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94. 歪み

 夜、私は人気のない倉庫でレイジを待っていました。


 私はレイジを手紙で呼び出しました。手紙を受け取ったレイジはニヤニヤと鼻の下を伸ばしていました。ラブレターだとでも思ったのでしょう。まあ、そう思うような内容にしたので当然ですが。



 そして約束の時間になり、レイジが姿を現しました。私はレイジを見据えます。


「こんな時間に何の用だ?」


 そう聞くレイジは期待に満ちた顔をしていました。せめて下心を隠すくらいはして欲しいです。あれだけ異性に囲まれているのにまだ足りないのでしょうか。


「レイジさん。あなたにお話があります」

「お前、ギルドで働いてた娘だろ? ふーん、悪くないな」


 レイジが私の体を嘗め回すように見ました。不快指数が跳ね上がります。


「ところでドラゴン討伐の報酬はどうでしたか。かなりの額になったでしょう」

「ん? 大した事ねーよ。1億くらいだ。何か欲しい物でもあるのか? 今日の俺は機嫌がいいから何でも買ってやるよ」

「いりません。その報酬はドラゴンを討伐した皆の物ですから」

「……あ?」


 私の返答にレイジが眉をひそめました。


「討伐に参加していないあなたが受け取るべきものでは無いと言っているのですよ」


 私が続けてそう言うと、レイジに困惑の色が見えました。


「な、何を……」

「数百の魔物から街を守った事も、本当はそんな事無かったのですよね。それにあなたは反乱騒動の黒幕です。あなたはまだ罪を償っていない」

「なんの話だ! 意味が分からない!」


 レイジが反論しました。その反論はある意味では正しいのでしょう。なぜなら今の世界の中ではレイジはなにも悪事を働いていないからです。世界の改竄によって悪事を無かった事にしているからです。


 ですがそんな言い訳は認めません。私はレイジの行いを追求します。


「あなたは民衆を煽り反乱を引き起こそうとしたよね」

「そんな事件はない!」

「まあ、これは自分の尻拭いをしただけなので置いておきましょう。問題はその後です」


 私は一呼吸置きました。そして続けます。


「あなたは冒険者たちが狩ってきた魔物を、自分が狩った事にしました。それも、街に降ってきたのから守った事にしてです」

「証拠はあるのか!」


「その時あなたが狩ったという魔物の数は、冒険者たちが1日で狩ってくる量と同じでした。そしてその日に限って冒険者たちは狩りの成果がありませんでした。あなたが成果を奪ったからですよね」

「そんなのただの推測だ!」

「私が覚えています。あなたは英雄ではない」


 レイジが憎々しげに私を睨みました。


「そして昨日、あなたはドラゴンから1人逃げ出した。ドラゴンは私たちが軍や衛兵隊と協力してやっと倒しました。その成果をあなたは自分の物にした」

「俺が倒したのが事実だ!」

「世界を改竄してですよね」


 今やレイジの顔は真っ赤でした。茹でダコのようです。


「なんなんだお前は!? どうして覚えてるんだ! なんで俺を悪者にしたいんだ!」

「悪者ですよ。他人の人生を、努力をないがしろにして成果を奪っている。あなたは泥棒です」


 レイジが剣を抜きました。目が血走っています。


「あなたが世界を元に戻して二度とこんな事をしないと言うのであれば、今回は見逃します。抵抗は止めてください」

「うるさい! 俺は特別なんだ! この世界では自由に生きるって決めたんだ! 邪魔をするな!」


 交渉は決裂しました。私はブレスレットをかざしエアーキャノンを撃ち込みました。レイジが吹き飛びます。


 吹き飛んだレイジは倉庫に積まれていた袋の山に突っ込みました。袋が破け中から粉が飛び散ります。どうやら小麦粉のようです。


「うおおおお!」


 レイジが剣を振りかざし突っ込んできました。


 レイジの剣を岩石弾が弾き飛ばしました。エルーシャの仕業です。スリングショットを貸して潜ませておいたのです。ナイスショット。


「この!」


 レイジが小麦粉の袋を投げてきました。無駄にステータスが高いためすごい勢いで飛んできます。当たれば大ダメージでしょう。


 私はエアーキャノンで袋を撃ち落としました。袋が破け小麦粉が周囲に充満します。視界が真っ白になりました。


 それを見て私はレイジの持つあるスキルを思い出しました。「火魔法」です。


 ボッ、という音が聞こえ明かりが見えました。レイジがファイアーボールを撃ったのです。


「あ、やば……」


 ズドン! と爆発が起き倉庫内が吹き飛びました。粉塵爆発です。私はモロに巻き込まれました。



 幸い私に対したダメージはありませんでした。服にいろいろスキルを仕込んでいたおがげでしょう。しかし、私は猛烈に息苦しさを覚えていました。


 さ、酸素! 酸素が無いと窒息する!


 私はブレスレットから新鮮な空気を出して吸いました。呼吸が楽になります。


「マリーン! 大丈夫!?」


 離れた所からエルーシャの声が聞こえました。煙で周囲が見えません。私はブレスレットを使い倉庫を換気をしました。煙が晴れると倉庫内はめちゃくちゃになっていました。


「レイジは!」


 私は周囲を見回しました。そしてレイジを発見。レイジは手のひらをこちらに向けていました。


「お前は邪魔だ! 俺の世界から消えろ!」


 レイジの手が光りました。













 私は見ました。レイジを中心に世界が歪んで行くのを。その歪みは同心円状に広がっていき、歪みに飲み込まれた後には元の光景が広がっていました。


 私は直感しました。この歪みが世界を書き換えているのです。


 この歪みに飲み込まれれば私は存在ごと消えるのでしょう。最初から居なかった事になってしまうのでしょう。


 想定外でした。まさか人の生き死ににまで干渉できるとは。


 もう歪みは私を飲み込まんとすぐそこまで迫っています。走って逃げきれる速度ではありません。私は歪みに飲み込まれました。


 私の視界がぼやけました。世界が歪み、そして重なって見えます。そして歪みが一か所に集まっていき、ドラゴンを形作りました。


「ぎゃああああああああああ!!?」


 レイジの叫び声と同時に私は地面に投げ出されました。


「は? え?」


 私は自分の手を見ました。消えてません。私は生きていました。改竄が不発に終わったのでしょうか。


 グチャグチャという音が聞こえてきました。そして咽るような鉄の臭い。私は顔をあげました。




 ドラゴンがレイジを捕食していました。レイジは半身が無くなっており既に死んでいました。


「ファフロツキーズ……」


 ここは倉庫の中、屋根の下です。ドラゴンが空から降ってきたはずはありません。それなのに私の口からそんな言葉が漏れました。



 私の視界が再び歪みました。先ほど私を飲み込んだ歪みが引き返してきたのです。その歪みは先ほどとは比べ物にならないほど大きくなっていました。


 歪みはレイジに向かって収束していきました。ドラゴンもまた歪みとなってレイジに押し寄せ、そしてレイジを飲み込んで一点に集まり消えたのでした。


 


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