第十一話「架け橋」
ーキャラクター紹介ー
レイ・ガドルフ
職業:ゼンターニア兵団リゼア部隊隊長副隊長
真面目で何事にも一生懸命、よくぽこに振り回されているがぽこのことを尊敬している。
メダンに麻痺薬を撒かれあひるとぽこは全く動けない状態でいた、それから数分後ようやく体の自由が戻り始めなんとか立てる状態まで回復した、あひるとぽこはゆっくり机や壁に寄りかかりながら立ち上がった。
「あれからどれくらい経ったの?」
「7分くらいかな、まだそんなに経ってない、早くシルルクの所に行かないと、あひるちゃん魔法使えそう?」
「なんとか使えそうだけど簡単な魔法限定かな」
「よし、それで十分、急ごう!」
「うん!」
数分前、シルルクはメダンに拐われ、街からそう遠くない数キロ先の平原まで連れて行かれていた、進行方向の先に深い森が広がっていた。森には行かず平原の上に着地した、その広く平らな平原にはそよ風程度の風が二人の頬を撫でる、メダンは抱えていたシルルクを街の方へ強引に投げつけた。
「ぐっ......」
シルルクは投げつけられ地面に体をぶつけてからすぐに立ち上がり一定の距離を取り、周りの状況を見た、遮蔽物が全くない平地、数キロ離れたであろうここからでも城壁と城は見ることができる距離。
「よし、それじゃあ始めるかぁ、お前の敵を取るための戦いを......さあ! かかってこいよ! そして俺を殺してみろ!」
メダンは両手を広げ不敵の笑みを浮かべシルルクを煽っている、しかし拳を強く握ってシルルクは黙っていた。
「なんだ? やらないのか? これはお前がやりたかった事だろうがよ、殺せるもんなら殺してみろよ! それともビビってんのか?」
「お前は殺し合いを楽しんでいるのか......? 今までずっと......笑いながら......大事な仲間を! 家族を!」
「ああそうだ! 何度もお前のような奴の悲鳴を血を見てきた! 憎いだろう! 殺したいんじゃねぇのか!」
「あぁわかったよ、敵討ち......取らせてもらう!」
シルルクが怒りの形相で魔法を発動し、魔族が大きな一歩を進むための戦いが始まった、地面から次々に土の柱が生えていきメダンの方へ突き抜けるように一直線に飛んで行く、シルルクは柱を追うように走っていき高く飛んだ、拳を握りメダンに向かって殴りかかった、その拳はジャンプでかわされて拳は地面を貫き、地面には衝撃でヒビが入った、同時に柱による攻撃も避けられたがすかさず新たな柱を伸ばし空中にいるメダン目掛けて一直線に飛んでいく。
土の柱は飛んだメダンに向かって鋭く飛んで行くそして柱はメダンに命中し殴り飛ばした、メダンは受け身を取り体制を整えストンと着地した。
「ってぇな、なるほどな、親の魔法を受け継いでいたか、面白い、面白くなってきたぜ!」
今度はメダンが飛びまた急加速してシルルクに殴りかかる、シルルクは右手を上に掲げた、すると地面から土の壁が生えてきてシルルクを守る、しかし、土の壁は薄かった、土の壁はメダンの一撃に耐えられずあっけなく壊されてしまった、そのままシルルクはすかさず飛んできたメダンの左ストレートを腹に受けそのままシルルクは数メートル飛ばされ倒れた。
「しかし脆いなぁ、お前の母親はもっと分厚かったぞ?」
「くそっ!」
シルルクは無鉄砲にメダンに突っ込んで行き土の柱で四方から攻撃を仕掛けたが空中浮遊の力で避けられてしまった、シルルクは宙に浮いたメダンに追い討ちを仕掛けるがまたしても今度は空中で攻撃をかわされてしまった。そしてメダンは身を翻し顔を腹を殴り最後には強烈な蹴りでシルルクを飛ばした。
「ぐはっ......!」
シルルクは受け身も取れずただ転がり倒れた、数は少なくとも一発一発が大きなダメージのせいでシルルクの体力は早くも限界が近づいていた、復讐に燃える魂の力でなんとか立とうとすると突然体が重くなり地面に叩きつけられた。
「ぐっ......う......うご......けない......」
「弱えな、殺る気あんのかよ、さっきの鋭い眼光はなんだったんだ?」
「く......そ......」
「チッ、もういいわ、あの人間二人が来たらめんどくさいからもうお前殺すわ」
メダンは懐からナイフを取り出し、それを逆手に持ちナイフを持っている手をふりあげた。
「期待外れだった、親のところに逝ってこい」
メダンがナイフを持つ手をシルルクに振りかざそうとしたその瞬間、氷柱が空からメダンに向かって飛んできた、メダンはそれに気付きかわされてしまったが追い討ちのように炎の球体が飛んできた、メダンはそれもかわしたがシルルクとは距離が開いた、そしてシルルクを押さえつけている力も消え去った。
「大丈夫? 立てそう?」
倒れたシルルクの前に救世主如く空から現れたのはあひるとぽこだった、あひるは右手をシルルクに伸ばした。
「あ、あぁ立てる」
シルルクはあひるの右手をしっかりと掴んだ、あひるは強く握った右手をひっぱり立ち上がらせた、シルルクはいまだフラフラだが立つことはできた。
「なんだ、思ってたより早くきたな、麻痺の効果が弱かった......ってわけじゃなさそうだな、無理やり体を引きずって来たってところか」
「とりあえず一旦引こう、相手がどんな力を使っているのかわからないんじゃ分が悪いよ」
