第九話「敵と味方」
ーちょっこり解説ー
・無詠唱魔法
無詠唱魔法魔法は詠唱魔法とは違い何も言わずに発動し妖精などの類いも必要ない一般的な魔法。技術によって差が大きく生まれる魔法でもあり威力などのコントロールも大事になってくる、可能性の幅が一番広いとされる魔法。
あひる達が街の人たちから逃げている途中一人の少年と遭遇した、その少年の右おでこには一本の黒色の角が生えていた。
「ま......まさか......魔族?!」
少年の頭についている角は魔力を帯びていることをあひるは気付いた、あひる達の目の前にいる少年は間違いなく魔族だと確信できた、少年は気付いてフードを再び深々と被り、あひる達に背を向けて逃げるように走り去っていく。
「あ! ちょっと待って!」
ぽこは少年を追いかけた、あひるもぽこに続き追いかけていった、少年は想像以上に足が早くなかなか追いつけない、路地は入り組んでいて見失いそうに何度もなった、少年が足を止めてようやく追いつくことができた。少年は路地の奥をずっと向いている。
「やっと追いついた! ちょっと君?」
「ねぇ、その子何か様子がおかしいよぽこちゃん」
少年をよく見てみると体が微かに震えていた、すると少年の奥の道から何者かが近づいてくる気配をあひる達は感じ取った、その気配は人間が発する気配ではないと直感した。
「この気配は......」
ぽこは静かに収めていた剣に手を掛けた。
「今度は逃がさないぞ......シルルク」
そこに現れたのは頭に二本の黒い角が生えた人だった、魔族だ。
(魔族!? なんでこの街に、どうやって? いや、そんなことよりどうする)
「ん? そこにいるのは、魔法使いの女の人とリゼア部隊長さん? しまった侵入がバレちゃったな、ついてないなーどうしようかなこれ」
「どうするのぽこちゃん!」
あひるは小声でぽこに話しかけた、ぽこはずっと魔族を睨み続けていた、あひるはその様子を見て手に持つ杖を強く握りなおした。
「どこまで追ってくるつもりなんだ」
少年は微かに震えながらも威嚇するように言葉を発する。
「まぁ一応上からの命令だし、お前の存在はやっぱり俺らの中じゃ邪魔なんだと、だからその邪魔は絶対消さなくてはならない」
その言葉で少年はほんの少し後退りして戦闘態勢に入ろうとしていた。
(まさか戦うつもり!? こんな街中でやり合ったらまずい!)
微量のオーラを放つ魔族は懐からカードを数枚取り出した、そのカードには魔法陣が書かれていた。
「あひるちゃん! 逃げるよ!」
「うん!」
カードの魔法陣を発動しようとしているその瞬間にあひるは風魔法で相手に暴風をぶつけた、そして相手を少し怯ませることに成功した、その怯んだ一瞬でぽこは少年の手を掴み、あひるの近くへすぐに移動した、相手は風の中でも強引にカードを投げ魔法陣を発動し、そしてそのカードは爆発を起こした、その瞬間、ぽこが即座に氷の壁を作り二人を爆発から守った。
「ちょっと荒っぽくなるよ!」
あひるは強引に風魔法を発動し少年を含める三人をその場から離れるようにまとめて空へ吹き飛ばした。
「うわあああああああああああ!」
あひる達が飛んでいくのを攻撃した魔族は見ているだけだった。
「逃げられちゃった、まあいっか」
あひる達は街の上を高く飛び、そのまま街の外まで飛んでいってしまった。このままだと地面に直撃するという所であひるは再び風魔法を使用し安全に着地した。
「ふ〜危なかったね〜、ナイスコンビネーション!」
「ほんと死ぬかと思った......あひるちゃんのおかげもあってなんとかなったね、ありがとう、それでーそこで伸びてる人はどうするの」
ポコが指を刺したところには一緒に飛ばされた角の生えた少年がうつ伏せに倒れていた。
「結構勢いよく飛ばしたから気絶しちゃったのかな、どうしよう」
「とりあえず私は街に戻って団長に街に魔族が現れたってことは報告しに行ってくる」
「この子は? どうするの」
