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第07話 レジーナの能力把握開始

 レジーナの支配する本拠地世界――孤高の帝国(アルーフエンパイア)は、八つの次元の異なる世界が階層構造を持って融合した形状を持っている。

 それは、レジーナが合計八種類の《世界超越珠》をその手にしているからである。また、それぞれの階層世界は元々《世界超越珠》が隠されていた世界の特徴を色濃く受け継いでいる。その為、各階層世界は便宜上、階層数と特徴を受け継いでいる世界の名前で呼ばれる事が多かった。

 そんな孤高の帝国(アルーフエンパイア)では、外の世界と繋がる出入口である世界間転移門がある世界を最上層の第一階層として、各階層世界をこのように呼んでいた


 第一階層世界:猛毒の世界ミヤメベレブ

 第二階層世界:砂漠の世界テミテベレブ

 第三階層世界:凍土の世界シーボヴァル

 第四階層世界:業火の世界マホメザイク

 第五階層世界:雷光の世界ミテカザイク

 第六階層世界:流星の世界トホリザイク

 第七階層世界:大空の世界テークビルゴ

 第八階層世界:真空の世界スバルビルゴ


 これら八つの階層世界は、真空の世界スバルビルゴの特徴を受け継いでいる第八階層世界を除いて、全て球形の惑星型世界であり、その赤道に当たる場所には一つ上の階層からの出入口である階層間転移門が存在している。そして、より下の階層世界へと降りる為の出入口となる階層間転移門は、その階層世界のどこかに厳重に隠され、各階層世界を管理する八大界王によって守られていた。

 しかも、各階層世界間では転移系の能力が阻害されている為に、転移によるショートカットをする事も出来ない。例外はレジーナ自身と彼女が許可を与えている存在のみだ。現在は特殊本拠地防衛NPCたち四十名のみが許可を与えられている。

 と言っても、同じ階層世界内であれば、ある程度は自由に転移が出来るので、孤高の帝国(アルーフエンパイア)の住人にとってはそれほどこの状況も不便であるとは認識されていなかった。


 孤高の帝国(アルーフエンパイア)を構成するそれぞれの階層世界には、レジーナの所有する《世界超越珠》を奪う為に侵入して来るプレイヤーを撃退する為に、要所要所に様々な仕掛けが施されている。

 それらの仕掛けと連携するように、あちこちにはNPCとは別に防衛用のPOPモンスターが配置され、強さや数、様々ないやらしい特殊能力などによって侵入者たちの行動を妨げていた。

 また、かつてレジーナと友人たちがお遊びのネタとしてや何かの試作として創った奇抜な建物や施設もあちこちに点在している。


 そんな各階層世界では、それらが現実のモノとなった事で、レジーナの予想していなかったとある変化が発生していた。

 孤高の帝国(アルーフエンパイア)はレジーナを頂点とした一つの国家と言うイメージで様々な設定を盛り込まれて創り上げられた世界だ。しかし、女帝であるレジーナとその臣下たる特殊本拠地防衛NPCたち、そして官僚や軍の隊員などの実務を担当する本拠地防衛NPCたちと言う国家組織は設定されていても、その臣民たる国民の設定は存在しなかった。

 その結果、その辻褄を合わせる為に起こった変化がPOPモンスターの国民化だった。

 現在、孤高の帝国(アルーフエンパイア)の各階層世界にはPOPモンスターたちが生活する街や都市が、元々あった建物や施設、仕掛けなどと矛盾しないような形で形成されていた。

 それらの都市は、少なくとも数百年、下手をすれば千年以上の歴史を持った知性あるモンスターたちの近代都市とも言える代物だった。その外観こそ城壁に囲まれた中世などの城砦都市にも見えるモノだったが、壁の内側に存在している街並みは、レジーナの知る二〇七八年の地方都市よりも都会化が進んでいるように見えた。

 各階層世界は、その名前の通りその多くが猛毒の大気と大地で覆われた死の世界であったり、全体が砂漠化した灼熱と極寒の世界であったり、全てが氷に閉ざされた絶対零度の世界であったりと、文明的に生活するには厳しい自然環境を持っていた筈だったのだが、そんな程度の問題は魔法と科学の複合技術の前ではあっさりと解決してしまっているようだった。


 つまるところ何が言いたいのかと言えば、各階層世界は自我を持ったモンスターたちの楽園となっていて、レジーナでも迂闊に弄る事が難しくなっていたのだ。


 なぜ、そのような事でレジーナが困っているのか? それはNPCたちとの謁見を終えたレジーナが、まず自分の能力の変化やこの世界と『UPN』との違いを確認しようとした所まで遡る。