あひるはシルルクの未だ真剣な眼差しを見た、そこには勝算が低くてもまだ諦めていない目をしていた、それだけシルルクの思いは強いようだ。
「まだ戦えそう? シル君」
「あひるちゃん!?」
「あぁ、俺はまだ負けちゃいない」
シルルクはその質問が飛んできて一瞬驚いたがそのあと笑いながら当たり前のように戦えると答えた。
「なんだ? 今回は逃げねぇのか、まあどっちにしろ逃がさないつまりだけどな、にしても三対一ってのはちょっとおれも腰が引ける、だから仲間を呼んだ」
メダンは自分の後ろに広がる森に指を刺した。指を刺した森をあひる達は見た、そこには赤く光る眼光が数え切れないほど広範囲広がっていた、あの眼光をあひるは一度見たことがある、ぼぼてんとちゃびこに出会った時に倒した魔物と同じ眼光をしていた。
「ま、魔物!? あれ全部!?」
「森の奥には見張りの砦があったはず、まさか」
「そうそのまさかだ、あの数を一気に投入すれば砦なんて意味がない全滅しちまえば報告も行かない、だから気づかなかったってことだ」
「なんてことを......!」
「今からあいつらを街へ攻めさせる、もしお前らが俺だけを攻撃したら国は攻撃を受け死人が山ほど出るだろうな? つまり三対一の状況はないってことだ、お前らの判断だ、さあどっちを取る? 多くの国民の命か、たった一人の紛い者か!」
ダメージを受けたシルルクはあの軍勢を相手できるほど余裕がないが、しかしメダンを相手すれば街の人たちが危ない、あひるは悩んだ、迷っているとこのやり取りに横槍が入るように声が聞こえた。
「いい加減にしろ! メダン!」
空から聞き覚えのある声が聞こえたと思い体制をそのまま上を見上げると、謎の板が浮遊していた、太陽の光が逆光となり一体なんなのかはわからなかった。 するとそこから人影が飛び降りてメダンと三人の間に着地した。三人は後ろ姿を見ているがいったい誰なのかは彼の頭に付いてる角で気づいた、間に立ったのはゼルだった。
「ゼル……なんでお前が......?」
「ゼル、お前が俺の前に立っててそいつらを後ろにしてるってことはそう言うことか? 悲しいぜ」
「俺もだ、昔は真面目で仲間に優しく接していたお前が今じゃ殺人鬼か」
「目的のために必要な事だ、王の理想郷の邪魔をする者は全て排除する、お前も世界を知れば俺に共感すると思うぞ」
「そんなことはありえない、俺の理想はそう簡単に変わるものじゃない、そして俺はかつての仲間としてお前を止めるために前に出た」
「そうか、それもあるだろうがここにきたお前の目的は俺を止める他にもう一つあるな? そこの小僧を守るためだろう?」
「守る......? そういう......」
これを聞いてシルルクが驚かないはずがなかった、考えてみればぽこたちにもわかることだった、ゼンターニアでゼルと遭遇して逃げようとした時追っては来なかった、あひるが蒸気で目眩しした時もそう、ゼルの真横を通ったのにゼルは無視をした。
「まあ最初っから疑っていたからな、お前が小僧の抹殺の仕事を申し出たのは他の魔族がその仕事を受けて小僧が殺されるのを防ぐため、そして近くで見守ることができる、一石二鳥ってやつだな」
「そこまで調べてくれてると、なんか嬉しいな」
「そうだったのか……」
「まあでもお前なんかより早く俺の本性を見抜いた人がそこにいるけどね」
ゼルが親指で後ろにいるあひるを指さした、それを見てぽこが左手のひらを右手の拳でポンっと叩いた。
「だから昨日逃げる時ゼルの横を通って行ったってことか!」
「あはは、まあそういうこと」
「俺は昔、シルルクの親に途方に暮れて死にかけてた所を助けてもらい、生きる楽しさを教えてくれた、だからその恩を返すためにシルルク、お前をずっと見守ってきたんだ」
「そばに行って守ろうとは思わなかったの?」
「思ったことはある、だけどあのとき三人の元に駆けつけられなかった俺にはお前に仲間として合わせる顔がなかったんだ」
「だから敵としてシルルクの前に現れたと」
「そうだ、あの時駆けつけられなかった俺を許してくれとは言わない、だがあの二人の子であるお前を死なせたくはない、勝手かも知れないが奴は俺が倒す、お前は安全なところに......」
「待て、お前は悪くないだろ、それは役割なのか? 誰かに与えられた仕事なのか、違うだろ。 お前が恩を感じて勝手にやらなくてはいけないって思っているだけでそれは役割じゃない、だから誰もお前を責めれるはずがないんだ、謝る必要もない。それにあいつを倒すって言ったな、それは俺がやる、やらなくちゃいけないんだ、これがただの使命感だったとしてもだ、もしお前がそれでもあいつを倒すと言うなら......ゼル......まずお前を倒す!」
シルルクは右手の人差し指をビシッとゼルに向けまるで宣戦布告をするかのような状態だった。ゼルは唖然としていたが、話が終わった後ゼルの口角は自然に上がり、笑っていた。
「......わかったよ、俺はシルルクの邪魔はしないシルルクが俺の代わりに奴を倒してくれると俺は信じたからな」
「でももうかなりダメージを受けてるのに......」
「待ってぽこちゃん」
ぽこがシルルクを止めようとしたところであひるがぽこの肩を掴んだ。