「街の外に出したし魔族でも今回は報告しない、あひるちゃんはここでその倒れてる人を見てて、もし起きたらさっきの魔族のこととか聞いてみて」
「わかった、行ってらっしゃい」
ポコは振り返り街の方へ走っていった、その数分後、一本のツノが生えた少年はゆっくり目を覚ます。
「こ、ここは......」
一本の木の木陰の下に少年は寝ていた、少年は体を起こしちょっと混乱してる中状況を把握しようとする、すると背後から声が聞こえた。
「あ、やっと起きた」
振り向くとさっき自分を追いかけてきた人間、あひるがいた。
「おはよう、元気?」
少年は驚き、すぐにあひると距離をとった、すごく警戒しているようだった。
「待って! 別に攻撃したり捕まえようなんてことはしないから! 安心して?って無理かな?」
あひるは杖を地面に置きある程度距離をとって無害を主張したが、警戒は取れずずっと睨んできている。
「そう言って騙してくる奴を知ってる」
「あぁ、まぁそうかじゃあ質問に答えて欲しいんだ、君のことじゃない、君に攻撃をしてきた魔族のことについて」
「あいつの? なぜ」
「今あの魔族は街にいる、このままだと街に被害が出る可能性があるの」
少年は少し考えている様子。
「わかった、質問は答える、一応助けてもらったし......」
「ほんと!? やったありがとう!」
「!?......止まれ! 動くな!」
「あぁ、そうだった」
(なんだこいつ、訳の分からない行動ばかりする)
「それで質問ってのは」
「あ、そうそう、あの魔族のこと詳しく知らないかな目的とか」
「あいつの名前はゼル、見たと思うけど魔族だ、あいつの目的はこの俺を殺す事」
「君を殺す? 君も魔族じゃないの?」
「確かに俺は魔族だ、このツノがその証」
少年は頭の右側にある一本のツノを指差す。
「あいつの目的は僕だから街で暴れたりはしない、逆に一人でこの国に攻めるって言う方がバカだよ」
「同族である君がなんで殺されかけてるの、仲間じゃないの」
「その質問は俺に対する質問だあいつとは関係ない」
「そうだね、ありがとう、それだけ知れたのは大きいよ」
「それじゃ俺は逃げさせてもらう、ここにいたらまらた見つかるし、あの剣士が来たら厄介そうだし」
少年はその場から立ち去ろうとしたときあひるはとっさに手を前に出した。
「待って!」
その一言で少年は足を止めた。
「なんだ、やっぱり捕らえるか、殺すか」
「ちがう! 目の前の人が殺されそうになってるって言うのに見過ごせない! 助けたい」
「......はぁ?! 何を言ってる! 俺は魔族、お前ら人間の敵だ!」
「周りがこの状況どう思おうと私には関係ない、私はあなたがすごく助けを求めてる顔をしているから、だから君を助けたいと思って言ったし、それに君からは敵意を感じない」
「わからない、お前が俺のことを助けてもお前には得がない」
「得とかそんなの関係ない、君は私にどうして欲しい?」
その後のしばらくの沈黙の少年は考える。
「俺は......」
(なんでも一人で抱え込むのはよくないわよいつだって人に頼ってもいいの)
その言葉が少年の頭の中によぎった、少年は拳に力を入れ歯を食い縛りそして爆発するように言った、自分の気持ちを。
「助けて......助けてくれ! 俺をこの呪縛から解放してくれ!!」
すると突如少年の背後にある茂みの中から黒いオーラを纏った狼が少年に飛びかかってきた。
「危ない!」
あひるの足がとっさに走り出す、少年は防御体制を取ろうとするがこのままでは間に合わない、あひるは杖を拾い空気を圧縮して放つ、その魔法は狼に直撃し軽く吹き飛ばした、少年は体制を崩して尻餅をついた。
「大丈夫?」
「あ、あぁ......」
あひるは少年の前に立ち狼から守る態勢になる、狼のような魔物の赤く鋭い眼光であひるを睨みつけてきている。
「魔物も君のこと襲ってくるなんてね、魔族って魔物を使役できるんじゃなかったの?」
「あるけど魔物は力が強い方の言うことを聞く、だから俺の力以上の力を持った魔族が使役していれば、俺はこの魔物は使役できない」
