第十話「紛い者」
ーちょこっと解説ー
・術式魔法
特定の模様を描き、描かれた物体に魔力を当てると発動する、メリットとして使用魔力量が一定にできコントロールが簡単ということ、デメリットは戦闘で使用しようとした場合、あらかじめ書いておく必要がある点である。
「お、お前は......!」
「死ぬほど会いたかったぜ、ガキ」
口の悪い魔族はニヤリと笑っている。
「メダン、なんでお前がここにいる、これは俺の仕事だ、手を出すな」
ゼルがメダンと言う魔族に対して少し威嚇するかのように言う。
「ゼル、お前がいくら経っても仕事が終わっていないって聞いたから俺はわざわざ助っ人に来てやったんだぜ? そこは素直に感謝して欲しいもんだな」
「手助けは不要だ、俺には俺のやり方がある」
「でもよお、さすがに時間かかりすぎじゃねぇか? こんなまともに戦えないただ守ってもらってるだけのよえーガキ一人だぞ?」
シルルクの顔はメダンと言う魔族を睨んでいる、その瞳はゼルとは比較にならないほど憎悪に満ちていた。あひるはそれを見てメダンは他の魔族より凶悪で強い魔族だと察した。
「久しぶりだなぁガキ、いつぶりだ? あぁあん時ぶりか、ずいぶん身長伸びたんじゃねえのか? だが心の方は全然成長してないんだなぁ、守られてばっかりでよぉ、ま、ここまで生きてこれたことは褒めてやろう」
シルルクは相手の挑発を理解して歯を食い縛ってその煽りを聞き流す。
「なんだ? ダンマリかよ、チッ、せっかく褒めてやったのに面白くねぇ」
(魔族が二人で街の路地の一本道、魔族との距離は六メートルくらい、逃げるには不利な状況、どうする、また飛んで行くと言っても次が追われないとは限らない)
「ぽこちゃん」
聞こえるか聞こえないかの微かな声であひるはぽこを呼ぶ、ぽこはそれに全力で耳を傾ける。
「一か八かここを切り抜ける方法がある」
ゼルとメダンに聞こえないほど小声で作戦を話した、大きく動くこともせず。
「ん? 何コソコソと話してんだ」
「それはあまりにも危険すぎるよ!」
「大丈夫多分だけどそんな気がする」
「よくわからんがそろそろ行くぜぇ!」
メダンが大きく一歩を踏み出した瞬間にあひるは両手を頭上で、パンっと叩いた、その瞬間あひるの両手から煙が爆発するように出てきた、その煙はゼルとメダンを巻き込み周囲を見えなくさせた、不思議と温度が上がり梅雨の日のようにジメジメしている。
「な、なんだ!?」
やがて白い煙は消えていき視界が晴れてきたが、もうすでにあひる達の姿はメダンとゼルの目の前から消え去っていた。
「なっ!? いつの間に! どうやって逃げやがったあいつら! くそ! また探さねえと行けねえのかよ、だりぃ」
メダンは深くため息を吐き頭をかきながら建物の屋根へ飛び移っていった、ゼルは口角が上がり笑っていた。
「まさかああくるとはなぁ、シルルクにもまだばれてない事があの魔法使いに一瞬でバレた、これは面白いかも」
あひる達は路地をずっと行った街の端っこ、城壁近くにいた。
「あひるちゃんほんと無茶な事を......敵のど真ん中を突っ切るなんて......無謀にも程があるよ」
「でもうまく行ったでしょう?」
「そうだけど......はぁ疲れたー」
ー数分前ー
「一か八かここを抜ける方法がある」
「ほんと!? それってどんな」
「私が魔法で煙を発生させるから正面を突き抜けて風魔法で一気に離れる、ゼルって魔族はきっと何もしてこない、多分」
「それはあまりに危険すぎるよ!」
「大丈夫多分だけどそんな気がする」
「よくわからんがそろそろ行くぜぇ!」
メダンが大きく一歩を踏み出した瞬間にあひるは両手を頭上で、パンっと叩いた、その瞬間あひるの両手から煙が爆発するように出てきた、その煙はゼルとメダンを巻き込み周囲を見えなくさせた。あひるはすぐに身を翻し、シルルクを肩に担ぐように乗せてぽこと共にゼルの方へ突っ走る、そのままゼルの隣を通り煙の中から抜け出した。
あひるは煙から抜けてすぐにぽこの手を掴み、そのまま深く両足で踏み込み、風魔法で路地を突き抜けるかのように飛んでいった。ぽこと担がれているシルルクは歯を食いしばりその慣れない移動スピードに必死に耐える。そしてどんどん城壁へ近づいていく。
「やばい! ぶつかるぶつかる! 減速してえ!」
「おっとっと」
あひるは両足を前に出し着陸態勢に入る、その間どんどん減速していきやがて完全に静止し垂直に着陸した。ぽこは着地した瞬間膝から崩れ落ちた、シルルクもあひるに降ろされ両手を地面について跪いて固まってしまった、どうやら激しい動きで酔ってしまったようだ。