「シル君を信じよう? 昨日も言ったじゃんシル君にはこれを乗り越える力がある」
はっきりと力があるとあひるはぽこへ言った、ぽこはその覇気のある言葉を信じて頷いた。
「それで勝算は?」
「愚問だね」
「ふっ......そうか、行ってこい! 魔物は他の連中に任せといて、存分に戦え!」
「ああ!」
「よし行くよ! ぽこちゃん!」
「うん!」
ぽこは強く頷き三人は魔物の群勢へ向かっていった、シルルクは拳を強く握り気合を入れ直した。
「なんだやっぱり大勢の命の方が大事か、信じるって言っておいてお前を騙してるんじゃないのか? さっきまでボロボロになってたのによもう勝ち目なんてないだろ、大人しく死になよ、馬鹿みたいな連中と一緒に行動したところで結果は変わらないのさ」
「馬鹿はお前の方だ」
「なんだと」
「俺が勝ちを確信しているのは俺たちにはあるがお前にはない、仲間という存在が」
「仲間? そんな物で勝敗が決まる? 笑わせる、そんな物必要ない、そんなことするよりも軍勢で攻めた方が効率がいい」
「そうでもないさ、仲間の信頼という繋がりは個々の力を増大させてくれる、仲間に背中を任せ、全力が出せるように互いに協力するそれが仲間という物だ、だがお前はそれを捨てた!」
二人の引くことを許されない戦いが始まった頃、あひる達は数十メートル離れた魔物の群勢に向かって走る、魔物は小型のものばかりで数が多い、三人で広く展開して魔物の侵攻を食い止めることにした。
「火球烈火!」
「アクセル!」
あひるは手のひらサイズの火球を杖から連射した、着弾した火球は爆発を起こし広範囲にダメージを与える、ぽこはスキルを使い高速で次々に剣で斬り払っていく、一方ゼルは腰に付けていた無数の四角い箱からカードを何枚か取り出し、一般的なカードとは思えないスピードで魔物に向かって投げ飛ばした、カードが地面や魔物に刺さるといきなりカードが爆発して魔物ごと吹き飛ばした、一回の爆発で七体ほどの魔物を巻き込んでいた。
ぽこは初めて見る魔法に驚きながら流れるように魔物を切り捨てる。
「何あの魔法!」
「あれは術式魔法! 戦闘で使ってる人初めてみた! カードに術式を書き込んでるんだと思う」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! 捌き切れるのこの数!」
魔物はまだまだ森から現れ続けている、正直三人だけでは到底捌き切れる量ではない、やがて三人の壁を超えてくる魔物が現れ始め街へと向かっていく。
「やばい! あひるちゃん!」
「今ちょっとむりいいい!」
「まずっ!」
魔物は止まらず街へ直進している、魔物が進む先で突如地面が大爆発して魔物が吹き飛ばされた、この爆発は火によるものではなく、土だけが飛び散るような爆発だった。
「まさか......」
「どうしたどうしたそんな物か? 詠唱魔法使いさんにリゼア部隊隊長さんよ」
あひるにも聞き覚えのある声が爆発した方向から聞こえた、砂煙が晴れてそこに立っていたのは、大剣を担いだゼンターニア兵団の団長ハダル・ベイカーその人だった、隣にはレイも武器を持って立っていた。
「団長さん!?」
「あーやっぱきちゃったか〜」
「やっぱじゃない! この状況を説明しろ! なぜ魔物がここにいる、なんであそこで魔族同士で戦ってんだ!」
「説明は後です! まずこの大量の魔物をなんとかしないと! あ、それと他の皆んなは?」
「城壁で待機させている、指示はガドルノフに任せてる」
「じゃあ、こっちには来ず待機したままにしてください、もし魔物が来た時に倒せるように」
「なぜだ、兵を出せば殲滅は楽になるぞ」
「皆んなに怪我をさせたくないし、それにあそこでやってる戦いの巻き添いを喰らう可能性があります」
二人は戦いながら会話を行いあそこでやってると言って指を刺した方向では未だにシルルクとメダンが激しい戦闘を繰り広げていた。
「レイ! 今の聞いてたな?」
「はい! 珍しく真面目な隊長の言葉をしっかりこの耳に入っています」
「......何か余分じゃない?」
「ならガドルノフにぽこの指示を伝えてこい、それと俺もここに残って戦うこともな」
「わかりました!」
レイは魔物との戦闘をやめて城壁へとぽこの指示を伝えに向かった。
「取りこぼした奴は任せろ」
「はい!」
三人にとってハダルの存在は大きく、背中から感じるその存在感は三人を冷静にさせた、そして三人の攻撃もより大胆な物に変わって行った、一方シルルクの方では、いまだに戦いが続いていた。
先程シルルクは勝てると言ったが、実の所勝算は五分五分だった、失敗すれば負けるが勝てないわけじゃないという状況である。
(奴の使っている魔法はおそらく重力操作、自分が身をもって体験したから確信できた、あれは空を飛んでるんじゃ無くて落ちている、だから出来ることはおそらく、重力の方向変化と重力の強さの調整程度、そしてその魔法はせいぜい五メートル範囲の物しか操れない、そしてあの強力な攻撃、生身でやれば体が耐えられるか怪しいくらいの攻撃、体を硬くする魔法とかを使ってる筈だ母さんの詠唱魔法を食らっても生きてたんだ、じゃないと理解できない。なら俺がする戦い方は......)
