単純なお笑いシリーズ ジョセイセンヨウシャ
いつものごとく、だらっと、気楽に、読んで下さい。肩の力を抜いてね。
駅に向かって歩く、最寄駅から電車を使うのは何年ぶりだろうか? 十六、七年ぶりくらいかな、いつもは車通勤だったから。いや、十六年七カ月と十一時間ぶりくらいか。
駅前の通りもだいぶ寂れてるなシャッターが閉まっている店が多い。でも朝七時だからまだ開店していないだけという可能性もあるか。昔は大企業の拠点が複数あったため急行が止まっていたが、企業が撤退したため人の乗降が少なくなり、急行が止まらなくなり、チェーン店のような形態のお店も大分撤退してしまった。
今日は出張で新幹線を使うので久しぶりの電車だ。駅前は広く、歩道やバスターミナルも整備されているけど人は多くない。駅も大きくて綺麗なんだけど、今だと急行の通過待ちに使われる事が多いらしい。
でも好都合な事もある。実はこの駅始発の電車があり、それに乗ろうと思っている。その時間に合わせて駅に向かったが、既に電車は到着しているようだ。駅の改札を通り過ぎて思う、十六年七カ月と十一時間十三分三十七秒ぶりだったと。
階段を降りて電車を見る、さてどこに座ろうかなと、ぱっと見た感じ目の前の六号車は結構座っている。じゃあ五号車方面に向かうか七号車方面に向かうかと一瞬迷っていた時に、構内アナウンスが入った。
『イツモ、ブンサンジョウシャニ、ゴキョウリョクイタダキ、アリガトウゴザイマス。マエヨリゴゴウシャハ、ジョセイセンヨウシャトナッテオリマス。ミナサマノゴリカイ、ゴキョウリョクノホド、ヨロシクオネガイシマス』
ふむ、五号車は女性専用車のようだ。じゃあ七号車方面に向かうか。六号車の前を歩いていると、再度駅構内にアナウンスが流れる。どうやら目の前の駅員さんがアナウンスをしているようだな。
『ナナゴウシャハ、ジョセイセンヨウシャにナッテオリマス。ミナサマノゴリカイ、ゴキョウリョクノホドオ、ヨロシクオネガイシマス』
はあ? 女性専用者が二両もあるの? 幾らなんでも多すぎない? そりゃあ六号車は混むよな。ちょっと駅員に聞いてみる。嫌味も言いたくなったし、目の前の奴にぶつけてやる。
「あの女性専用車が二両もあるのですか?」
まずは状況確認だ、変な指摘になったらまずいからね。ちゃんと理解してから指摘する。
『いえ、五号車はジョセイセンヨウシャで、七号車はジョセイセンヨウシャです』
「はあ? だから女性専用車なんですよね?」
『いいえ、五号車は女性専用車ですが、七号車はジョセイ専用車ですよ』
発音が若干違う感じがしたが、女性専用車じゃないの?
『あれジョセイをご存知無いのですか? 三国志の武将ですよ』
「知らねーよ、何だよ三国志の武将って、意味わかんねーよ」
『そうですか結構有名だと思ったんですけど三国志』
「いや三国志は知っているよ! ジョセイも言われてみれば、そんな武将も居たかもって思い出して来たけどそうじゃねーよ! 何でジョセイ専用車があるんだよ」
『それはジョセイが居るからですよね?』
「居る訳ねーだろうよ! 何でジョセイが居るって言いきれるんだよ!」
『いやだって、七号車見てくださいよ。ほら何人も乗っているじゃないですか』
「はあ?」
実際に七号車を見ると、何人も乗っている人が居る。あれ全員ジョセイなの? おかしくない?