「なるほど、じゃあこの魔物はさっきのゼルって言う魔族の命令で来たってことね! なら容赦しないよ!」
周辺の風が強くなっていく、あひるは杖を両手で持ち剣のように構えた、そして杖を勢いよく振り上げた、その瞬間、強い上昇気流が発生した、狼達は上昇気流に耐えきれずそのまま空中へ飛んだ。
「いくら狼でも空中では鈍いよね! 滅消却炎!」
あひるが杖を空中に飛ばした狼に向ける、すると杖の先端からビーム状の炎が放出された、狼達は空中で身動きが取れず避けれるはずもなく、三体に直撃した、直撃すると爆発を起こし魔法が止まったときには狼は跡形もなく燃やされていた。
「強い......」
あひるは地面で座ってる少年のところへ行き右手を差し出した。
「君の願い、引き受けたよ! 君の呪縛を私が解放すると約束するよ」
「いいのか? そんなすぐに約束だとか、魔族は強い、いくらお前が強くても簡単には勝てない」
「そんなのやってみないと分からないよ、それに仲間もいるし」
「仲間......そうか、約束だぞ」
少年は差し伸べられら手をしっかり掴んだ、あひるはつかんでくれた手を引き、立たせた。
「それじゃよろしくね、あとお前じゃなくてあひるっていうちゃんとした名前があるの!」
「わかった、あひるか、変わった名前だな、僕はシルルク・アーガストだ」
「それじゃシル君だね!」
「し、シル君?......」
「シルルクってなんか長いから、だからシル君」
「長さ変わってないと思うけど」
「細かいことは気にしない! あ、そうそうぽこちゃんがもうそろそろ帰ってくるからね」
「あの剣士か......」
「多分大丈夫だと思いたいけど、兵団の人間だからな〜、魔族の恨みは持ってるだろうし
「安心して、別にそこの子にひどいことはしないよ」
突然木の裏から腕を組んでぽこが現れた、シルルクは咄嗟に警戒体制に入る。
「うわぁ! ぽこちゃんいたの!? いつから!」
「あひるちゃんが魔物と戦い始めてくらいからかな」
「じゃあさっきの話聞いてたよね」
「そこの魔族を助けるってのでしょ?」
あひるは小さく頷いた。
「いいよ、それ、手伝う」
「ほんと!?」
「ただし! 私はちょっとした手助けをするだけ、魔族を助けたってなったら私の居場所なくなっちゃうかもしれないから」
「それだけでも助かるよ! ありがとう!」
「うん、でそこのシルルクって言ったっけ? 本当だったら捕まえてるところなんだから、あひるちゃんに感謝しなよ?」
「あ、あぁ」
「それで、街にいる魔族のことはどうなったの?」
「まだ目撃情報は入ってない、今は町中で兵が捜索してる」
「そう、その魔族はどうやらシル君だけを狙ってるみたいで、おそらく街には危害を出さないって」
「確信はあんまり持てないけどだとしたら向こうからこっちに来るって可能性があるわけね」
「それと魔族には同族の魔力をある程度感じ取る能力が備わってるんだ、だからちょっと近付いたら気付くことができる」
「じゃああの魔族にもそれがあるってことね」
シルルクは軽く頷いた。
「ここからどうしようかなぁ、シル君を連れて街に戻るのも危険だしな〜かと言って何も言わずに遠くに行くのもなー」
あひるは顎に手を当て首を傾げながら悩む。
「逆に兵団のところの方が安全なんじゃない? そうすれば騒がれたくないあいつからしたら下手に近付くことができなくなるだろうし」
「道中は危険だけどその方がいいかも、シル君はそれでいい?」
シルルクは少し不安そうだったが頷いた。
「大丈夫安心して、なんとかするから」
「また魔物が来る前にさっさと移動しちゃおう」
三人はその場を動き再び街を通り兵団へ戻ることにした、まず最初に訪れる関門は、街の入り口である門だ、門には兵が数人配置されていて街に入る人に検問をしている。
「出来れば門は避けたいけど、かと言って壁を登ると兵に見つかってしまう、だったら正面突破しかないか」
「ねぇ、シル君はどうやって街に入ったの?」