シルルクはメダンとある程度の距離を保ちながら遠距離攻撃を仕掛け続けた、メダンの攻撃もワンパターンで基本突っ込んで攻撃をしてくる、段々と戦っていくうちにシルルクはその攻撃に慣れてきていたが、メダンの攻撃の速度は上がっていっていた、そのレベルアップにシルルクはついていくのがやっとの状況だった、そしてシルルクの体力も限界が近づいてきた。
「はぁ......はぁ......」
「そろそろ決着と行くか、攻めにも加勢したいしな、死ねえ!」
メダンは今までよりも速い加速で飛び、この戦いを終わらせる渾身の一撃を構えた、シルルクは前方に壁を張った、しかしメダンの一撃を守るには薄すぎた。
「そんな壁如きで止められるか!?」
メダンはそのまま渾身の一撃を壁にぶつけた、壁はそんな強力な攻撃を止められるはずもなく粉々に砕けた、しかし壊した壁の奥に立っているはずのシルルクがいなかった。
「なに!?」
シルルクがいたのはメダンの下、しゃがんで拳を避けていた、メダンの死角を突いたシルルクはすでに拳を構えて狙いを済ましていた、メダンが気づいた時にはもう遅かった。
「ハンマー!」
シルルクの身体強化スキルで力がアップした拳を大きく振りその遠心力でさらに威力を増していく、その重い一撃をメダンのアゴに撃ち込んだ。
鉄のハンマーのような一撃をくらったメダンはその体は高く吹き飛んだ、そして受け身も取れず数メートル飛ばされてそのまま地面に倒れた。
「はあ......はあ......はあ!」
すかさずシルルクは土魔法でメダンを拘束して地面に縛りつけた。
(もう、魔力が......あと少しなのに......)
シルルクの戦い方は魔力の使用量が大きく、いくら魔族の魔力量を持ってしても魔力切れが発生してしまう、シルルクの体から力が抜けていき等々膝をついてしまった、すると維持していたメダンの拘束も壊れて土に戻った。
「く......ははっ、全く......俺って奴はついてるぜ......いいタイミングで魔力切れを起こしやがった」
「くそ......力が......」
「どうやらお前の角一本じゃ魔力は普通の魔族の半分以下のようだな、油断を突こうとしたんだろうが長期戦になって失敗ってところか」
メダンはシルルクを蹴り飛ばした、シルルクは力が入らず、ただ無抵抗に飛ばされた。
「滑稽な姿だなぁ、今命乞いするならお前の生死を王に委ねてもいいぜ? もしかしたら慈悲をくれて助かるかもしれないぜ?」
シルルクは魔力が無くなっても諦めてはいなかった、シルルクの目はまだ光を失ってなかった、シルルクはわずかな力を振り絞り、右足を地につけ立とうとした。
「まだそんな力が残っていたか、魔族の出来損ないが、大人しく言う事聞いとけばいいってのに」
「黙れ! 誰がお前なんかの言うことを聞くか! 俺ら魔族は自由を手に入れ争いもせず平和に暮らす!俺は......アーガストの名を受け継ぎ魔族と人間の間に生まれた......だから俺は! 俺という存在を使い人間と魔族の架け橋になりこの争いを終わらせる! そして平和と自由を......手に入れるんだ!」
悲鳴をあげる体に鞭を打ち無理やり起こし、フラフラながらも立つことができた。
(フフッ面白い、良かろう)
見知らぬ少女の声がシルルクの耳に入ったと思ったその瞬間、シルルクの奥底から迸るほど力が湧き出てきた、その力は魔力へと変わりその力を纏うかのように体の周囲に魔力が流れている。そして存在感が急激に増し、その場にいた者、魔物さえもシルルクに気づき、攻撃の手が完全に止まった。
あひるはそれを待っていたかのようにニヤリと笑った。
「遅いよもう!」
「な、なんだこれは! こんな力どこから!」
シルルクの力は未だに上がり続ける、やがて角が生えてる右側の額とは逆、左側の額から紫色の輝きを放ちながら反対側と同じ形をした角が生えてきた、角は生え終わっても輝き続け光が消える気配もない、その姿はゼルやシルルクの父親と同じ魔族、紛い物の姿ではなかった。
「この体の奥深くから湧き出てくる力はいったい、いや今なら!」
シルルクは父親から受け継いだ身体強化スキルを使い今まで開けていた間合いを一瞬で詰めた。
「なっ!?」
「遅い!」
シルルクはその勢いを殺さず拳を腹に一発お見舞いした、その威力はメダンの全力の一撃と同等かそれ以上の威力、メダンはたまらず吹き飛ばされシルルクが即座に作った分厚い壁に打ち付けられた。
「ぐはぁっ!」
「まだまだぁ!」