 謁見を終えて、一旦動きやすい格好へと着替えたレジーナは、自分が多少暴れても問題無い場所を探し始めた。当初のレジーナは、どこかの階層世界の片隅であれば誰にも迷惑はかからないと思っていたのだ。しかし、ルウェルの説明で、最下層を除いても合計で地球と同等の面積を誇る孤高の帝国(アルーフエンパイア)の各階層世界には、現状どこにもそんな場所は存在しない事が分かったのだ。


「それじゃあ、どこかいい場所は無いの? 倒れた影響で調子が少しおかしいから、出来れば自分の能力の確認がしたいんだけど?」


「もちろんございます。レジーナ様のお力を受け止められるだけの強度と広さを持った場所でしたら、ここより他に考えられません」


 そう言ってルウェルがレジーナを導きながら次元転移門を創り出して移動したのは、孤高の帝国(アルーフエンパイア)の第七階層世界:大空の世界テークビルゴに浮かぶ人工浮遊島だった。

 この第七階層世界は、木星のようなガス惑星にも見える世界であり、大地や海は存在せず大空のみが広がっている月と同程度の大きさの惑星型世界だ。かわりに大空にはいくつもの浮遊島と呼ばれる空に浮かぶ大地が存在し、ここに住むモンスターたちは各浮遊島に都市を形成して暮らしている。浮遊島の大きさは最大で北海道の十倍ほどの面積を持ち、小さいモノだと家が一軒建つかどうかと言った程度のモノも存在する。

 レジーナがやって来たのは、そんな世界に存在する人工的に創られた浮遊島の一つだ。

 レジーナは忘れていたが、これらもレジーナの友人たちの作品だ。


 やって来た人工浮遊島は、大きさだけならそれほど大きくは無い。精々が東京ドームに換算すると二、三個分くらいの大きさだろう。

 しかし、この人工浮遊島は、他の人工浮遊島はおろか、天然の浮遊島の全てよりも頑丈に創られているのだ。その材料には、『UPN』の最上位金属素材である六天鉱の内の二種類、ゼウシウムとテリオサイトの合金であるヘヴン合金が大量に用いられている。

 そのおかげでプレイヤーの手によって作られた浮遊島であるにもかかわらず、最上位プレイヤーが全力で暴れても破壊出来ないくらい頑丈な性能に仕上がっている。


「ああ、そうか、ここがあったね」


 レジーナは、楕円形の超巨大闘技場のような形の人工浮遊島の風景を見渡しながら、記憶の片隅に追いやられていた情報をすくい上げる。


「はい。ここならば、レジーナ様のお力でも十分に受け止められる事でしょう」


「ありがとうルウェル。でもその前にいろいろと確認しなきゃね」


 ルウェルの答えに納得したレジーナは、おもむろにメガネを直す動作のように指を鼻根に当てる。それは、『UPN』でのメニューウインドウを開く際の動作だ。

 目覚めてすぐの時には、時間が無くて確認を後回しにしたが、この世界と『UPN』がどのような関係性にあるのかを正確に把握していない以上、『UPN』で出来た事がどの程度可能で、何が不可能になっているのかの確認は、この世界で生きて行くと決意したレジーナにとっては、最重要の作業だった。

 レジーナの動作に反応して、レジーナの視界に『UPN』時代から慣れ親しんだウインドウが開く。ウインドウが再度問題無く開いた事に、取り敢えず安堵のため息を吐くレジーナ。慎重にその動作を確認しながら、操作に変化が無いかを確認して行く。

 すると、いくつかの項目が黒くなっていて選択が不可能になっている以外は、『UPN』の頃と同じ操作で問題無く動作する事が確認出来た。


(やっぱり、メニューは問題無く開けるみたいだ。まあ、これが出来ないと流石にどうしようもないけれど)


 そんな事を思いながら、レジーナはまずステータス画面を開き、自分のステータスを確認する。


(細かい数値は正確には覚えてないけど、たぶんステータスも変化なし。種族も位階(クラス)も変わってないな。これなら大丈夫そうだ)


 自分が半生を捧げて育て上げたレジーナと言うキャラクターが、しっかりと今の自分自身になっていると言う事に、レジーナは安心する。しかし、それと同時に自分が完全に人間とは違う存在へと変わってしまった事を、改めて実感してしまう。