「ちょっちょっと、あの人たちはジョセイなの? どうやって判別しているんですか?」
『自己申告制なので、我こそはジョセイだ! って人は、誰でも乗れますよ』
「意味わかんねーよ。なんだよ我こそはジョセイだ! って。じゃあ、私もあの車両に入って座っても問題無いって事ですか?」
『はい。でもジョセイである、って事が他の人から問われた時に答えられるようにして下さい。信念が無い人は乗れません』
「ごめん全然理解出来ないんだけど、どうすれば自分がジョセイであるって証明出来るんですか?」
『強い意志ですね。だいたいの人はジョセイがどんな人物だったのかを調べた上で乗っていると思います。まあ生没年でも答えられたら本人の証明になるんじゃないでしょうか?』
「もう調べているって言っている時点で本人じゃ無いだろ」
まあ、とりあえず座れるなら良いか。WIKIでジョセイの事を調べる。名前は徐盛、生没年不詳っと。
「って、オイ! 生没年不明じゃん。どうして生没年が答えられるんだよ」
『不明だからこそ、自分であるって証明になるんじゃないですか。根拠は自分で何とかしてください』
「ハードル高すぎだろ!」
『(クレーマーかよ)ブツブツ』
くっ、クレーマーだけどさっ。まあ、いいや、WIKI見たし、これ見ながら答えればいいだろ。
『あっ、七号車は撮影をしているので、ご理解をされた上でご乗車ください』
「はあ? どういう事? 痴漢防止対策ですか?」
『いえ、徐盛であることを確認する人、つまり自称徐盛に詰問する人が居るんですよ。そのやり取りが面白いので動画に録画して、インターネットに公開しているんです。偶にライブ配信してたりもしますよ、本当に全然ご存知無いのですね』
「理解の範囲を超えて過ぎて、何をどう言っていいか分かんないよ」
『どうです? 自称徐盛に詰問してみませんか? してみませんか? あんまり詰問してくれる人が居ないので是非ご協力をお願い致します』
「……」
悩む、そう、自称徐盛に詰問してみたい。そいつらの化けの皮を剥いでやりたい。でもなあ、インターネットで公開と言われてもなあ。
「あの相談なんですが、コラボ動画としてアップさせて貰えないでしょうか? 自分もインターネットで動画公開しているので」
『うーん、多分大丈夫だと思いますよ。ちょっと待って下さいね。……はい。そうです、はい、了解しました。OKだそうです』
「はえーな、判断早すぎんだろ。企業としてのリスクジャッジはどうなってんるんだよ。ところで動画再生数ってどん位なんですか?」
『月四百万PV位ですかね』
「多すぎんだろ。その割には知名度が低いんじゃ」
『全社員のPCで朝から晩まで連続再生しているので』
「真面目に仕事しようよ!」
しかし、いつまでここでやり取りをしている訳にはいかない、そろそろ乗車して詰問を開始しないとな。意を決して七号車に乗り込む。目の前には体つきが良い男性が座っている、武将と言われれば、そうと思えるような立派な体をしている。
「貴方は徐盛なんですか?」
周りの空気が一気に変わった。駅員さんが言っていたが詰問する人は少ないのであろう、私が問いただした事により緊張が走ったのだ。でも、とりあえず別の人に向かっているから安心しているようだ。でも隣の彼は明らかに緊張している、ちょっとだけ視線を送ったら外しやがった、くくくくっ。
『いかにも、我こそは徐盛だ』
自信たっぷりに回答するその姿は、まさに徐盛と言ってもおかしくない。いや、おかしいけどね。車内を走り、隣のドア側に座っている線の細い男性の場所まで移動する。
「貴方は徐盛なんですか?」
相当焦っているぞ、くくくくっ、油断したなぁおい、ここまで一気に来るとは思ってなかっただろう? ん? ふふふ、おのれの不幸を呪うがいい。
『ああ、我こそは徐盛だ』
多少びくついているが徐盛と返して来た。メンタルは強いのかな? どうなのかなー。もうちょっと弄っちゃおうかな。
「あちらの体つきの良い男性も徐盛だそうです。貴方も徐盛なんですよね? ね? 仮に生まれ変わりだとしてもですよ、同時期に生まれ変わるっておかしいですよね? そうですよね、そう、そうですよ。