シルルクは壁にぶつけられたメダンにさらに詰めていく、地面から次々と土の大きな拳が地面から出現し走るシルルクの先を飛んでいく、無数の拳はメダン目掛け一直線に飛んでいった。
「こ、硬化!」
メダンは体を丸め身体を硬くするスキルを使い守りを固めた、無数の土の拳はメダンを突き刺す勢いで衝突する、そこにすかさずシルルクの蹴りがメダンを襲い、その一撃は硬くした体に無慈悲に突き刺さる。
「がはっ......く......そがぁ......」
シルルクの体が突如重くなる、メダンの重力操作による物だった、しかし今のシルルクに重力で拘束しても効果は薄い、シルルクは足が地面にめり込みながらも体制を保つ、その状態でも土魔法を使いメダンの足を掴み地面に叩きつけた、その一撃はこの戦いの勝敗を決めた。
あひるの方ではハダルの協力もあり三人が暴れ回ったおかげでかなりの魔物の数を減らした、それと重なってシルルクの存在感がましてから魔物の勢いも減り魔物の数も少なくなりつつあった。
「ようやく終わりが見えてきた!」
「じゃあ一気に消し飛ばそう! あひるちゃん!」
「うん! 行くよ!」
あひるは杖を前に突き出し、両手で強く握り魔法を放った。
「水龍!」
杖の宝石が青色に変わり杖から巨大な水の龍を二体召喚した、それは以前使った時より大きく勇ましい見た目だった、あひるは杖や手で二体の水龍に指示を出すようにして自在に動かした、水龍は魔物を喰らうかの様に自分の体内に次々に取り込んで行く、食べられた魔物は水龍の中で悶え苦しんでいた。
「さあ昇って!」
あひるは右手に持った青色に輝く杖を天に向かって強く振り上げた、そして二匹の水の龍は螺旋状に交差しながら天に向かって昇っていく、その龍に向かってぽこは剣を向けた、そして剣先からじわじわと氷が生成されていく。
「行け!」
剣先の氷はその指示を受けるかの様に弾丸の様に高速で飛んで行く、飛んで行った氷は水龍目掛けて飛んで行く、そして氷は天に昇る二体の龍を貫いた、龍は貫かれた瞬間全身が一瞬で凍りついた、龍の動きは止まり中で溺れていた魔物も同時に凍った。
「「龍氷!!」」
二人の息ぴったりなコンビネーションをしたあと二体の凍った龍はボロボロと砕け落ちていく、やがて落下の衝撃で魔物ごと粉々に砕け散った。
「やった!」
「うまく決まったね!」
「うん!」
二人は左手で笑顔のハイタッチをした、一方でシルルクは拘束したメダンに冷静に尋問を始めるところだった、あひる達は近寄りシルルクを見守る。
「また......この俺は負けたのか......同じ力を持つ二人に」
「なんでお前は母さんの攻撃をまともに受けて生きていた、いくら硬質化を使っても耐えれるはずがない攻撃だ」
「ただ運が良かっただけだ、俺が潰されかけた時力が弱まったんだ、だから致命傷で済んだこれは神が恵んだ奇跡かと思ったが、どうやらそうではなかったらしい」
「お前をそこまで動かすほどの王の理想郷ってなんなんだ」
「お前らにとっては納得のいかない世界だろうな、今までやってきたことは全てこの世界を守るために必要な事だった、かつての友を殺し家族を殺して、ただ王のために尽くしてきた」
「世界を守るためだと? 他種族を襲い、同族を殺すことが世界を守るための必要なことなのか!」
「いずれわかるさ、お前がぼーっとしてなければな、最後に一個良いことを教えてやる、この世界にはお前と同じ境遇の魔族がまだこの大地の何処かで生き残っている」
「俺と同じ......それは何人いてどこに居る」
「そんなのは把握してねぇ、だが多くはないさ、今も俺の様な魔族に追われている奴がいるかもな、そいつらを助けるか助けないかはお前次第......だ......がはっ!」
メダンのは急に心臓を押さえ始め、もがき苦しんでいる。
「はぁ......はぁ......どうやらお迎えが来たらしい......シルルク! 俺を殺してくれて......ありがとうな......王、あんたにこの身を......」
メダンは手を空に向かって伸ばし、それを口にすると静かに長い眠りについた、シルルクはそれを聞き取ると全身に入っていた力が急激に抜けその場に倒れた、頭に生えていた紫色に光る角は消え、その存在感は元に戻った。
「シル君!」
あひるがシルルクに駆け寄ろうとした瞬間、あひるの目の前にゼルが割って入ってきた、ゼルは右手の平を突き出しあひるの足を止めた。
「待て」
「な、なに?」
妙な緊張感が走った、ぽこは鞘に収めた剣に手を当て攻撃体制になっている。
「シルルクは俺の方で預かる、一時共に戦ったとしても魔族と人間族の関係は変わっていない、俺たちは敵同士だ」
