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限界突破0回目(2)

「ここがキミの戦うフィールドよ」

「…………ちょっと待って、フォルトゥナ」


 僕は今どこにいるんだ? ここはどこ、なんていう記憶喪失の定型文みたいなことが実在するってことを今ようやく知ったよ。


「ん? どうしたのリョーくん?」

「あんたはなんでいつもそんなにいきなりなんだよ!? 説明をしてって僕言ってるよね?」

「ゲームをプレイしている人ならすぐわかるかなぁーって思ったんだけど、ダメ?」

「ダメです。説明してください」

「えー、めんどいなぁー」


 この女神様、神界に返品してくれようか。


 僕はフォルトゥナをジロリと睨む。もっとも、僕は自覚できるほど顔に迫力がない。睨んだところで子供がふくれっ面しているのと大差ないだろう。


「限界突破をするにはドッペルゲンガーを倒す必要があるって言ったでしょ」

「それは聞いた」

「で、ここがその舞台」

「……論理が飛躍してる。もっと、く・わ・し・く」


 えーいいじゃんそれでー、という戯言は右耳から左耳を華麗にスルーして退場いただこう。


「もぅ、リョーくんそんなんじゃモテないよ?」

「モテ……! い、今そんなこと関係ないだろっ!」

「そういうとこだよ。男は黙って行動で示す。私、良いこと言ってない?」

「良いことを言っていたとしても、それは僕が、今、聞きたいことじゃない。話を逸らさないで、ちゃんと説明してってば」


 まだブツクサ言うかこの女神様は。どれだけ説明したくないんだよ。まったく……


「わかったわよ。そんなにカワイイ顔で見つめて私を困らせないで」

「男はカワイイと言われてもよろこばないことを教えて差し上げよう」

「そうなの? 男の子だってカワイイって言われてうれしいと思ったんだけどなぁ。リョーくん本当にカワイイし」

「だーかーらー、話を、僕の話を聞いてくれー!」


 なんでこんなに話が通じないんだ。噛み合って僕たちの会話! お願いだから!

 僕はガクッと肩を落とす。背負っていたリュックがガンっと後頭部を打つ。

 ……背負った、リュックだ、と?


「これは……どうして僕はリュックなんて背負ってるんだ?」

「だから、ここが戦いの舞台だからよ。リュックだけじゃないわ」


 フォルトゥナに言われて僕は自分の姿を確認しようとする。そういえばいつも着ている私服や学校の制服とは全然違う感触だ。気づかなかった。

 僕はゲーム的に解釈すると旅装束になっているようだ。フード付きマントと厚手だけど動きは阻害しないジャケットとズボン。大きなリュックはかなり重い。中身はなんなんだろう。靴は登山で使うようなしっかりとした造りで硬めのものだ。革の手袋までしている。腰には立派な鞘が取り付けられていた。


 全体的に確認してみた感想。これじゃあまるで僕が僕じゃないみたいだ。


 フォルトゥナは僕のしっかりとした格好と異なり、部屋で見たときと変わらない。純白の薄衣をまとっているだけだ。ただ、足は地面からちょっとだけ浮き上がっている。こういうのを見るとフォルトゥナが女神様なんだなってよくわかる。


「僕のこの格好に意味はあるの?」

「んー、どうだろう? 戦いの舞台で私服だと危なくないかなぁと思って私がそれっぽい格好に設定してみただけだし」

「設定……?」

「そう、設定。設定といえば、あっ、そうそう。リョーくんってそういうの好きそうだと思って髪色は金髪にしておいたわ」

「きっ、金髪ぅー!?」


 鏡、鏡、鏡はないのかここには!?

 僕は自分の髪の毛を掴んでみたがそれでは色がわからない。そこで、腰の鞘に思い至る。鞘があるなら剣があるはずだ。僕は柄を握り、鞘から剣と思しきものを抜き出してみる。僕が思ったとおり、鞘から現れたのは立派な諸刃の剣だった。抜身の刀身がキラリと太陽を反射する。思ったよりも重くないんだな、剣って。

 その剣を横向きにして自分の姿を写してみる。


「………………本当に金髪じゃないか」

「どう、気に入った?」

「黒髪がいい」

「えー、似合ってるのにぃ」

「黒髪がいい」


 僕は無表情で繰り返した。僕は目立つのはあまり好きじゃない。学校でもあまり目立つようなことはしていない。良く言えば真面目、悪く言えば平凡。可もなく不可もなくの人生だ。


「黒髪がいい」


 だから、こんなチャラい金髪は好きじゃない。黒髪、中肉中背、イケメンでもなければブサイクでもない。平々凡々がちょうどいい。


「わかったわよー。えーん、せっかくカッコよくしてあげたのにぃー」


 フォルトゥナはチラチラと僕の顔を盗み見る。意趣返ししないかなぁ、やっぱり金髪のほうがカッコいいかもって思わないかなぁ、さっすがフォルトゥナって言ってくれないかなぁ……と僕がそう言わないものか変に期待しているようだ。そんなこと言うわけない。ぜったいに嫌だからな、金髪なんて。


 僕が頑として譲らないものだから、フォルトゥナは渋々といった様子で僕の『設定』を変えて黒髪にしてくれた。金髪ショックで危うく忘れかけるところだったが、この『設定』というパワーワードもちゃんと説明してもらわないとな。

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