 レジーナの種族は、簡単に言えば最上位の蜘蛛の魔族だ。


 そして、それは初期選択した種族から、蜘蛛系統の魔族へと何度も進化を続けて行き、最終的には進化を極め、特殊な条件を満たした魔族のみが至れる隠し種族にまで到達していた。

 その時のままの能力ならば、レジーナにはスキルとは別に種族的に獲得した数々の種族特性を持っている事になる。

 具体的には蟲神の糸生成を筆頭とした糸生成能力、蟲神の毒生成を筆頭とした毒生成能力、糸念操作、収糸空間、傀儡創造、下位眷属創造、中位眷属創造、上位眷属創造、万軍の支配者、超越する世界、自縛する自己、数多の縛帯、祝福の虜囚、呪縛の言霊、知識の幽閉、束縛の結界、制縛のオーラ、捕縛の心得、断罪の就縛、纏縛の守護、魂の繋縛、超越五感、第六感、蟲神の毒攻撃、虚空踏法などの能力がある。

 さらに選択した属性と種族から決定された各種の耐性と弱点。それに加えて特定属性領域での能力低下や継続ダメージと、自由、解放属性系統の能力に対しての脆弱性が与えられている。

 ゲーム的な能力にはなっていないが、もし、フレーバーテキストの内容まで含めてその内容が現実化しているのならば、今のレジーナは寿命を超越して不死身に限りなく近い存在となっている筈だ。


 そんな異形の存在になってしまえば、ある程度悲観的になってしまう人間もいるだろう。

 しかし、レジーナに人間と言う種族に対する未練はもはや残ってはいない。むしろ、人間であるよりもより長くレジーナとして生きていられる事への喜びすら感じているのだから。


 次にレジーナは、習得しているスキルの数と種類、ストレージの中身と配下ストレージの中身を確認して行く。結果、スキルと所持アイテムに関してはおそらく変化していないと言う事が確認出来た。特に未使用の課金アイテムがしっかりとストレージに入っていた事はレジーナにとって喜ばしい事実だった。しかし、全く問題が見つからなかった訳では無かった。レジーナがテイムしたりスキルで創造したりしたモンスターなどが保管されている筈の配下ストレージが、なぜか黒くなって操作出来なくなっているのだ。


(あれ? 何で配下ストレージは操作出来ないんだろう? 他は大丈夫なのにこれだけ黒くなってるなんて、何か理由があるんだろうか?)


 レジーナが疑問に思いながら配下ストレージを弄っていると、その答えは向こうからやって来た。


『レジーナ様。お久しぶりにございます』


 そんな機械的な音声と共に姿を現したのは、天を覆い隠さんばかりに巨大な機械の龍。

 蛇を連想する東洋龍のような細長い姿のその龍は、レジーナのいる人工浮遊島の上空にとぐろを巻くように滞空すると、光と共に忽然と姿を消す。

 しかし、その次の瞬間には、人化を果たしてレジーナの目の前に片膝をついて跪いた臣下の礼を取った姿で現れる。

 その見た目は何処かルウェルと似た雰囲気のある白髪金眼で、黒いタキシード姿の美丈夫であった。

 頭を垂れたままの彼は、そのままレジーナに対して忠義を示し始める。


「レジーナ様のお呼びにより参上いたしました。帝国近衛騎士団(インペリアルナイツ)総団長にして、帝国筆頭騎士ローウェ。レジーナ様の剣として全身全霊を持って務めを果たしましょう」


 と言うセリフを一息に発して満足したのか、ローウェと名乗った男性はレジーナの言葉を今か今かと待ちながら跪いている。

 それに対してレジーナは、いきなりのこの状況にいささか混乱していた。

 そもそも、レジーナは帝国近衛騎士団(インペリアルナイツ)などと言う組織を作った覚えが無い。それなのに目の前の男はその組織名を誇らしげに名乗り、レジーナに高い忠誠心を持っているようだった。

 その男の姿も、レジーナには見覚えが無い。一応、謁見の際にレジーナの玉座の斜め後ろにいたのは覚えているが、その時以前に見た覚えが無いのだ。一見NPCであるように見えるが、こんな外見のキャラクターを創った覚えはレジーナには無かった。ただ、男が名乗ったローウェと言う名と、男が人化する前の機械の龍の姿には見覚えがあり過ぎた。

 そう思って改めて配下ストレージ画面を確認すれば、その画面は帝国近衛騎士団(インペリアルナイツ)一覧と言う名前にいつの間にか変わっており、操作は今までのようには出来ないものの、その所属騎士の階級や所属部隊などと言った情報が確認出来るようになっていた。