「敵......でも私は魔族だって人として手を取り合えるとそう信じてる」
「人ね......そう思ってる人間はただの綺麗事野郎かあんたみたいな世間知らずな人間くらいだよ」
「そんなこと......」
「でもあんたらには感謝してる、シルルクを守ってくれてありがとう、それだけは言っておくよ」
ゼルはシルルクを担ぎ突如現れたカードでできた床の上に乗りゆっくりと上昇した。
「そこに転がってる奴は勝手にしてくれていい、色々調べてみると良いよ」
「待って! シル君に伝えて欲しいことがあるの!」
「......?」
「ありがとう! またどこかで! って!」
「ああわかった、伝えておくよ」
伝言を受け取ったゼルは空を飛ぶカードの床に運ばれてどこかへ飛び去って行った。
「とりあえずはまあ一件落着かな?」
「えー二人とも、一緒に来てもらおうか?」
「「え?」」
あひるとぽこの二人は団長ハダルに連れられて城へ戻った、言われるがままついていく、そして気づくと少々薄汚い小部屋に二人して入れられていた。
「あれ?」
「これどうゆう……ここ尋問室ですよね」
「ま、そういうことだな」
「ええ! 旅初めてまだ数日なのに私捕まっちゃったの!?」
「罪人としてではない、今回の一件に関して知ってることを全て聞き出すためだ、答えようによっては捕まるがな」
「な、なるほど」
「そしてこの部屋では嘘をつくことができない」
「嘘がつけない?」
ハダルは小さな机に上に置いてある小物に指を刺した。
「そこにあるのは嘘をつくと反応する魔法道具だ、一言で言えば嘘発見器だ」
「嘘発見器……ですか」
あひるとぽこは慎重に言葉を選びながら今回の一連の出来事を話した、人間と魔族の間で生まれたシルルクという存在、魔族の王のこと、全てを話した。
「なるほどなそういうことか、わかったじゃあお前らここでしばらく待ってろ、大人しくしてるんだぞ?」
「ぽこちゃん」
「なに?」
「これどうしようか、どう見ても罪人扱いだよねこれ」
「う、うん……」
二人が深いため息をついていると、扉が開き一人部屋の中へ入ってきた。
「お二人さん元気ですか?」
中に入ってきたのはリゼア部隊副隊長のレイ・ガドルフだった。
「レイちゃん! 助けに来てくれたの?」
「助けにと言いますか、逆ですね、見張りに来ました」
「見張りい!? そんなぁ」
「いったいなにをしたんですか、二人して」
「えっとー、魔族と人間の間に生まれた子供を匿ってた?」
レイはポカンとした顔になった、当然の反応である。
「え、それやばくないですか、下手したら大罪では?」
「そーなんだよー! どーしよー!」
「いやーそう言われましても、どうしようもできないですよ」
「だよね〜、はぁ……どうなるのかなぁ」
「ぽこちゃんごめんね、私が付き合わせたばっかりに」
「なに言ってるの私が勝手に協力したんだよ、あひるちゃんを信じてね、だから全然後悔はしてないしむしろよかったって思ってる」
「でも流石に死刑とか国外追放はないと思いますけどね、隊長がやってきた功績はでかいですから」
「そういうもんかなぁ」
「まあでも団長がなんとかしてくれるんじゃないですか?」
数十分後三人は雑談やらちょっとした魔法やらで遊んでいるとハダル団長が部屋の扉を開けて入ってきた、遊んでるところをモロ見られてしまったのである。
「「あ......」」
「何やってんだ......お前ら」
「えーっと......見ての通り?」
「見張りのお前まで遊んでどうする」
「す、すみませんでした!」
「はあ......まあいい、ついて来いこれから陛下の所へ向かうぞ」
「陛下って......王様!?」
まさかの展開に二人とも言葉を失い、それと同時に不安が増してより緊張した。
「ぽこちゃんどうしよう王様だって、これじゃ緊張ほぐしに遊んだ意味がないよ」
「だ、大丈夫、何とかなる......よ、いざとなったらあひるちゃんだけでも......」
そんなことをガタガタながらも案内されるがままに辿り着いたのは大きな扉の前だった、どう見ても王がいる部屋である、二人は唾を飲んだ。
「ゼンターニア兵団団長ハダル・ベイカー到着!」
門番をしていた人が急に大声をだした、それに緊張していた二人はビクッと反応した、そのあと多少安堵し喝が入れられたかの様に真剣な眼差しへと変わった、そしてさっきの号令から少し間が空いた頃に目の前の扉がゆっくりと重く開いていく、それと同時にとても広い部屋と奥に堂々たる姿で玉座に座るゼンターニアの王様が徐々に見えて来る、二人の緊張はさらに高まっていく、王は30代後半の様な顔立ちで若くも見える。