あひるは膝に手をついて少し屈んだ状態で笑い混じりに言った。
「大丈夫? 二人とも」
「見ればわかるでしょ......」
「最悪だ......」
ぽこもシルルクも戦ってないはずなのに既にボロボロであった。
「あはは......」
あひるは何も言えず苦笑い気味になっていた。
「あひるちゃんほんと無茶な事を......敵のど真ん中を突っ切るなんて......無謀にも程があるよ」
「でもうまく行ったでしょう?」
「そうだけど......はぁ疲れたー」
ぽこは体を後ろに倒し手でつっかえるようにして楽な態勢になった。シルルクの酔いが治ったのか体を起こし膝立ちの状態で話し始めた。
「よくあんな事思いつくな、煙の勢いで怯ませて察知させないようにしてその間に逃げるなんて、しかもゼルの方に向かって」
少し馬鹿にする様に言われた気がしなくもなかったあひるは口を尖らせ不満げに言った。
「なに? あれ以外にいい案あったのー?」
「いや多分、ないけどー」
あひるの尖った口はすぐに元に戻り、ハッと何かを思い出した。
「そうだぽこちゃん、逃げる目的地ってどこなの?」
「あぁそれね、ここなんだよね」
とぽこが指を指した方向には一件の小さな家が城壁に張り付くように建っている、結構ボロボロな見た目をしている。
「え? あれ?」
「そうあれ、あのボロボロの」
三人はそのボロボロの一軒家に近付き、ぽこがその扉の鍵穴に何処からか出した鍵を入れひねる、鍵が開く音がした後ぽこは扉をゆっくりと開ける。扉は軋む音を鳴らしながら三人を迎え入れた、内装は思ったより清潔にされており、何者かが定期的に掃除をしている事が一眼見て分かった。
「へ〜、中は思ったより綺麗なんだね」
「私がこっちに戻った時にいつも掃除してるからね」
まさかのぽこが掃除していた。
「もしかしてここってぽこちゃんの家?」
「違うよ、この家は前少し話したけど死んじゃった師匠、前リゼア部隊の隊長が住んでいた家」
「前のリゼア部隊の隊長さん......」
「そ、隊長が死んでからこの家の管理を任されてるんだ〜まあ私がやるって言い出したんだけど」
「そうなんだ」
「休みの日は散歩するかここで過ごしてる、まあ今はほぼ私の家みたいな感じだね」
と、ぽこは何やら床に置かれた色々な荷物をどかしている、よいしょよいしょとどけると床に地下へ繋がる扉があった。
「扉? ここに何かあるの?」
「まあね」
ぽこは床扉を開ける、開けた先は真っ暗で、梯子があることだけ確認できる。ぽこは近くにあったランプを取りあひるに突き出す。
「火つけて」
「あーわかった、なるほどね」
あひるが杖の先をランプに近付けると静かにランプの灯りが灯った。そのままぽこはランプを片手に梯子を降りていった、しばらくするとぽこは何か持って梯子を上がってきた。
ぽこはそれをテーブルに置いた、出してきた物体は円形で厚さ5センチ直径10センチくらいのサイズで中心らへんに円の線がある。
「ぽこちゃん何これ?」
「これはジャーグって言う魔道具だよ」
「魔道具! これが? 初めて見た〜、師匠から魔道具の事は教えてもらってたけど実物は無かったからな〜」
あひるがその魔道具に近付き興味津々に見つめている。
「この魔道具はどんな力があるんだ?」
「この魔道具は探知系魔法の効果を阻害してこの場だけ探知出来ないようにすることが出来る、もしかしたら魔族探知も阻害できないかなって思って」
「へー! すごいじゃんこれ!」
「基本隠密作戦時にしか使わないものだから結構長くしまってたものだけど、動くかな?」
ぽこは魔道具ジャーグにそっと手をかざした、そして目を閉じた、しばらくすると、魔道具の円線が青く光り出した。
「よし動いたね、これで多分見つかり辛くはなると思う」
「それじゃあシル君、あなたに聞きたいことがあります」
そう言われるとシルルクは俯き気味にこうなると分かっていたかのようにそのまま椅子に座った。あひるもそのまま椅子に座った。
「それで聞きたいことって、まあ想像はつくけど」
「うん、全てを話してほしい、どうしてこうなったのかを、なんで追われてるのか」
「まあ流石にここまで来たら言うしかないか、でもその前に一つ聞きたい、なんであんたらは出会って数時間しか経ってない素性が分からない魔族を助けられる、俺が子供だからか?」
シルルクが真剣な眼差しであひるに問いかける、その質問にあひるは真剣に答えた。
「私はずっと外の世界に触れてこなかった、だから常識とかわからないし、種族間での戦いとか、よくわからない、でも今回分かったことがあるの」
