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限界突破3回目(2)

 僕は自分の部屋にいきなり移動したことをもう驚かないようにした。


「帰ってこれた……」

「おかえりなさい」


 フォルトゥナが僕のベッドに腰掛けている。おかえりなさいって……。


「た、ただいま……?」


 合っているのか、この挨拶??


 僕は服装が私服に戻っていることに気が付いた。今の今まで着ていた旅装束はどこへ行ってしまったんだ? 結局なにが入っていたのかわからないままのリュックも背負っていないし、丈夫でかなり役に立った登山靴のように硬い靴も履いていない。室内だから靴なんか履いてなくて靴下だ。手袋も剣もない。


 そっか……帰って来られたんだ。改めて実感する。ここが僕の住む世界だ。


「リョーくんが説明をほしがるから、ちょっとだけ説明しておくけどね」


 まるで僕がそうすることがおかしいことのような前置きをしつつ、フォルトゥナが僕の目を見つめる。それだけで僕の心臓が不規則なリズムを刻む。


「現実世界でも戦闘の舞台でも、リョーくんのドッペルゲンガーは同じように存在しているわ」

「えっ! あの世界だけじゃないの!?」

「さっきも言ったけど、リョーくんが普段住んでいる世界――つまり今のこの世界と戦闘の舞台は表裏一体よ。街中でいきなり剣を振るったり魔法を使ったり、あまつさえ命のやり取りをするわけにはいかないでしょ?」

「……そりゃ、そうだよ。そんなことをしたらすぐに逮捕されるじゃないか」

「そうならないような特殊空間だと思ってもらえればいいわ。似ているけれど世界の理が違う。レギュレーションや限界突破のような不文律があるのはそのためよ」


 異空間だとはわかっていたけど、ゲームみたいな世界観の異世界のように思っていた。まさか、現実世界に被さった特殊空間だったとは。マンガとかによくある人払いの技とかのことだろう。


 でも、それだと仮に僕が死んだ場合、それが特殊空間であっても現実でも同時に死ぬってことか? ……思ったよりも厄介な状況にあるんじゃないのか、僕は。


「重ねようと思えば特殊空間をもっと今の世界に寄せることもできるわ。つまり、ほんのちょっとだけ認識をズラす程度? でも、そこまで重ね方を弱くすると結局リョーくんが目立つことになって困るだけだと思うわよ。リョーくん、目立つのイヤなんでしょ?」

「つまり、僕の知り合いがウロチョロしている状況で戦うことになるって話だよね? 嫌だよ。それは目立つ中でも最悪な悪目立ちじゃないか。どんなコスプレ野郎だって思われるのはさすがに嫌だ」


 僕がなにもない空間に向かい、雄叫びをあげながら剣をブンブンと振り回している姿を客観視点で想像してみた。……遠巻きに眺めて、スマホで写真撮って、SNSに投稿しようかどうか迷っていることだろう。きっと、誰か他の人が通報してくれると思ってそのまま帰路につくんじゃないかな。


「さっきと同じでいいよ。そのほうがゲームっぽくて割り切りやすいし」


 影響度合いによっては現実世界へ干渉する可能性があるのは厄介だ。僕がなにかを壊したらもちろんそのなにかは壊れる。現実世界との関わり合いを強くすれば、僕の剣で誰かを傷つけることもできてしまう。通報をされれば警察に捕まるのは時間の問題だ。僕はただ、僕のドッペルゲンガーを倒しているだけなのにも関わらず。


「私が設定した舞台はドッペルゲンガーと戦うには最適だと思うわ。今よりも隔絶を強くすればもっと地形を少なくすることもできるわよ?」

「荒野じゃなくて草原とかになるの?」

「ううん」フォルトゥナが首を横に振る「ただの真っ白な空間になるわ」


 それは僕の精神が崩壊しそうだ。ダメだろう、そこまでなにもかもをなくしちゃ。


「でもそれだとリョーくんの精神が保たないわ」


 だろうね。


「無の空間はとても危険よ。人がまともで居られる場所じゃないわね」

「フィールドが荒野で良かったよ。戦うためにそれなりに動かないといけないのがネックだけどね」


 落ち着いてきたら僕はなんだか体全体が重たく感じてきた。ベッドに横になりたい。でも、そこはフォルトゥナが座っているのでなんとなく行きづらい。


「しかし、今日は本当に疲れたなぁ」

「リョーくんもしかして寝たい?」

「うん……できれば」

「じゃあ、どうぞ」


 どうぞ、じゃない。


 なぜフォルトゥナもベッドに入ろうとする。横たわった姿が艶めかしい。掛け布団を持ち上げ、そこにできた空間に僕を誘い込んでくる。素直に入ることができたのなら、僕はどんなに幸せな男だったろうか。


「……いいよ、ここで」


 僕はローテーブルの椅子というか座布団として使っているもふもふのラグに横になった。


「えー、いいのにぃー」


 いいのにぃー、じゃない。


 フォルトゥナが眉毛を困ったように歪めて頬を膨らませていたが、僕はくるりと反転してフォルトゥナに背を向けた。とにかく疲れが酷い。とりあえずゆっくりと寝させてほしい。


 ――あんな場所じゃ、絶対に安眠なんかできっこない。

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