水?」


 水をイメージすると、掌に水の球ができた。


「それを、破裂させてください」


(破裂……風船が割れるみたいな?)


 パシャンッと水球は破裂した。


「……すごっ!」

「やはり、サオリ様は筋がよろしいですね。では、他も試しましょう」


 ステファンの指導のもと、その後も風で竜巻を起こしたり、蠟燭をイメージして指先に火を出したり、色々と試してみた。上級になれば、物に能力を付与することも出来るそうだ。


「あの。一つ試したいのですが……」

「どうぞ? やってみてください」


 前にテレビで見た、水圧で物を切るウォータージェットを想像してみた。


(うーん、と。たしか水を超加圧して、小径ノズル……指でいいか。んで、高圧縮された水を噴射――)


 プシュッ――、キイィ―――!! ……パキンッ!


 指先から出た、魔力を含んだウォータージェットは、ステファンの結界を破壊してしまった。


「あっ……壊れちゃった。ご、ごめんなさい!」


 パラパラと、透明な結界の破片が落ちていく。足元には結界の残骸が……。

 愕然とするステファン。仕事中だったシュヴァリエも、こちらを見て唖然としている。


「結界……かなりの強度で張った筈だったのですが。ちょっと、心が折れそうです……。これだけ出来れば、明日の授業は大丈夫でしょうから。……帰りましょうか」


 肩を落としたステファンがそう言った。


(なんか、ごめん)


 そして、シュヴァリエに挨拶し、リバーツェに戻ったステファンを抱えて寮へと帰った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