という事は貴方の偽物が居るって事ですよね? 許せませんよね? いや、私は許せないです。ああーああー、分かってます、分かってますよ、みなまで言わないで下さい。許せないんですよね、大丈夫分かってますから。
じゃあ、あいつの化けの皮を剥がしましょう。さあ、一緒に行きましょう」
くくくくっ、あははははぁ、たまらないぞ、こいつは良いや、周りの慌てふためきようも楽しい。あー、端っこのやつ隣の車両に移動しやがった。ぷっぷっ根性無しめ、あいつの所に行けばよかったよまったく。
『わっ私は徐盛の生まれ変わりのジョジョセイだ。うっ生まれ変わった際に人格は別途形成されるので、同時期に存在してもおかしくは無いぞ』
『『『おおぉーー』』』
感嘆の声が車内に響く、何感心しているんだっつうの。ただあんな返しをしてくるとは思ってもみなかったよ、やるじゃないか。しかし、無言の時間が続くのは良くない、動画がつまらなくなってしまう。急に振り返って対面に居る男性に問いただす。
「貴方は徐盛なんですか? 同じ…」
『ああ我こそは徐盛だ、そしてジョジョセイの生まれ変わりのジョジョジョセイの生まれ変わりだ』
畜生、先を越されて質問に対する回答を返されてしまった。くっ、次の獲物は…。
『ああ我こそは徐盛だ、そしてジョジョジョセイの生まれ変わりのジョジョジョジョセイの生まれ変わりだ』
視線が合っただけで返してきやがった。ていうかどんだけジョが延びるんだよ。
『ああ我こそは徐盛だ、そしてジョジョジョジョジョジョジョジョジョジョセイの生まれ変わりのジョジョジョジョジョジョジョジョジョジョジョセイの生まれ変わりだ』
結構続くなーおい、てか指折り数えてんじゃねーよ、どうみても偽名だろよ、まあ天丼はこんなもんで良いか。
「そうですか。じゃあ、ジョジョジョジョジョジョジョジョジョジョジョセイは、どんな人生を送られたのですか?」
慌ててる、慌ててるぞ。ふふふふ、連続して同じ質問をして、一問でターゲットが変わっていったので、連続して問われると思ってもみなかっただろう、あははは。
『うむ、中国山間部で生まれ、幼いころ虎に襲われて死んだ』
「ほっほおー…」
これはツッコミ辛いな、時代背景が掴めないし、大きなる前に死んだと言えば、それ以上深堀出来ないしな。
『ところで貴方、ここは徐盛専用車ですよ。当然徐盛なんですよね?』
うぉ反撃してきたぞこいつ、畜生舐めてたよ、まさか反撃されるとは思ってなかった。
「あっああ、我こそは徐盛だ…ぞ…」
大分歯切れが悪くなってしまった。頑張れ俺、頑張るんだ。
『おやおや? 徐盛なんですね? という事は生まれ変わりだとしたら、同時期に同じ人物が居るのはおかしいですよね? その辺はどう説明するんですか? ねえ、皆さんも聞きたいですよねえぇええーー!!』
おお、周りを巻き込みやがった、くっ。周りからも、そうだ、そうだと、調子に乗って反撃してきたぞ。くそう、ここまでか。残念だけどこれ以上は無理だな。
「ああ、我こそ本物の徐盛だ。そして他の物は影武者だよ」
『『なにぃ!!』』
「影武者どもよ、我の安全を確保するため、徐盛の振りを続けよ」
相手も引き際を理解したようだ、互いに矛を収める。楽しい時間だったな、また電車を利用するのも悪く無いわ。
はい、いかがだったでしょうか? 女性専用車を見てこの話を思いついたんでしょ、と思った貴方!
ぶっぶー。その通りです。でもみんなも女性専用車を見ているんだから、当然おんなじ話が思いついてましたよね? それを早く上げたかどうかの違いでしかないです。ふぅー間一髪先に掲載出来て良かったー。
性格の悪い主人公って責められそうで怖いので、なかなか書くのに勇気が必要でした。
ん? チュートリアル無双の続きはどうしたかって? いや書いてはいるんです。でも話がまとまらなくて現実逃避で、別の話を書いてました。もうしばらくお待ちください。
皆様の評価やブックマークのお陰で、チュートリアル無双ですが、7/16に7,371PVも有ったんです。大変ありがとうございます。俄然やる気が出ています。
他の作品も面白い話があると思いますので、これ面白かったな、と思う作品ありましたら、ブックマークや評価をお願いします。自分で言うのもあれなんだけど、面白いと思うんだけどなあ、チラチラ。