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第14話 落ちた先で辿り着いた場所

 黒い半球へと突っ込んだレジーナは、現在も相変わらず落ちていた。

 今回は完全に落ちていると言う表現が相応しいくらいに完璧な墜落だ。


 黒い半球はどうやら転移門と同種の性質を持っていたらしく、そこに突っ込んだレジーナは、次の瞬間には全く別の空間へと飛び出していた。

 しかし、その飛び出した方向が悪かった。

 レジーナが飛び出した先は、普通の宇宙空間であり極彩色の海のように危険は一切感じない。また、背後にはたった今レジーナが飛び出て来たと思われる、入ったモノとは別の世界間転移門が浮かんでいる。それだけであれば、レジーナは通常の宇宙空間を少しの間漂っただけで済んでいただろう。

 だが、レジーナの正面には運の悪い事に惑星が存在しており、さらに運の悪い事にレジーナの軌道はその惑星へと間違いなく落下する軌道だった。

 超越する世界の効果で惑星の引力の影響こそ受けていなかったレジーナだったが、大気の抵抗による減速効果も同じく受けられず、速度を保ったまま物凄いスピードで惑星へと落下して行く。

 レジーナの正面の空気は断熱圧縮によって赤熱し、大気との摩擦によって燃える流星となったレジーナは、その熱の影響も一切受ける事無く大気を切裂きながら突き進む。

 レジーナ自身は周囲からの影響を全く受けなかったが、そんな事は何の慰めにもならない程に、周囲へと様々な影響がまき散らされてしまう。


 通常の隕石を遥かに超える速度での落下は、時間にすればわずか十数秒にも満たない程度のモノだった。しかし、落下の様子を観察する事に集中していて加速していたレジーナの意識は、その十数秒を十数分程度まで引き延ばして認識し、その過程で様々な確認を行っていく。


 まず行ったのは、現在位置の確認だ。今まさに落ちている先にある惑星の様子や、つい先ほど飛び出したばかりの世界間転移門の形、それらを自身の記憶やマップスキルの情報と照らし合わせる事で、自分が今いる場所の情報を少しでも得ようとしたのだ。

 落ちているのは惑星の昼側なので、地上の様子はよく見える。地上は生物の生存に適した環境らしく、青い海と緑に覆われた大地が美しい。その中で灰色に見えるのは、人類の暮らす都市だろう。それらがまだら模様のようにあちこちに点在し、緑と茶色の大地と調和して共存している様子もうかがえる。

 レジーナとはぶつかる軌道では無いが、惑星の赤道付近からは数本の塔が宇宙まで伸びていた。形や伸びている場所などから判断して、おそらく軌道エレベータの類だろう。

 宇宙にもいくつか人工建造物が浮かんでいて、数隻の宇宙船らしきものまで行き交っている。それらから考えて、この星の人類は少なくとも頻繁に宇宙との行き来が出来る技術を持っている事は確実だ。

 そして、それら全てが、この緊急事態に陥る前に観察していた真空の世界スバルビルゴに存在した世界間転移門と有人惑星の特徴と一致していた。


(なるほど、やっぱりここは真空の世界スバルビルゴで間違いなさそうだな)


 本来対応していない世界間転移門同士の間で転移が発生する事は無い筈なのだが、レジーナが飛び出したのは真空の世界スバルビルゴと他の二十八の世界とを結ぶ世界間転移門で間違いが無さそうだ。

 レジーナが入った孤高の帝国(アルーフエンパイア)にしか繋がっていない筈の世界間転移門から、どうして別の世界間転移門へと出てしまったのかは不明だが、残念ながらそれを今すぐに調べる方法も無い。

 おそらくあの謎の空間で極彩色の海へと落ちた事に原因を探るヒントがありそうだが、再び不用意にあの空間の中に侵入すれば、たとえレジーナでも無事では済まないだろう。


 ただ、幸いな事に謎の空間について調べるヒントは目の前にもあった。あの極彩色の海を航行していた船の一隻と、目の前の有人惑星の周囲を飛び交っている宇宙船の中の何隻かがほぼ同じ形をしているのだ。つまり、それらが同型の宇宙船である可能性が高く、それは、この世界にいる人類――あるいは別の知的生命体――が謎の空間の極彩色の海を渡る技術を持っている可能性が限りなく高いと言う事実を示唆していた。


