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10.学園へ

 沙織は学園へ向かう馬車の中で、鞄からノートを取り出した。

 そして、スチルを思い出しつつ、書き出したノートを確認する。



 ◇



乙女ゲーム ヒロイン攻略対象(お菓子を食べたかの有無)


 ①アレクサンドル・ベネディクト王太子(有)

 ②ガブリエル・アーレンハイム公爵 (無)

 ③ミシェル・アーレンハイム公爵令息 (無)

 ④デーヴィド 優しい教師風(?)

 ⑤セオドア 眼鏡インテリ風(?)

 ⑥オリヴァー マッチョ騎士風(?)


現時点 攻略対象外

 ⑦ステファン 魔導師 (無)

 ⑧シュヴァリエ 影 (無)


その他の登場人物

 悪役令嬢…カリーヌ・アーレンハイム公爵令嬢

 元ヒロイン…スフィア・ガルニエ男爵令嬢

 光の乙女…私



 ◇



 攻略対象の残りの人物――デーヴィド、セオドア、オリヴァーの風貌とファーストネームは何となく思い出せたが。ラストネームや親の爵位は分からなかった。


(うーん。まあ、会えば挨拶するだろうし……カリーヌ様に教えてもらおう)


 馬車の中には、沙織の他にステラが乗っている。


 ガブリエルは、昨日のアレクサンドルとのやり取りで、色々と王宮でやらなければならない仕事が山積みだった。

 そのため、学園へ付き添うことが難しくなったのだ。義父として付き添いたかったみたいだが、こればかりは仕方ない。


(取り敢えず、手続きは済んでいるから問題ないし)


 学園には寮があり、生徒は全員そこに入らなければならない。高貴な身分の生徒は、侍女や従者を連れて行くことが可能だ。ちゃんと、側仕え用の部屋も用意されているのだとか。

 沙織にはベテラン侍女のステラがついて来てくれているので、寮生活も心配はしていない。



 車窓から、大きな門と立派な建物が見えてきた。


「あれが、学園……」

「はい、王都フォンテーヌ魔法学園でございます」

「……フォンテーヌ魔法学園?」


(いかにもなネーミングセンス……。さすがファンタジーな世界だわ)


 沙織の通っていた高校とは全く違う、真っ白で西洋のお城のような外観。魔法学園という名前がピッタリだった。

 門番に入園許可書を見せ、馬車は門の中へと入っていく。


 少し緊張しつつ、ガブリエルに言われた内容を思い出し、頭の中で復唱する。


(私は、友好国へ嫁いだガブリエルの妹の娘)


 つまり、ガブリエルの姪の設定だ。


 勿論、許可は取ってある。カリーヌ大好き叔母様は、二つ返事で設定を了承してくれたらしい。


 その嫁ぎ先の友好国は、この国では忌避感がある黒髪も多いらしく、沙織のような見た目も珍しくないそうだ。友好国の内情を訊かれても、「条約に引っかかるので話してはいけないと言われている」と答えるよう言われた。全く知らない国のことなんて、沙織が答えられる訳がないからだ。


 そして、ステータスプレートは決して他人には見せてはいけないと、何度も念押しされた。学園や役所で調べて見られる部分は、名前、性別、年齢、属性まで。全てを見るには、プレートに本人の魔力を流さないとダメらしい。犯罪者に限り、全て開示させる手段があるらしいが。


 大きな寮の玄関に着くと、ようやく馬車は止まる。外には、見覚えのある人物が。馬車の到着を、沙織の義弟になったミシェルが待っていた。


 カリーヌと同じ色の美しいブロンドに紺碧の瞳。カリーヌのウェーブヘアと違って、こちらはストレートのボブスタイル。顔立ちはガブリエルによく似ている。ガブリエルの青味がかったプラチナの髪は、どちらも似なかったみたいだ。


 馬車の扉が開くと、ミシェルはエスコートしてくれる。こういう所がスマートなあたり、やはり公爵令息だ。


「サオリ姉様、お待ちしておりました」


 ニコリと笑みを浮かべるミシェルに、気が引き締まる。ミシェルは、この学園でカリーヌを守る唯一の味方だ。見事なシスコンも、却って安心感を与えてくれる。


「ミシェル、ありがとう存じます」


 ミシェルの義姉らしく、品良く微笑み、しっかり習った優雅な立ち振る舞いと言葉使いをする。

 一瞬、ミシェルは驚いたのか眉を上げたが、すぐに表情はもどる。


(よし……! 及第点は取れたみたいだわ)


 先ずは、ミシェルに連れられ学園長室へ向かい、プレート提示の最終的な本人確認が行われるそうだ。今回、付き添うミシェルは、ガブリエルの代理も兼ねている。


 二人で長い廊下を歩いていると、チラチラと視線を感じた。今は休み時間のようで、学園の制服を着ている生徒がたくさん居た。

 ただでさえ、私服の沙織は、髪や眼の色もあり相当目立つ。耳を澄ますと、ミシェルが連れているのがカリーヌ以外の女性ということも、令嬢達の興味を引いたようだ。


 そんな中、二人の女生徒がこちらに向かってやって来る。リボンの色が、ミシェルのタイと同じ色だ。


(ミシェルの同級生かしら?)


「ご機嫌よう、ミシェル様」

「……やあ、ディアーヌ嬢にジュリア嬢」


 こちらからしか見えない角度で、ミシェルは明らかに面倒そうな顔をした。


 ディアーヌと呼ばれた女生徒は何だか大人しそうで、勝気そうなジュリアの後ろにくっついている感じだ。ディアーヌは、チラチラとミシェルと沙織を交互に見ていた。

 反対に、ジュリアは沙織をガン見する。黒髪黒眼が気になるのだろう。


「ミシェル様、こちらの方をご紹介いただけますか?」


(ああ、この二人はミシェルが好きなんだ……。そりゃ、気になるよねぇ)


「なぜ、紹介しなければならないのかな?」

「「…えっ?」」


 まさか断られるとは思っていなかったのだろう。ディアーヌは青く、ジュリアはカッと赤くなる。

ミシェルは、本当にカリーヌにしか興味が無さそうだ。この二人が、何だか可哀想になってきた。


「ミシェル、私もこちらのお嬢様方を紹介してほしいわ」


 沙織は二人に優しく微笑んだ。


(女の子に意地悪してないで、さっさと済ませてよ)


 そう含んだ視線でミシェルを見ると、意図を察したらい。


「(はぁ……)こちらは、僕の同級生のディアーヌ伯爵令嬢と、ジュリア子爵令嬢です」


「私は、ミシェルの義姉のサオリと申します。本日より、この学園に編入いたします。学年は違いますが、ディアーヌ様、ジュリア様、仲良くしてくださいませ」


 そして、これでもかってくらいのお嬢様スマイルを二人に向ける。なぜか、ポッと二人は赤くなった。


(……ポッ?)


「「よろしくお願いいたしますっ!!」」


 勢いよく返事して、二人は去っていった。


「ねえ、……これで、良かったのよね?」

「まあ、(僕的に)問題ありません」


 ミシェルの含みがある言葉は気になったが、そのまま学園長室に向かった。


 学園長は、中肉中背の普通のおじさんだった。本人確認も、難無く終わり手続きが終了した。


 ――そして、担任がやって来た。


 


 




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