「商人の馬車に隠れて入った」
「商人の? はぁ、もっと厳重に荷台を確認させる必要があるなー」
「じゃあ君はあひるちゃんの後ろについて行って検問はなんとかする」
三人はぽこを先頭に門へと向かう、門にたどり着くと一人の兵がぽこによってきた、他の兵は別で検問をしている、シルルクはフードを深く被り角を見えないようにした。
「ぽこ隊長お疲れ様です! お出かけなされていたんですね」
「お出かけというよりか警備かな、あのことはもう聞いてるでしょう?」
「あ、そうでございましたか、勘違いをしてしまい申し訳ございません、現在街中に兵を配置し捜索にあたっています、今のところはなんの手がかりも見つけれてない状態です」
「そう、わかった教えてくれてありがとう」
「滅相もございません、ところでそちらにいる方はあひる様でいらっしゃいますね?」
「私!?」
あひるは少し緊張して硬くなっていたため突然呼ばれて驚くと同時に大声も出てしまった。
「活躍のほどは聞いております、兵団への協力ありがとうございます」
「いえいえ、私が勝手に参加しただけですから!」
「そうでございますか、おや? そこのお子さんは?」
シルルクの方へ注目が入ってしまった、シルルクはよりあひるの後ろに隠れた。
「外の警備中に迷子になってたところを見つけてね、これから兵団本部まで行って保護するところ」
「そうですか、街にはまだ魔族がいるやもしれません、お気をつけて」
「ありがとう、あなたも門番頑張って」
「はい!」
少し焦ったところもあったが、そこはぽこの隊長という肩書に助けられた、第一関門はこれで越えることができた三人はそのまま大通りを通りそのまま兵団本部がある城の方へ足を進める。
「さっきの門番さんすごいぽこちゃんを慕ってるみたいだったけど」
「ああ、あの門番さんは私が隊長になった頃にあそこに配属された人でね、あの人が魔物に襲われそうになったところを助けたら、あんなに慕ってくれるようになったの」
「へ〜、あ、そうだシル君、何か反応する?」
「今のところは何も感じない、というか逆に静かすぎる気がする」
「静かすぎるほど? じゃあ街を離れたのかな」
「そうだったら嬉しいけどね」
街の人たちがちょくちょくあひるの方を見てくる、だがさっきみたいに駆け寄ってくる気配が薄いのは三人には助かっていた。
大通りを一直線に進んでいくと思ったよりあっさり城前まで来れた、城の門番はぽこたちを顔パスで通し、そのまま三人は兵団本部のあひるの部屋を目指す。
「よし、あと少し!」
駆け足で移動していると廊下の角から人が来たのだ、ぽこは危うく衝突するところだった。
「あぶない! ってぽこ隊長じゃないですか、どうしたんです? そんなに急いで」
角から現れたのはまさかのリゼア部隊副隊長のレイだった。
「レイ!? あ、あーいやーそのー」
「あ、あひるさんもいるじゃないですか! あれそこの子は誰です?」
「え? あーこの子? この子は街外で迷子になっているところを見つけてね、街の中はまだ魔族がいるかもしれないからこっちで保護をして、親を探そうってー感じだね」
「迷子ですか、よかったら探してきましょうか? この子の親御さん」
「え? あーいや! そんなわざわざこっちの仕事やらせるわけにはねぇ」
「魔族捜索に参加するのでそのついでにはなりますけど探そうかと思ってたんですけど」
「いいの! 最近レイちゃん働き詰めじゃん? ね?」
「そうですか、分かりました、それでは捜索に行ってきますね」
「うん、行ってらっしゃい気を付けて」
多少引きつった笑顔で見送った、その後三人はほっと一息ついた、その後無事バレることもなくあひるが使っている部屋へ戻ってきた。
「はー! なんとかついた〜」
「お疲れさま〜、助かったよ〜もう緊張で心臓止まるかと思った」
三人とも一安心し、ぽこは椅子に座った、シルルクはフードを外し角を出した、あひるはその角を見てふと疑問に思ったことをシルルクに言った。