「わかったこと?」
あひるは静かにうなずく。
「そう、それはさっきの私たちを追ってきたのが悪い魔族ってことそして、君みたいに優しい心を持った魔族もいるってこと」
「俺が優しい?」
「違う?」
あひるは軽く首を傾げた。
「どうしてそんなことが言える、優しいだなんて」
「根拠はないよ、でも君の心からは暖かい温もりがしっかり伝わってきてるよ」
「心の温もり? 何を言ってるんだ」
あひるは席を立ちシルルクのすぐ横へ近付いた。
「魔族だって私達と同じ人なんだから誰かから生まれて育ってるはずでしょ? 自分の胸に手を当ててみて」
シルルクは言われた通り両手を胸に当て両目を瞑った。あひるは右手をシルルクが胸に当てた両手に、無意識にそっと手で触れていた。あひるの手がシルルクに触れたその瞬間、あひるの意識はシルルクに吸われるように目の前が徐々に暗くなっていった。
あひるが気がつくと見覚えの全くない家の中にいた、暖炉には火がついており暖かい空気を部屋中に届けている、長方形の机を四つの椅子が囲んでいる。
「ここは何処? みんな何処行っちゃったの?」
すると、玄関扉のドアノブがガチャと動き扉が開いた、そして家に入ってきたのは頭に二本の角を持った男の魔族だった。
「わあ! えっとー」
「ただいま帰ったぞ」
咄嗟の出来事でなんと言えば良いか迷うあひるを見向きもせず、その言葉を発した、そしてその声を聞いてか、ドタドタと部屋の扉を開けてその人へ飛びかかった。
「おかえりー!」
飛びかかっていったものはあひるも知っている顔、シルルクだった。
「シル君!?」
あひるは思わず大声を出したが、二人は全くあひるに反応しなかった。あひるもこれには首を傾げた。
「あれ?」
あひるを置いてきぼりにした二人は会話を続けている、そこへまた一人魔族の二人の所へ寄ってきた。
「おかえりなさい、どうだった? 周りの様子は」
そこに現れたのは人間族の女性だった。髪を後ろで結びエプロンをかけている、さっきまで料理でもしていたのだろう。その女性もあひるには気付いていないようだった。
「あぁ、特にこれといって穏やかだった、魔族の気配もない」
「そう、でも逆に不安になるわね、ここまで静かとなると」
「そうだな、この前に出た反応は何だったのか」
魔族と人間族の二人が不安げに会話をしているところにシルルクが割って入る。
「それより、俺お腹すいたから早くご飯食べたい!」
シルルクが見たことないほど元気な声で言葉を発した。
「やっぱりあんな元気な声出せるんだ」
「それよりってお前、結構大事な事なんだぞ?」
「まあ私もお腹空きましたし、料理もできてますから、先に食事にしましょう」
女性が料理をとりに行き他の男二人は席につく。
「あのー、こんにちはー?」
あひるが二人に話しかけるが、全くこちらに気づいていない、まるで存在していないかのように。
「あれ? もしもーし!」
さっきと一緒でなにも言葉は帰ってこなかった、そこであひるは机の上に置かれていた花瓶を持とうとした、しかし花瓶を持とうとした右手は花瓶を通り抜け触れることもできなかった。
「え? 今手がすり抜けて」
あひるはもう一度花瓶に触れようとしたが、再びすり抜け指が花瓶の中に刺さってるような状況になった、あひるは花瓶から手を離し、今度は机自体に触れようとしたが手はすり抜け机に指が刺さった状況に再びなった。
「これは......もしかして私、幽霊になっちゃった!?」
あひるのその疑問の答えはすぐに解決される、あひるはふと窓から外を覗くと、外の地面には雪が積もっているのが見えた。
「あれって雪? でもゼンターニア周辺はあんまり雪が降らないはずじゃ、というか季節的にありえない」
そんなことを考えていると人間族の女性が料理を持って戻ってきた。
「お待たせしました今日はシチューです!」
「おー! 美味しそう!」
「食べよう食べよう!」
シルルクと魔族の男はスプーンを持って食べ始めたそれに続くように人間族の女性もスプーンで美味しそうなシチューを食べ始めた。
「美味しい! さすがお母さんのシチューは世界一だね!」
シルルクが人間の女性のことをお母さんと呼んだ、たしかによくこの三人を見れば一家団欒の光景だった。
(お母さんってことは三人は家族?ってみればわかるね)
あひるはこの家族の暖かさを心の奥から感じ取っていた。
(そっか、シル君にはこんな家族が......なんだかもう懐かしく感じちゃってるなー......あれ? じゃあ何で一人で逃げて......)