 最後の確認の為に、こっそりとローウェに鑑定スキルを使用してみたレジーナは、その情報で彼の正体に確信を得る。


「久しぶりだね。ローウェ。楽にして良いよ。いきなり呼び出して悪かったね。謁見の時には帝国近衛騎士団(インペリアルナイツ)は警備の任務があったから、直接話が出来なかったからね。ローウェたちにも僕が倒れて心配をかけたみたいだから、こうして改めて話しておこうと思ったんだ」


 そう、このローウェと言う男の正体は、レジーナがかつてテイムしたレイドボス(・・・・・)――それも、当時歴代最高難度と恐れられた化け物級のイベントボスモンスターだった。レジーナもまさかレイドボスをテイム出来るとは思っていなかったので、当時はかなり驚いたものだった。

 そんなテイムしたモンスターに付けた名前がローウェだったのだが、その後もたびたび強力なモンスターをテイムしては配下ストレージに死蔵して行くレジーナを見て、レジーナの友人の一人が勝手に考えたのが帝国近衛騎士団(インペリアルナイツ)と言う組織だった。

 だが、完全に個人の妄想の産物だった帝国近衛騎士団(インペリアルナイツ)は、この世界が現実となった事で日の目を見る事になる。

 そうして色々と辻褄が合わさった結果、帝国近衛騎士団(インペリアルナイツ)はこの世界の現実として形となったのだ。

 ただ、その副作用としてゲームの時はプレイヤー用に制限されていた能力が、敵として出て来た時のままの完全な能力へと解放されてしまっていると言う現象が発生していた。

 当然ローウェのステータスもそのくびきから完全に解き放たれているので、下手なカンストプレイヤーくらいなら一撃で屠れるくらいの能力を手にしていた。


「勿体無きお言葉です。レジーナ様のご配慮は感謝の念に堪えません。レジーナ様がお倒れになったと聞いた時は、我らの無力を嘆いておりましたが、こうして元気なお姿を拝見して今は胸をなでおろしております。団員一同を代表して改めて回復を祝わせていただきます」


 レジーナの言葉に顔を上げたローウェは、感涙を流しながらレジーナの回復を喜ぶ言葉を口にする。

 そのままローウェと軽く話しながら自分の認識とローウェの記憶の齟齬を埋めて行く。

 どうやら、ローウェの認識では、ローウェを倒したレジーナにローウェが心酔した事がきっかけでレジーナの配下となり、孤高の帝国(アルーフエンパイア)の建国と同時に発足した帝国近衛騎士団(インペリアルナイツ)においてずっと総団長の地位にあると言う事らしい。

 その他にも、ローウェにとってルウェルは自分の要素から生まれた存在なので娘のようなモノとして認識していたり、レジーナの配下の中でも最古参に近い事から地位に関係なく頼られる存在になっていたりとレジーナにとっては初耳な話が多かった。

 確かにルウェルはNPCの製作時にテイムしたモンスターを種族に設定出来ると言うシステムが追加された際に、その種族をローウェと同じモンスターへと変更して創り直している。


 そう言った事実が現実化した際にそんな風に解釈されているという事にレジーナは少し面白さを感じていた。その理屈で行けば、特殊本拠地防衛NPCたちは全員帝国近衛騎士団(インペリアルナイツ)に親がいると言う事になる。

 通常の本拠地防衛NPCたちの中にも、そのシステムを利用して作られた者は一定割合いるので、帝国近衛騎士団(インペリアルナイツ)はその職務以上の特殊な立ち位置にありそうだ。

 実際、レジーナは帝国近衛騎士団(インペリアルナイツ)がどこに所属している組織なのか知らなかった。

 ただ、少なくとも孤高の帝国(アルーフエンパイア)における最高戦力を持つ戦闘集団なのは疑いようの無い事実だった。

 下はただのゴブリンやスライム程度だが、その上位階級の騎士たちはいずれもイベントレイドボスやフィールドボス、ダンジョンマスターと言ったレジーナが『UPN』で苦労して倒したボスモンスターばかりだ。それが、ボスだった頃の能力を取り戻し、一つの軍隊として組織立って行動していると言う事実は、レジーナでも敵わない程の圧倒的な戦力であると言えるだろう。


 そんな者たちまでもが自分に忠誠を誓ってくれていると言う事実に、レジーナもより良い支配者たらんと気を引き締めるのだった。

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