 その技術を知る事、もしくは宇宙船を手に入れる事が出来れば、孤高の帝国(アルーフエンパイア)へと無事に帰りつき、世界間転移門の安全な通行を確立出来る筈だ。


 現在位置の確認からレジーナがそこまで考えたところで、レジーナを包んでいた全能感と万能感が失われ、急激に強い倦怠感が襲ってきた。

 それと同時に、僅かだが落下の際に発生した熱もレジーナへと影響を与え始める。

 謎の空間で使用してから極彩色の海を沈む事十数秒、極彩色の海の底を突き破って黒い半球へと落下するまでに同じく約十数秒、その後世界間転移門から出て惑星の大気圏に突入するまでに約二十数秒、そして大気圏で流星となってから数秒が経過した現在、超越する世界の効果時間である一分が経過し、その効果が切れた事でレジーナへと様々な影響が周囲から齎され始めたのだ。


(あー、なんかすごくだるい。あ、超越する世界が切れたのか。ステータスが極端に低下するとこういう風に感じるんだね)


 レジーナの倦怠感の原因、それはレジーナが先ほど使用した切り札、超越する世界の使用後に発生する反動だ。二十八時間に一度しか使えない超越する世界だが、この種族特性の自身に及ぶあらゆる効果の影響を無効化すると言う効果は、数あるレジーナの種族特性の中でもかなり破格なモノだ。当然のようにそんな強力な能力には、いかにレジーナといえども逃れる事の出来ないリスクが存在する。そのリスクの正体こそが、使用後に発生する副作用、二十八時間に及ぶステータスの弱体化と上位スキルおよび一部の種族特性の使用不可、使用可能種族特性の弱体化と言うモノだった。ステータスの弱体化割合はおよそ十分の一、レジーナのステータスであれば弱体化後も十分に強いと言える数値を誇るが、それでも『UPN』の廃人クラスを相手にするには分が悪い。


(取り敢えず、このまま落ちるのは不味いな。減速しなきゃ)


 様々な能力が使えなくなっている中で、レジーナは幸いにも使用可能な種族特性である虚空踏法を使用して落下速度の減速を図る。


 レジーナが体勢を変えて足を落下方向へと向けて虚空を踏み込む。すると惑星の空に巨大な蜘蛛の巣がかかったようなエフェクトが発生するが、その蜘蛛の巣は以前の力強さを感じさせずにレジーナの速度に負けて引きちぎられるように破れて消える。それでもある程度レジーナの落下速度は下がり、それを何度か繰り返す事でレジーナは惑星上のとある都市の上空に静止する事に成功する。


(ふう、止まった。さて、早くどこかに下りないと……)


 何も無い虚空に蜘蛛の巣のエフェクトを発生させながら都市の上空で直立したレジーナは、眼下に広がる都市を俯瞰する。

 本来なら、特に気にする程に厳しい使用制限の無い能力である虚空踏法なのだが、現在は弱体化の影響で、一歩を踏みしめていられる時間が約一分と短い。さらに連続して使用可能な回数も、十数回程度まで落ち込んでいる。まだまだ回数には余裕があるが、悠長な事もしていられない。回数を回復させる為には、地面などのしっかりとした足場に一度降りなければならないので、このまま上空に居続ける事も不可能だ。スキルによる飛行も、使用可能な下位スキルでは使用制限や持続時間の問題により、使えない事は無いが時間稼ぎ程度にしかならない。

 そうでなくても、これだけ地上から近い所で大きな蜘蛛の巣のエフェクトを発生させていれば当然目立つ。

 それは、弱体化中のレジーナには避けたい事態だった。


(このままだとここにプレイヤーがいますよって大声で宣伝してるようなモノだしなあ)


 今のレジーナにとって最も警戒するべき確実に存在しているだろう危険は、『UPN』のプレイヤーと不用意に接触し、敵対してしまう事だろう。

 今のレジーナははっきり言って強くない。決して弱い訳ではないが、『UPN』の一般的なレベルカンストしたライトプレイヤーと戦っても負ける可能性があるくらいには弱い。

 ステータスはかなり弱体化していて、レベルカンスト後にそれほど熱心にキャラクターを育てていないようなプレイヤーと同等くらいの数値になっているし、折角コンプリートしたスキルも半分以上が使用出来なくなっている。さらに、蜘蛛の魔人としての肉体に由来しない一部の特殊能力系種族特性まで使用不可能となり、使用可能な種族特性に関しても、その多くがステータスの弱体化に伴ってその性能を大きく低下させている。