あひるがその疑問に辿り付いた瞬間、一瞬で目の前が真っ暗になり、しばらくしてから再び明るくなった、が、目の前に広がった光景にはさっきの暖かさは無く、崩壊した家の真ん中に立つ家族三人、屋根もなくなり空から雪が激しく降り続けていた。
「ど、どうなってるの?!」
家族三人が揃って向いている先には、街で追ってきた魔族だった。
「あれはさっきの!」
魔族の男性と人間族の女性はその魔族をにらんでいる、女性はシルルクを後ろに行かせて守るように手を横に出している。男性は二人の前に立っている。
「いやぁ悲しいもんだよな、同族を殺すなんてさぁ」
「お前はそうやって何人も殺してきただろ」
「そうさ、だがそれらは全て必要なことだ、お前ら犯罪者を無くすためのな」
「犯罪だと? 人が自由を求め家族を作り暮らすことが犯罪か!」
「元々魔族に自由なんてねえんだよ! それを権利なんてねえ奴らが勝手しだしてよぉ、だが、楽しいもんだぜそう言う希望を持った奴らが絶望に染まる顔を見るのはよぉ」
「狂っているな、希望を持ち前に進まなければ我々魔族は破滅を待つだけだぞ」
「そんなこたあどうでも良いんだよ、破滅しようが俺は目的が達成できればそれでもいいんだよ」
「話し合っても無駄か......ユノ! シルルクを連れて逃げるんだ、俺はここで時間を稼ぐ」
女性は静かにゆっくり頷いた。
「わかった、どうか生きて」
「ああ......さあ行け!」
そのひと押しで女性はシルルクの手を取り魔族二人から遠ざかっていく、シルルクはずっと男性を見て走って行く。
「父さん!」
シルルクが発したその言葉を男性は強く受け止め拳を強く握った。
「これは死ねないな......」
「だめ……そんなのだめ」
魔族二人が交戦しようと、一気に距離が詰まって行く。
「待って!」
あひるが二人の間に入ろうとした瞬間再び目の前が真っ暗になり、そしてしばらくしてまた明るくなった、今度は建物もないただ背の高い木々が間を広く開けて広がっている。吹雪が吹く中をシルルクと女性が走ってきた。
「はあはあ......」
二人が走っている真横を一瞬何かがかすめていった、その瞬間爆発するように地面の雪が弾け飛んだ、その爆発で思わず二人の足は止まる。弾け飛んだ雪の所には手のひらサイズの大きな石が砕けた状態だった、女性はすぐに後ろを向いた、そして向いた先にいたのは家族を殺しにきた魔族だった。
「なっ!?」
「さすがに驚くよなぁ、すぐに追いついちまったんだからよ」
女性は歯を食いしばりシルルクを掴んでいた手を離した。
「お母さん......?」
「ごめんなさいね、こんな家族の所に産んでしまって、だからあなたには幸せに生きてほしい」
「なに言って......」
相手の魔族は女性にに向かって飛び出し足を出し飛び蹴り状態で突っ込んでくる、すると突然女性の前の地面から土の壁が一瞬で伸びてきた、壁は魔族の蹴りを受け止めた、壁は衝撃で少し凹んだがこの程度で壊れる様子はなかった。
「なにぃ?」
魔族は壁を蹴って女性から距離を置いた。
「土の魔法か、珍しいものを使うなぁ、それにただの壁じゃなくかなり硬い」
「それは褒めてくれたってことでいいのかしら」
「まあそうだな、正面で受けてくるやつは今まで少なかったからな、面白くなってきたじゃねえか、そいつを守りながら戦えるのかぁ?」
女性の周りからニョキニョキと土で出来た拳が幾つも生えてきた、生えてきた拳は相手の魔族に向かって高速で飛んで行った、しかし魔族はそれをジャンプや謎の飛行能力を使い若干の追尾をしてくる土の拳を避けて行きながら距離を詰めて来る、やがて距離は二メートルまで近付いていた、魔族はそのまま最初の攻撃のように飛び拳を構えた。
「おらぁ!」
魔族が拳を前に出し殴ろうとした瞬間再び女性の前に壁がせせり上がってきて魔族の強烈な拳を受け止めた、壁は少し欠けていたのを見てか、左の拳を構えた。
「この壁は壊せるぞ!」