「ねえシル君、シル君の角ってゼルより小さいよねなんで?」
「何でってまだ魔族としては幼いからな、小さいのは当たり前だ、どんな生き物でも同じだろう」
「ふーん、そうなんだ」
するとシルルクのお腹からお腹が空いた時に発生する現象が起きた。
ぐー。
「っ......!」
「今お腹鳴った?」
「いや、鳴ってない」
「ちなみに聞くけど最後に食事したのいつ?」
「昨日の朝に人間がおっことしたパンを食べた、その後はゼルに追われて余裕が無かった」
「はぁ......ぽこちゃん、キッチンってどこにある?」
「え? 出て右に進んで突き当たりを左に行った奥だけど」
「わかった、ありがとう」
あひるは自分の荷物を持ち部屋を出た、シルルクはただじっとしてるだけだった、あひるはぽこの言っていた経路を通りキッチンに向かいたどり着いた、あひるは両開きのキッチンの扉を勢いよく開けた、すでにキッチンで料理をしていた兵団の料理人が全員あひるの方を一斉に振り向く、しかしあひるは他の料理人を気にもせず、荷物をドサっと置き、手を腰に当てて考える。
「さーて何作ろうかなー、そうだ! あれ作ろう!」
あひるは何か思いつき荷物に入っている食材を取り出し料理を始めた、料理人はただ呆然と立ちつくしている、後にこのできことを料理人の間で、風炎の再来と言われた。
料理を完成させたあひるは完成した料理を持ってシルルクのいる部屋へ向かった。
一方部屋では......
「なあ、何でここまでしてくれるんだ? あんたにそこまでするメリットはないと思うんだけど」
「あーそれね、私でもわかんない」
「え?」
「確かにメリットはないし下手したらここにいられなくなるけど、なんかあひるちゃんの行動にはすごく興味があるんだ、あひるちゃんといると楽しいっていうかワクワクするんだよね」
「ワクワクか、あんたもあいつも人間はおかしな奴らしかいないのか?」
「さあね」
そんな話をしてると部屋の扉が開き、料理を持ったあひるが入ってきた。
「お待たせ〜! 食事を持ってきましたー!」
「お!」
あひるは三人分の料理をテーブルに置きシルルクを椅子へぽんっと座らせた、そしてシルルクはあひるが作った料理を目の当たりする、その料理はどうあがいても美味いとしか思えないチャーハンが目の前に置いてあった。
「この料理は」
「これはチャーハンという料理だよ、手持ちじゃ食材が少なかったからキッチンの物を少し使わせてもらっちゃったけど」
「わあ! 美味しそう!」
「じゃあ食べようか」
三人はスプーンを手に取りぽことあひるが先に一口食べた。
「ん〜! 美味しい!」
「うん! うまくできた!」
二人を見てシルルクもスプーンですくい口元まで運び、そしてシルルクの口へと入っていった。
「こ、これは」
シルルクは一口食べたあと、また一口二口と黙々と食べ進める。
「どう? 美味しいでしょ」
「あぁ、あぁ美味しい、こんな料理食べたのは久しぶりだ......」
するとシルルクの瞳から涙がポタポタとこぼれ落ちていた、シルルクは涙を流しながら丁寧に食べ進めていく、あひるたちはそれを黙って見守った。
しばらくして三人はチャーハンを食べおった。
「ふー! 美味しかった!」
「シル君どうだった?」
「ああ助かった、久しぶりに美味しいものを食べた、ありがとう」
「なんだちゃんとお礼言えるんだ、ずっとツンツンしてるのかと思ってた」
「別に気を許したわけではない、警戒はずっとしてるぞ」
「ふ〜ん」
(ボロボロ泣きながら食べてたくせに)
「それで、どうするのこれから」
「とりあえず安全なところには来れたしゆっくり考えれるね」
「まさかだけどノープラン?」
「まあそうなるかな」
「はぁ、やっぱなんも考えてなかった、目的としては具体的にどこなの?」
ぽこはシルルクへ問いかける、シルルクは少し間が空いて答えた。
「最終的には追われない身になって自由に過ごしたい、でもその壁は高い、だからそこまでは望まない、とりあえずこの街から安全に出発できればそれでいい」
