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97. 監査員、王都より来る

 皆さん、こんにちは。マリーンです。私は今ギルマスの部屋を訪れています。


「監査ですか」

「ああ。王都の本部から人員が派遣される」


 呼び出された用件はルークさんについてでした。犯罪ギルドとの戦いやドラゴンの討伐に参加しなかったルークさんに本当にSランクの実力があるのかを本部は疑っているそうです。


 Sランク冒険者は様々な特権が与えられる反面、多くの制約に縛られます。たとえば有事には強制的に動員させられるといった感じです。ルークさんがそれを成せていない事を本部は問題視しているとのこと。


「この件はお前に任せる。派遣される人員とルークとの橋渡しをしろ」

「わかりました」




 数日後、王都からの人員がヨハンに到着しました。馬車から二人降りてきます。金髪ロールな少女と黒髪ローブの青年です。私はそれを出迎えました。


「私は冒険者ギルドヨハン支部のマリーンと申します。あなた方が王都からの監査員で間違いないでしょうか」


 わたしがそう訪ねると金髪ロールがそれに答えます。


「ええ。私はルーミン・スペード。スペード家の第三女よ。こっちはトール。Sランク冒険者よ。」


 思ったよりも大物が派遣されましたね。スペード家といえば伯爵、つまり貴族です。家督を継げなかった貴族家の次男三男がギルドの職員になることは珍しくありませんが、政略結婚としての使い道がある子女が職員になるとは珍しい。


 さらにもう一方は国内に数名しかいないSランク冒険者。杖を持っていることから魔法使いのようです。


「長旅お疲れ様です。ささやかではありますがおもてなしの準備ができていますのでどうぞこちらに。」

「あら、辺境の職員の割にはいい心掛けね。見直したわ」

「思ってたよりも賑わった街だな」

「あはは……それはどうも」


 私は高級料理店で二人を接待しました。王都に暮らす人はそのことに誇りを持っている場合が多いです。ルーミンさんもその例にもれなかったようで、王都とヨハンを見比べては王都の自慢をしてくれました。


 聞いてて楽しくないですがこれも仕事。私は笑顔で相槌を打ちながらそれを聞き流しました。


 領収書はギルドの名義で切りました。満腹です。



 その日は二人の到着が遅かった事もありそれで終わり、監査は翌日となりました。




 そして翌日。私は二人をギルドの会議室に案内しました。そこには青髪の剣士が既に待っていました。ルークさんです。これからルークさんの査問が始まるのです。


「あなたがルークね? 私は監査員のルーミン・スペードよ。こっちは助手兼護衛のトール。あなたと同じSランクよ」

「トールだ。よろしく頼むわ」

「ルークです。こちらこそよろしく」

「ではまずあなたの素性から。聞かせてもらうわ」


 ルーミンさんはそう言うと資料を手に取りました。


「Sランク冒険者ルーク。男性、20歳。出身地はヨハン。3年前に冒険者に登録して以降数々の難依頼を達成。登録して2年でSランクに昇格、ね。大したものだわ」

「それほどでも」

「私の勘違いかしら? ヨハンは出来たばかりの街で20年前には存在してなかったと思うのだけど。どうして出身地がヨハンなのかしら?」

「ああ、それは僕が迷い人だからです」

「迷い人?」

「はい。僕は3年前に記憶喪失の状態で保護されまして。新しい身分をもらった時に手続きの関係でヨハン出身になったんですよ」


 ルークさんは質問に淡々と答えました。職員の私も知らなかった意外な過去です。


 ルーミンさんは続いて過去に達成した依頼について聞きはじめました。ルークさんはその時の出来事についても語っていきます。さながら長編スペクタクルのような経験談に驚かされながらも、質問は続いていきました。


 そうして場が温まった頃、ルーミンさんは一旦姿勢を正すと次の資料を手にしました。その目に真剣さが宿ります。


「ではそろそろ本題に入りましょうか。ルーク。以前行われた犯罪ギルドという組織の一斉摘発があった事は知ってるわよね?」

「はい」

「さらに先月はヨハンの街中にドラゴンが現れ、軍が出動して何とか討伐した事も知ってるわよね?」

「はい」


 本題に入ったにもかかわらずルークさんは変わらず淡々と返します。ルーミンさんはその様子に目を細めつつ問い質しました。


「なぜあなたはこれらの有事に参加しなかったのかしら? こういう時のためにSランクが設けられているのよ?」

「単純にヨハンに居なかったので」

「ではどこに居たのかしら?」

「世界樹の迷宮です。犯罪ギルドの時は依頼で、ドラゴンの時はレベル上げのために潜ってました」


 ルークさんは依頼の内容やその時の状況を詳しく話していきます。ルーミンさんは資料を見ながらルークさんの説明に耳を傾けていました。そして説明を聞き終わったルーミンさんは納得顔で資料を置きました。


「そう。大体わかったわ。では今回の件については不問にします。ただし……」


 ルーミンさんはそこで一旦言葉を切り、ちらりとトールさんを見ました。


「ただしそれとは別で、ルークにはSランクにふさわしい実力があるのか確かめさせてもらうわ」


 その言葉に、会議室に不穏な空気が漂います。


「確かめるっていうのは、どうやってかな?」


 ルークさんが質問します。


「うちのトールと戦いなさい」


 ルーミンさんの答えに、ルークさんは今日初めての困り顔を見せました。ルークさんとトールさんの目が合います。


 こうしてここに、Sランク冒険者同士の試合が決まったのでした。


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