左の拳を突き出し、また少し壁が欠けた、すかさず次の拳を突き出しそれは徐々に加速していき壁が崩れて行く、しかしその攻撃は隙を産んだ、突如壁から円柱が飛び出してきた、魔族はそれが腹に直撃した、魔族はそのまま円柱に押し出され七メートルほど飛ばされた。
「クッソぉ......痛えじゃねえか」
「サモンゴーレム!」
女性のその声に呼び寄せられるように地面から高さ五メートルほどの土でできたゴーレムが出現した。そのゴーレムは魔族に向かって走って行く。
「そんな土の塊を出したところで倒せると思ってるのか!」
「倒せると思ってるから出すのよ!」
ゴーレムが巨大な拳で魔族に殴りかかろうとしている時魔族も拳を構えまたジャンプをして殴りかかる。ゴーレムと魔族の互いの拳が衝突する、しかし魔族はゴーレムのパワーの上を行った、ゴーレムの腕は一瞬で砕け大きな土の塊が地面へ落下して行く、魔族はゴーレムの右腕を破壊した後すかさずゴーレムに次々と拳を打ち込んで行く。
「オラオラァ!」
その攻撃でゴーレムはなにもできないまま崩れ去っていった。地面の上には土の塊が死体のように転がっている。
「今のゴーレムは無意味どころか的に塩を送った、感謝するぜぇ!」
「......!?」
さっき砕かれたゴーレムの大きな土の塊が突如として宙に浮き始めた。
「お前の運命を恨んで死ねぇ!」
魔族が前に手を突き出した、その合図で宙に浮いている土の塊が高速で女性に向かって飛んでいく、あの巨大な物体が直撃したらひとたまりもない、女性はシルルクの前に分厚い壁を張り自分の前にも壁を張ったが、どう見ても女性の前の壁の厚さでは飛んで来る塊を防げるはずがない。
「そんなのダメ!」
見てるだけだったあひるが咄嗟に駆け出し右手を伸ばし助けようと走った。女性に手が触れようと伸ばした右手はすり抜け、そしてあひるは女性を通り過ぎていった。そして無数の巨大な塊は女性の壁を壊し、壁で守りきれなかった塊は無慈悲に女性に直撃した、女性は衝撃で吹き飛ばされ、背の高い木に背中をぶつけて止まり座り込んだ。
「ぐはっ......!」
「やっぱり触れられない......」
女性は重症だった、砕けた塊が体の至る所に刺さり身体中が血塗れになってしまっている、しかしまだ致命傷に止まり死んではいなかった、シルルクは腰が抜けていたのか女性の方を悲しい目で見つめ手を伸ばしていた。魔族が雪の上に座り込んだ女性の前へ歩いて行く、あひるはそれを止めようと魔族の前に両手を広げて立ち塞がったが、魔族はそのままあひるをすり抜け進んでいく、あひるはすり抜けると分かっていたが行動をした、しかし意味はなかった。
「やっぱり人間は脆いもんだな、弱すぎる、だがまだ息があるな大したもんだ、お前を殺した後はお前だガキ」
魔族が右手を前に出し手を広げた、すると女性は引き寄せられるように魔族の方へ飛んでいき、首を掴まれた。
「さっきの壁で魔力を使い切ったか、残念だったなガキの方の壁を厚くせず自分の守りを固くすればよかったものを、そんだけガキが大事ってか」
「ええ......そうね、ちょっと過保護すぎたかしら......でもね」
女性は首を掴まれている腕を両手で強く掴んだ、魔族は少し驚いた表情を見せた。
「子を守るために親は命だって投げ出せるのよ!」
突如、二人の足元に黄色く光る魔法陣が出現した、その魔法陣から土でできた無数の手が二人の腕や足を掴んだ。
「な、なんだ!? 身動きが取れねぇ! これは魔法陣、まさかお前!」
「あなたの魔法の弱点は完全に身動きが取れなくなる事、そしてあなたは今土の手によって私と共に身動きが取れなくされている、いくらあなたがその自慢の魔法を持っていようがこうなったらあなたは何もできない!」
「くそ、そんな魔力どこから! まさか......詠唱魔法か! だが詠唱はしていないはずだ! なぜ魔法が発動している!」
「うちの精霊はちょっと特別な子でね、呼び出さなくても私の意思を受け取って魔法を発動してくれるのよ!」
「ばかな! 魔力が完全に無くなって死ぬぞ!」
「ええ、そうね、私はここで死ぬ、でもそれでいい、あの子は強い、私達がいなくてもどこかで仲間と言える人達を見つけて生きてくれるわ」