「もう、さっきの言葉はなんだったの? 呪縛をといてくれって言ってたじゃん、だから私はあの魔族を倒して色々聞き出してそっからー......」
「待って待って! まずそのシルルクはどおして追われてるのかとか知らないと」
「それは、教えることはできない」
「え?」
「教えたくない」
「どうして! それを教えてもらわないと君を解放する方法が見つからないよ」
シルルクは全く教える気がないようだった、やはりそう簡単に話せることではないのだろうかと思ったあひるは、一旦一息ついた。
「じゃあわかった、親睦を深めるために、私のここまでの事を教える、といってもたった一年の出来事しか話せないけど」
シルルクとぽこは多少困惑したが話を聞くことになった、あひるはリブに拾われてからここまでくるまでの話を長々とした。
「それでゼンターニアに来て今に至る感じ、長話しちゃった」
「英雄に拾われ詠唱魔法を覚えてか」
「英雄たちって魔族だとなんて呼ばれてるの?」
「人間の最後の砦とか、そんな大した名前なんかついてない」
「それは結構的をついてきてるね」
「でもここしばらく英雄の存在が......」
シルルクが会話を突然やめた、すると急に焦った顔で椅子から飛ぶように立った、その勢いで椅子は倒れた。
「どうしたの? 急に立ったりして」
「油断した......魔族の反応がこっちに向かって来てる」
「な!? 兵の監視の目をかいくぐってきてるってこと?!」
あひるが風魔法で窓の扉をこじ開けた。
「さすがにここで戦闘したらまずいからとりあえず街に! 捕まって!」
シルルクとぽこはあひるの腕にしっかり掴まった、そしてまた風魔法を発動し三人は空を飛び窓から出て街へ戻る。
「あれは......」
飛んでる途中、深くフードをかぶった人影を見つけた、そいつはこちらをジッと見ていた、三人は街の路地に着地した、しかし安心はできなかった。
「な!? こっちにまた向かって来てる!」
「え!? いくらなんでも早すぎない!?」
「とりあえず逃げよう!」
「逃げるってどこに!」
「ついて来て!」
ぽこを先頭にシルルクの指示で魔族から逃げる、しかし相手の方が早いのか遂には視界に入るほどまで追いつかれてしまった、奴は顔こそ見えないが飛んだ時に見た人物と同じだとすぐにわかった。
「早い! このままだと追いつかれる!」
すると追いかけてくる人が急にこっちに向かって飛んで来た、拳を構えて殴ろうとしている、その人は空中でどんどん加速してあひるたちの方へ向かって来ている。
「飛んだ!? 風魔法? いや風の流れは変わってない、どんどん加速して......はっ!」
あひるは杖を飛んでくるやつに向けた。
「水龍!」
あひるの杖から大量の水が出てきてその水は龍の形になりその龍が敵に向かって飛んでいく、敵はそれを避けれずもろに喰らい足を止める事ができた。
「よし! 引き離した! あとどれくらい?」
「もう少しで着く」
「待て、進行方向にも魔族がいる!」
「え!?」
三人は急ブレーキをかけて足を止めた、そして目の前に、三人に攻撃してきた魔族、ゼルが目の前に立っていた。
「お前らは......」
「挟まれた!」
後ろからはさっき追いかけてきた人があひるたちに追いついた、その人物はフードを外しその顔を見せた、頭にはゼルと同じでツノが二本生えている。
「お、お前は......!」
「死ぬほど会いたかったぜ、ガキ」
続
ー今回使用された魔法ー
・フロウ:無詠唱風属性
あひるが得意とする魔法、風をコントロールして浮遊する魔法。近くにいる人や物も一緒に飛ばすことができるがかなりの集中力が必要。
・アッパーウィンド 無詠唱風属性
強い上昇気流を発生させ上に吹き飛ばす魔法、相手が重かったり相殺されると失敗する。
・滅消却炎:無詠唱火属性
杖からこう火力の炎を放出し焼き尽くす魔法。
・水龍 無詠唱水属性
大量の水を操り自在に動かす魔法その龍のような見た目から水龍と名前がついている。