表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/138

92. ドラゴン

「魔物が出たぞー!」


 反乱騒動の痕跡を見つけた翌日、ギルドに男性が飛び込んできました。ファフロツキーズのようです。今日はファフロツキーズ対策に冒険者を待機させてあるので迎え撃つ準備は万端。


 と思っていました。


「ドラゴンが降ってきたぞー!!」


 その知らせに冒険者たちに動揺が広がりました。無理もありません。ドラゴンと言えば魔物の頂点。強力なブレスを吐き魔法を無効化する鱗を持つドラゴンは、並みの冒険者では相手になりません。


 男性に聞くと、ドラゴンは1体だけの模様。大きさは1階建ての家くらいだそうです。その大きさからして下位から中位のドラゴンと思われます。


「エルーシャ! 軍に連絡して出動要請! 私たちは軍が到着するまでドラゴンの足止めを行います!」


 私は即座に指示を出しました。時間がありません。うかうかしているとどれだけ住民に死傷者が出るか分かりません。


「ほ、本当にドラゴンなんか相手にできるのか!?」

「くそっ、やるしかねえのか……」

「死んだな、俺たち」


 冒険者たちの目が死んでいました。ドラゴンに挑むことの無謀さに絶望しています。それでも街を守るために戦わないといけません。非常時において冒険者は準軍人扱いとなります。敵前逃亡は許されません。


「おい見ろ! レイジだ! レイジが来たぞ!」


 その時、冒険者の一人が声をあげました。全員の視線がギルドの入り口に集まります。そこにはSランク冒険者のレイジが居ました。


「え? 何だ?」


 レイジは状況を把握できていないのか困惑しています。


「助かった! ヨハンの英雄が来たぞ!」

「これで勝てる!」


 冒険者たちが戦意を取り戻しました。レイジを捕まえて現場に運んでいきます。


「な、なんだ!? おい!」


 レイジがもがきますが、冒険者に囲まれてそのまま連れていかれます。私はレイジに状況を伝えます。


「ドラゴンが街に現れました。駆除してください」

「はぁ!? なんで俺が!」


 レイジが驚いたようにそう言いました。そこに冒険者が声をかけてきます。


「Sランクのお前が頼りなんだ! 英雄の力を見せてくれ!」

「お、おう! 任せとけ!」


 英雄と言われて自尊心をくすぐられたのか、レイジはそう返しました。……大丈夫でしょうか。



 現場につくと、周囲は既に瓦礫の山となっていました。建物がなぎ倒されています。住民たちがある方向から逃げてきます。その奥にドラゴンの巨体が見えました。


 岩のようなごつごつした体。体は太く、背には退化した小さな翼が生えています。おそらく地龍の一種でしょう。


「あれがドラゴン……」


 冒険者の1人が放心してそう漏らしました。たった1体のドラゴンにより街の1区画が壊滅していました。


「Bランク以上はドラゴンの注意を引いてください! それ以下は逃げ遅れた住民の救助を!」


 私はスリングショットを構え土魔石を放ちました。人の頭ほどの岩石がドラゴンの後頭部に命中しました。ドラゴンがいぶかしげにこちらを見ます。大したダメージは無い様です。


 私はドラゴンを鑑定しました、しかし結果は鑑定不能。ステータス隠蔽を持っているのか、もしくはスキルを無効化できるのか。


 ドラゴンが口を開きました。すると人間サイズの岩が口から放たれました。


「ちょ!?」


 私は横に飛びのきました。私が居た場所に岩が飛来しクレーターが出来ます。あっぶな!


 他の冒険者も周囲に散って魔法を撃ち込みました。とにかくドラゴンの敵意を住民から引き離します。そして敵意を引き付けることに成功した冒険者は岩のブレスから逃げまどうことになりました。


 その一方でレイジは動きません。剣も抜かず呆然とドラゴンを見ていました。


「何をやっているのですか! あなたも戦ってください!」


 私がレイジにそう言うと、レイジがこちらを向きました。顔面蒼白です。完全に戦意を失っていました。


「ぐあああああああ!!!!」


 冒険者の一人がブレスに被弾しました。岩が左腕にかすったようです。すぐには戦線に復帰できないでしょう。他の冒険者が狙われ役を引継ぎました。


 どうやらこのドラゴンは防御に特化しているらしく、動きは鈍重です。攻撃も体当たりか岩を飛ばすの2つのみ。そのおかげでなんとか時間稼ぎができていました。


 ブレスの流れ弾が飛んできました。巨岩がレイジの近くに着弾します。レイジは腰が抜けたのか尻餅をつきました。股間が濡れていました。失禁したのでしょう。


「うわあああああああああ!!?」


 レイジが錯乱し逃亡しました。他の冒険者を見捨て、逃げ遅れた住民を無視し、ただ自分だけが助かるために逃げたのです。


 冒険者たちの間に動揺が広がりました。頼りのレイジが逃げたのです。無理もないでしょう。


 その動揺が命取りでした。冒険者の一人が被弾。生死不明。


 残りの戦闘員は私を含めて4名。遠くからの一撃離脱にも限界がありました。さらに1名が傷を負い戦闘不能になりました。


 これ以上戦線を維持できません。私は1つの魔石を取り出しました。Aランク火魔石です。「火魔法 LV10」を付与したとっておきです。


「どうか効いてください!」


 私は火魔石を撃ちました。極太の火柱がドラゴンを包みます。


「GAAAAAAAAAAAA!!」


 ドラゴンの鳴き声が響きました。やがて炎が消えドラゴンの姿が見えてきます。

 ドラゴンは健在でした。魔法無効が強すぎです。



 しかし、全くの無効というわけでもありませんでした。体の一部が赤熱しています。ならばと私は水魔石を手に取りました。熱した物体を急激に冷ませば体積の変化で外殻を破壊することができる、かもしれません。


 ドラゴンが岩を飛ばしてきました。回避。スリングショットを構え射撃。ドラゴンに水を浴びせます。


 熱された水が水蒸気となりドラゴンを覆いました。そしてバキバキという破砕音。ドラゴンが吠えます。


 蒸気が晴れドラゴンが見えました。体にひびが入っています。成功です。これで攻撃が通りやすくなったでしょう。



 その時、軍隊が到着しました。さらに衛兵隊と冒険者も増援に駆け付けました。私たちは時間稼ぎを成し遂げたのです。



 その後は数の暴力でのごり押しでした。さすがのドラゴンも大規模魔法を連発されれば削れていき、遂には力尽きました。


 死者は11名。多くの人命を失っての勝利でした。





 その後レイジは敵前逃亡の罪により指名手配されました。Sランクの称号もはく奪です。あれがSランクなどあり得ません。当然の結果でした。






 次の日、レイジはドラゴンを1人で討伐した英雄になっていました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