「くそぉ......!」
女性を掴んでる手に力が入り首がしまる。
「私を殺しても無駄、もう魔法は発動している、特大のやつがね」
女性は後ほんの少しの力で笑った、その瞬間地面から次々と土の柱が天へ伸びて行く。
「シルルク! 元気にしてるのよ!」
女性はシルルクの方を見て微笑んだ、地面から生えてきた土の手がシルルクを掴み二人から走り逃げるかのように距離が離れて行く。
「母さああああああん!」
そしてシルルクは吹雪の中に消えていった、この光景をあひるはなにもできずただ見ているだけだった。そして天に伸びた無数の土は旋回し垂直に二人のところへ突っ込んで行った、後少しで二人のところへ落下するというところで再び目の前が真っ暗になった、真っ暗になる寸前女性の目に涙が流れたのをあひるは見た気がしていた。
再び目の前が明るくなった、あひるがまたゆっくり目を開けると目の前に目を閉じているシルルクとシルルクの手に触れた自分の手が見えた、辺りを見ると少し古くも清潔にされた家、そしてぽこがいた。
「戻ってきたの......?」
シルルクも少し遅れて目を開いた。
「二人ともやっと意識戻った、はい二人ともこれ、涙吹きなよ」
「涙?」
二人が確認しよと手を目下に当てると確かに涙が溢れていた。
「ああほんとだ、ありがとう」
二人はぽこの一つのハンカチを二人で使いまわして涙を拭いた。
「二人とも10分間ずーっと動かずにいたけど何してたの? 声かけても反応しないし、私だけ仲間外れにされてたんだけど」
「あー多分、推測だけどシル君の記憶を見てたのか......な......?」
「き、きおく?」
「あひるも見たのか、俺が一人で追われるきっかけとも言える出来事の記憶だ」
「あひるもってことはシル君も見てたの?」
「俺の場合見ていたというより思い出していた感じだと思うけど、あれはあひるの魔法で見せていたのか?」
「わからない、シル君の手に触れた時に急に引き込まれるような感じがしてそれで気がついたらあの家にいた」
「ちょっと! 私にもわかるように説明して!」
あひるはさっき見たことの共有をした。さっきの記憶を見る現象を理解するには今の情報量ではわからなかった、ただ共有して分かったのはさっきの出来事ははシルルクが体験した出来事と全く一緒だったということ。
「そんな事があの十分間で......」
ぽこはまだ信じられなかった、なぜなら記憶の中に入るという魔法や現象は聞いた事がなかったからだ。
「とりあえずこの力は後で考えるとして、シル君に聞きたい事があるんだけど」
「俺が人間を母と呼んでいた事だろう?」
「うん、魔族であるあなたがなぜ人間族の女性を母と?」
「それは......わかった説明する」
シルルクがまた椅子に座り他二人も座った。
「まず、そもそも俺は正式には魔族ではない」
「......やっぱりそうだったんだ」
「俺は魔族と人間族の間に生まれた混血なんだ、魔族の中では紛い者なんて言うらしい俺のツノが一本だけなのが人間の血が混ざっている証拠だ、他の魔族は二本だ」
「混血......でもなんで君は命を狙われなきゃならないの? それでも魔族としての力は持っているのに」
「それは......いや、その前に聞きたい、俺を見捨てないのか? 紛い者の俺を」
「え? なんで? 別に魔族であろうと人間の血が混ざった混血であろうと私が話してるのはシルルク、あなた自身だよ? 種族がどうって関係ない私は紛い者と喋ってるんじゃなくて人と話しているんです、そうでしょ?」
「そうね、私は魔族はみんな敵だと思ってた、ただ人を殺す殺戮者とも思ってた、けど、あなたやその親のように、人を愛する事ができる人としての思いを持っていることを今知った、実は君のこと警戒してずっと監視してたんだよね、あなたをいつでも拘束できるようにね」
「そ、そうだったんだ......あ、そういえば」
ぽこがシルルクに会ってから食事の時以外常に左手が鞘を掴んでいたことに気付いた、もちろん今は手を離している。