扉が完全に開いた時、ハダルは王が座る玉座へ歩み始めた、それについて行く様にあひるとぽこも前進した、世間知らずと言われるあひるも王様の存在は師匠であるリブからよく言われていたためあひるはミスをしない様にかなり注意しながら進んでいった、四人が通るレッドカーペットの道の両横には偉そうな人達が数人並んでいた、赤い道を進んで行くとハダルは足を止めて王に一礼した。
「リゼア部隊隊長ぽこと魔法使いあひるをお連れしました」
「ご苦労」
ハダルとレイは横へとそれ赤い道から外れた、そしてぽこが先に跪き頭を下げた、あひるはちょっと遅れぽこと同じ行動を取った。
「頭を上げたまえ」
その言葉を聞き二人はゆっくりと頭を上げた王の顔をまっすぐ見た。
「此度の事件、ハダルより全て伝え聞いた、其方ら二人は偶然出会った魔族の少年を一人の魔族から守るために城下町で匿っていたと、間違いはないかね?」
「はい、その通りでございます」
ぽこが普段使わない言葉使いで答える。
「魔族は現在人間族が敵対している種族、それはわかっているな?」
「はい」
「いくら少年であれど敵には変わりない、其方たちの犯したことは国家反逆になり得る行為である」
「王様聞いてください!」
あひるが少し動いた途端近くにいた兵が剣に手をかけた、王は右手の平を出し兵を止めた。
「その少年が魔族であると同時に我らと同じ人間族であることもハダルより聞いた、そして見ていた、其方らとその少年が魔族と魔物の群れに立ち向かっていたのを、その少年がなぜ同族と戦っていたのかはわからぬが。其方あひると言ったか」
「はい、そうです」
「其方はリゼアの方で二度も助力しさらにドラゴンの討伐感謝する、しかしそれと今回は別、民の命がかかっていたそういうわけにはいかない、其方の生まれはどこか」
「それは......わかりません」
「わからない?」
「陛下、僭越ながら私が会話に割って入り説明をする事をお許しください」
「よし、申してみろ」
「あひるちゃんは私と同じ記憶喪失者です、どこで生まれ育ったか覚えていないのです」
「何と......そうと知らず不敬な質問をした、それは事実なのだな?」
「はい事実です」
周りの人たちは驚きざわついた、どこの輩か分からないのは不審度をあげてしまう、今あひるの信用はこれまでの功績とは別にかなり低くなっている。
「静まれ」
王の一言で一瞬で少し騒がしくなっていた部屋中が静まり返る、王は顎に手を当てしばらく沈黙した。
「其方のその杖は英雄の一人リブ・イレアス、いや今はリブ・ザレイと申したか、彼女から直接授かったと聞いたこれも事実か?」
「事実です、私は師匠リブ・ザレイに拾われ魔法を教わりました、そして旅立つ時、この杖を渡してくれました大切な杖だと」
「なるほど......天使の杖を携し記憶無き女性それと......やはりか」
「やはり?」
「四年前、私の前に予言者と名乗る一人の男が現れた」
王はリラックスした様に座り過去に起きた出来事を話し始めた。
「その男がどうやって城に侵入してきたのかはわからないが奴は自らを名乗った後私に予言を言い放った(そう遠くない未来、二人の女性がゼンターニアに現れる、一人は天使の杖と言う物を携し女性、もう一人は氷属性の魔法を使う女性、両者共に記憶を失っている、名はあひる、そしてぽこ)と言われた」
「名前、あひるとぽこって、私たち!?」
「その様だ、最初其方が3年前にこの城に来た時は驚いた、記憶を失い氷属性の魔法が使える、予言と同じだった、しかし私は次の天使の杖を持つ者がもうすぐ現れるのではないかと思ったが天使の杖を持っていたのはリブ・ザレイだった、予言が外れたのかと思い忘れていた」
「その予言者は私たちのことを何と言ったのですか?」
「それは教えられぬ」
あひるは予言者の言葉を聞きたかったが教えてもらえず肩を落とした。
「さて、いくら恩があっていたとしても今回の事は罰せねばならん」
あひるの軽く解きかけていた緊張が再び高まってきた、あひるとぽこはこれから罰せられる。
「ぽこ、其方は国家反逆罪としてゼンターニア兵団退団としそれと同時にリゼア部隊隊長の席を剥奪、現時点をもってリゼア部隊隊長の席は空席になり今後の指揮は原副隊長レイ・ガドルフに任せるものとする」
ぽこに対しての罰は隊長の席を剥奪し兵団を退団させるものだった、あひるはぽこの方へ慌てながら振り向いたがぽこは覚悟はしていた様にそれを受け入れていた。