 そんな状態で孤立していると言う状況は、レジーナにとっては久々のピンチと呼ぶに相応しい状況だった。

 不幸中の幸いにも、レジーナにとって切り札の一つであり、行動指針にもなっている第六感は問題無く使用可能だ。その精度もほとんど低下していないと言うのは、レジーナにとっては本当に勿怪の幸いと言えるだろう。


 自身を取り巻く状況を踏まえた上で、レジーナは素早く今後の方針について考えて行く。


 まず、出来るだけ早く地上に降りる事は当然として、自身の安全を図り孤高の帝国(アルーフエンパイア)への帰還方法を探る為にどう行動するのかと言う事が重要だ。


 一番重要なのはもちろん弱体化が続く二十八時間を無事に過ごしきる事だ。それさえクリアしてしまえば、あとは回復した能力で多少の無茶でも押し通す事も難しくは無いだろう。まあ、だからこそそれが難しく、実現には冷静で的確な判断が必要なのだが。


 次に重要なのは、当然孤高の帝国(アルーフエンパイア)への帰還方法を探る事。これにはあの極彩色の海に関しての情報を集める事が必要不可欠だ。それが分からなければ、たとえレジーナの能力が回復しても孤高の帝国(アルーフエンパイア)へと戻る事は出来ないし、仮に戻れたとしても今度は自由に外に出られなくなってしまう。そうなれば、いずれ極彩色の海を自由に航行する技術を持つこの世界の住人が孤高の帝国(アルーフエンパイア)へとやって来て、孤高の帝国(アルーフエンパイア)は自衛の為に不利な戦いを強いられる事になるだろう。ただし、当たり前だがこれはレジーナ自身の安全に優先する程の重要事では無い。たとえ能力が回復していたとしても、危険だと判断するような事があれば諦めて他の手段を探る事も検討する必要があるだろう。


 最後に重要なのが、『UPN』のプレイヤーについての情報を集める事だ。この世界の情報そのものが不足している現状では、まず『UPN』のプレイヤーがいると言う前提で、プレイヤーたちがどのように行動しどのようにこの世界に順応しているのかを知る必要があるだろう。

 それが、この世界について知る為にも、レジーナが不用意にプレイヤーと敵対しない為にも重要となる。

 それに、これはレジーナの友人たちの情報を集める事にもなる筈だ。


 そこまで決めたレジーナは、改めて数百メートル下に広がる都市の様子を<千里眼(クレヤボヤンス)>のスキルを併用しつつ眺めて行く。


 <千里眼(クレヤボヤンス)>などの超能力系のスキルは、レジーナが最も得意とするスキルであり、『UPN』の頃から愛用していたスキルでもある。これらの超能力系のスキルは、効果範囲が狭い代わりに妨害やカウンター系のスキルの影響を極めて受けにくいと言う特徴がある。仮に防諜系のスキルやアイテムが使用されている場所をうっかり見てしまっても、このスキルならば相手に感づかれる事はあっても、こちらに被害が出る事は無い。


 幸いな事にレジーナがいるのが上空数百メートルと言う事もあってか、まだ下に見える都市では人々がレジーナに気が付いた様子は無いようだ。

 都市には百メートルを超える高層建築がいくつも見受けられるが、流石にレジーナのいる高さまで届く程のモノは存在していない。それら高層建築などの様子から、その文明レベルはかなり高い事が窺える。高層建築には網の目のように空中回廊が張り巡らされ、それらを多くの人々が行き交っている。また、それ以外の空間も空を飛ぶ車のような物が規則的に飛び交い、流れのような物を形作っていた。


 都市は眼下いっぱいに広がり、レジーナが余裕を持って移動可能な範囲を考えると、この都市に下りる以外には選択肢が存在しないだろう事は明白だった。

 この都市が『UPN』の頃に存在した都市と同様のモノであれば、そこには多くの種族が入り混じって存在している筈なので、異形の姿をしているレジーナが下りて行っても大きな問題は無いと考えられたはずだ。

 しかし、今レジーナの下に広がっている都市には、何故かレジーナが確認した範囲には人間しか存在せず、魔族と呼べる様な見た目をしている種族は全く確認出来ない。それどころか人族としてそれなりの数がいる筈のエルフや獣人の姿すら確認する事が出来なかった。


 レジーナはその事に若干の不安を感じはしたものの、特に危険を感じた訳でも無く、残り時間が差し迫り他に選択肢も無かったので、眼下の都市に下りる事にしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういうの好き!なんかもう全部好き! [一言] あーでもないこーでもないしながら感想書いてたと思ってたけど書いてなかったっぽいんで、文面に頭悩ませるのはやめてシンプルに。 いつか続きが読め…
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