「ごめんなさい、あなたを人として見てない部分があった、それにまだ君を信じ切れてない自分がいる、ごめん」
「あやまらないでよ、あんたは兵士として当然の行動をしただけだ、俺があんたらを騙してたとしたら隙をついて殺しにかかるだろうさ」
「ありがとう、それで君が追われる理由ってのは?」
「掟だ」
「掟?」
「魔族には破ってはならない掟があってそれを破った者は容赦なく殺される、俺の父さんは魔族の掟である魔族は他の種族と関係持つ事の禁止という掟を破ったんだ、ましてや子供を産むなんて事したら即死刑だ、その罪は子供にも課せられる、家族共々皆殺しだ」
「そんな......そんなのって理不尽すぎる」
「これが俺ら魔族の王が全て決めた掟だ、逆らう者は力でねじ伏せる、そしてその王が変わる事はない、だから魔族は同じことをやり続ける、過ちも、前に進むことも許されてないんだから」
「王が変わらないってどう言う事? というか魔族に王様なんてものがあったんだ」
「ああ、俺も詳しくは知らないんだけど、王は変わらず玉座に座り続けていている不老不死の存在と言われている」
「不老不死!? そんな物が存在するんだ!」
あひるは興味津々だった、不老不死、それは幻とされている存在、本の中でだけしか登場しない力、つまりは未知の能力。
「あひるちゃんワクワクしてるでしょ」
「え!? あーいやー......してたかも、ごめん」
「はあ......別にいいんだけどね、無茶だけはしないでよ?」
「それはちょっと保証は出来ないかも」
「だろうね。つまり王が一度も変わってないということは魔族の存在が確認される以前から存在していた、魔族が確認されたのは歴史上では八百四十四年前だから相当な年だね、エルフ以上だよ」
「は、はっぴゃくぅ?!」
あひるは驚きのあまり古臭い驚き方をしてしまった。
「で、結局私達はなにをすれば君を助けられる?」
「俺は敵討ちをしたい、母さんと父さんの敵討ちを......できれば俺の力だけで」
「君、戦う力を持ってるの? あいつを倒す力」
「倒せるかはわからない、でも魔法は使える、教えられたからな。もし、俺が負けたら俺の代わりに倒して欲しい」
あひるはにこっと笑い、椅子から立ち上がりシルルクの頭を数回撫でた。
「私たちの力は必要ないよ、あなただけであの魔族を倒せる、それだけの力と心をシル君は持っている」
「そうか......冗談でもそう言ってくれると助かるよ......」
あひるは冗談と言われてもずっとニッコリしていた、シルルクはそれに首を傾げた。
「とりあえず今日は色々あったから疲れた!」
あひる達は話を終えた後しばらくした後晩ご飯を食べそのまま寝ることにした。
数時間後、シルルクの目が覚めて体を起こし、ベットから出て体を伸ばした、久しぶりに熟睡できたため、まだ目が半開きの状態だった。シルルクは窓に向かい窓のカーテンを開けて外を見た、まだ日は見えないが空は明るくなってきている。
「もうこんな時間か......久しぶりにこんなに寝た......な?」
何か建物の上に人影が見えた気がしてシルルクは目を凝らして見てみるとそこに立っていたのは、昨日三人を追ってきた魔族、ゼルがメダンと呼び、シルルクの両親を殺した魔族がそこに立っていた。そしてシルルクはメダンと目があった、まるでずっと待っていたような笑顔と目でシルルクを見ていた、確実に。
「な......!?」
シルルクはカーテンを殴るように閉じ、急いで寝ている二人を起こしに向かった。
「おい! 起きてくれ二人とも! おい!」
シルルクは二人の体を激しく揺すり起こそうとした。
「ん......? どうしたのシル君」
「あいつだ! あの魔族が遠くの屋根の上にいて見られた!」
「それは本当?!」
「本当だ、窓から覗いたら奴がこっちを見ていた!」
二人の眠気は一瞬で吹き飛び、ベットを出て戦闘態勢に切り替えた。
「ぽこちゃんどうする? このまま外に出る?」
「そうだね危険ではあるけどここで戦闘はまずいからとりあえず街の外へ!」