「ちょっと待ってください!」
あひるは異議申し立てのために立ち上がった、それを兵は警戒しないはずもなく兵は抜刀し、剣をあひるに向けて構えた。
「良い、申してみよ」
「今回の件は私が勝手に初め、騒ぎにしました、ぽこちゃんは私が協力を促しました、全ての元凶は私です!」
「あひるちゃん......」
「そうであったとしても、兵としてそれを断らず私情で其方に協力したのは事実それは罰せねばならぬ物だ」
「でも退団だなんて、ぽこちゃんの居場所を......」
「あひるちゃん、いいよもう、覚悟はしてた、私は危険を冒してまでする意味があると直感で感じたからしただけ、陛下の言う通り私情に流されたの」
「ぽこちゃん......」
ぽこは立ち上がり胸に拳を当て決意硬く言った。
「その罰、了解しました、そしてしばし兵団から距離を置かせていただきます」
「よろしい、そして次は其方だ天使の杖の使い手よ」
「はい!」
「其方は隣国であるテドウルに向かい、ある物を届ける役目を与える」
「ある物?」
すると傍から一人の女性がそのある物を持ってあひるの前に来た、持っているのは長さ二十五センチほどの持ちやすいくらいの太さの筒だった。
「その筒の中にはテドウルの国へ送る今回の一連の報告書類と其方にとって大事な書類が入っている」
「わたしにとって大事な書類?」
「そうだ、その書類には其方をゼンターニア国王が魔法使いとして保証する内容が書かれている、それをテドウルの街にある魔法管理組合に持って行くといい、そこで保証書の変わりになる物と交換することができる」
「保証書?」
あひるはさっぱりだった、保証なんて物があるなんて初めて聞いた顔だった。
「ここでの保証はあひるちゃんを国が魔法使いとしてその実力、安全を保証するってこと、すごいことなんだよ?」
「は、はあ……」
「この先の旅路、その先で役に立つ時が来るだろう、急がねばならぬとは言わないが、それを出されぬまでゼンターニアへの入国は拒否するものとする」
「......わかりました、この役目やらせていただきます」
国王との謁見を終えた翌日早朝、あひるとぽこは城の前の門へと向かっていた、二人とも荷物を持ち兵団を出る、ぽこは兵団に入っていたときの装備は返却し、私服姿になっていた。
「ぽこちゃんってさこれからどうするの?」
「そうだなぁ、帰る家もないし、街にいれるような立場じゃなくなったしな〜、どこか遠くに行くかな」
「ふーん......じゃあさ! 私と一緒に旅しようよ!」
「え?」
「自分探し! 私たちの記憶を旅をしながらのんびり探すの!」
唐突な旅への誘いに少し困惑していたが満更でもない様子だった、ぽこは口角を上げ応えた。
「それもいいかも! ついて行くよ、あひるちゃんの旅」
「もう私だけの旅じゃない、私たちの旅だよ!」
「それもそうだね」
二人が城前の大きな門にたどり着くと、ハダル団長とレイ副隊長、そしてリゼア部隊の兵達が門の前で待っていた。
「団長、みんな!」
「せめてお見送りでもと思ってみんなを呼んできたんです」
「レイちゃん......ありがとう」
「これからどうするんだ、どっか遠方にでも行くのか?」
「それもいいと思ったけど、あひるちゃんと旅をすることになりました」
「そうか」
レイがポコの両手を掴みぽこの瞳を見つめた。
「待ってますからね! こんな形で隊長になるなんて御免ですから! 旅を終えて元気にまたリゼアに戻ってきてください!」
「そうだね、じゃあそれまでの間みんなとリゼアの街の人たちを任せたよ!」
「はい!」
「旅の安全を遠くから願っている、まあそんだけ強ければ大丈夫だと思うが」
「ありがとうございます、また会いましょう」
あひるとハダルは握手を交わし、二人は門を潜り、街へと出て行った、二人が後ろを振り返るとリゼア部隊の人達が敬礼をして見送っていた、そして城を守る扉はゆっくりと閉じていった。
「さ、行こうか」
「いいの?」
「ん? 何が?」
「街を歩いたりとか」
「ん〜いいや、永遠に来れないわけじゃないし」
「そっか、じゃあ行こう、私たちの旅へ」
こうして記憶を無くした二人の旅人はその無くした記憶を探すため長い旅に出た。
続
ー使用魔法ー
・水龍 無詠唱
大量の水を操り龍のようにして相手を吹き飛ばす魔法
・火球烈火:無詠唱火
杖から炎の球を出して放つ魔法着弾すると爆発する弾はおおきさを変えることができ小さいと弾速が速い大きいと高威力になる。