三人は準備を済ませて、外へ出ようとした。
「待って!」
あひるは何かを感じ取り二人を止めた、次の瞬間、家の木の扉が三人に向かって吹き飛んできた、あひるは飛んでくる扉を風魔法で横に弾いた、そして吹き飛んだドアの所にいたのはあの魔族、メダンだった。
「よお、やっと見つけたぜガキども」
「なんて速さだ、あの距離を数秒で」
三人はメダンを警戒し構えている。
「なぜ見つかったのか謎に思ってる顔だな、いやそんな顔してないか? まあいい説明してやる、まあまず俺はお前らを見失った後魔族の索敵能力で町中を探した、しかしまあそこの魔道具のせいで遮られてたみたいだな、知っててやったのか賭けでやったのか、まあどっちにしろおめでとう、時間稼ぎはひとまずは成功だ、てことで索敵に引っかからないなら、肉眼で探すしかないと思って寝ずに探してたら偶然、シルルクの方から顔を出したわけだ。いやー俺もついてるぜ一週間くらいかかる気でやってたからなあ、いや助かったぜ」
「なぜお前はそんな平気な顔で同族を殺せる、お前は何のためにそんなことをしている」
「何のためだ? そんなの決まってる、王への忠誠さ」
「あの王への忠誠だと?」
「そうだ、王は俺の考えたような理想郷を作ろうと考えている、だから俺はその理想郷を作るために王へ忠誠を誓い掟を破った者に罰を与える役目を受けた、もちろん心が痛まないわけじゃない、だって同族を殺してるんだからな友人だって殺したこともある、だがそれも全て」
「王の作ろうとする理想郷のため......か......」
「そうだ、わかってんじゃねえか」
「その理想郷がどんなものかは知らないけど、間違いなくわかることは、それが私たちの理想郷ではないと言うことだね」
あひるが割って入りシルルクの背中を押した。
「ああそうだ、それは俺ら魔族の理想郷でもない、魔王の理想郷だ!」
「俺の理想郷を否定するか!」
メダンが右手を大きくなぎ払った、その瞬間ぽことあひるの体が引っ張られるように飛ばされ壁に体を強打した。
「ぐぅっ……!」
「二人とも!」
かべに張り付いた状態になり、まだ壁に向かっての力が働いている、身動きも取ることができない。
「なに……この力……」
またメダンが右手を前に出した、すると今度はシルルクの体がメダンに引き寄せられた、そしてシルルクの首をメダンの右手が掴んだ。
「ぐはっ……!」
メダンはシルルクの首を片手で掴んだまま持ち上げられ、シルルクの体が浮いた。
「シ……シル君……」
「そうだなぁ」
メダンは懐から瓶を取り出した、中には何やら液体が入っているがあひるがその液体を知っていた、そう麻痺薬だ。メダンは瓶をあひるとぽこの方へ投げて割った、液体は煙を発生させて部屋中に蔓延した。それを吸ってはいけないと分かっていても、壁に押しつけられる力で息がしづらくなっていたため既に苦しくなっていた、そのため息をせざる終えなかった、すると壁への押し付ける力がなくなり解放されたが、既に体の力が抜けて全く動けなくなっていた。
「今こいつを殺すのは待ってやる、そしてこいつと戦ってやる、勿論俺が勝てばこいつを殺すし俺が負ければ俺が死ぬ、そんなことはないだろうがよ、だからこいつが死ぬまでに駆けつけてこい、そしたらまた逃げれるかもしれないぜ?」
「シル……君……くぅ……」
メダンはシルルクを拐い飛んでいった、二人の痺れが全身に巡り、完全に動けなくなった。でもあひるはシルルクを信じていた、私たちが居なくても彼は十分強いと知っているからだ、それに連れて行かれる一瞬に見せた彼の表情は、昨日出会った頃の顔とは違いたくましい表情をしていた。
続
ー今回使用した魔法ー
・フロウ:無詠唱風
あひるが得意とする魔法、風をコントロールして浮遊する魔法。近くにいる人や物も一緒に飛ばすことができるがかなりの集中力が必要。
・スチームバン 無詠唱
水属性と火属性を使った魔法、水の塊に強力な火力をぶつけて蒸気を発生させて見え辛くする魔法、ぽこの作った氷の的を詠唱魔法で蒸発させた時の事から考案された。