91. 親友
反乱騒動の犯人レイジ、実在したのですか。犯人とは言っても私の記憶での話ですので、実際はそんな事件は起きていない以上犯人と言うのは適切ではないですが。
レイジは掲示されている依頼表を少し見てすぐに帰っていきました。今日は冒険者たちがこぞって依頼を受けたため大した依頼は残ってなかったからでしょう。
しかしあのレイジがSランク冒険者ですか。私の知っているレイジは精神が未熟な子供。それが私の間違った記憶の中だけならいいのですが、もし実際も同じ精神性であればSランクの実力を持っているというのは不安です。
力を持った子供というのは何を仕出かすか分かりませんからね。
私は資料室を訪れました。冒険者が狩りが不作だった事とレイジが街を救った事が事実か確かめるためです。
ニーモさんに見せてもらった魔物の買取記録には、確かにその記録が書かれていました。それによると、昨日の買取はレイジからの物だけでした。つまり他の冒険者は狩りの成果が無かったという事。
レイジが狩った魔物の数は約300。これは冒険者たちが1日で狩ってくる魔物の数とほぼ同じです。それだけの魔物がヨハンに降ってきて、レイジが一人で駆除したのです。
私の記憶が間違っている証拠が増えたのでした。
その日冒険者たちはいつもと同じ位の量の魔物を狩ってきました。昨日1体も狩れなかったのはなぜなのでしょうね。
次の日、私はエルーシャに昨日の出来事を話してもらいました。また私の記憶にない出来事があるのではないか、私の記憶にある出来事が実はなかったのではないかを確認するためです。
幸いと言うべきか、今回は記憶違いはないようでした。私はその事に安堵します。
「ねえマリーン。最近どうしたの? 様子が変だよ?」
昨日あった出来事を教えて下さいなんて変な質問をしたためか、エルーシャがそう聞いてきました。
「いえ、何でもありません」
私はとっさにそう返しました。記憶障害かもしれないなんて言ってもどうしようもありませんし、なぜかエルーシャには知られたくないと思ったからです。
「いや、何でもない訳ないでしょ! 変な事ばかり言うし!」
エルーシャが怒り出しました。私はその事に面食らいます。
「ど、どうしたのですか。急に」
「分かんないの? なんで分からないかな!?」
エルーシャの怒鳴り声に周囲から視線が集まりました。しかしエルーシャは気にせず続けます。
「この前も言ったじゃん! 心配してるんだよこっちは!」
「す、すいません」
「すいませんじゃない!!」
ドン! とエルーシャが机を叩きました。
「この前もそうだったけどさ、なんで1人で抱え込むの!? なんで頼ってくれないの!?」
「それは……」
「確かに私はマリーンと違って学も無いし、強く無いし、便利でもないけどさ!」
便利って……エルーシャは私を何だと思っているのでしょうか。
「でも相談くらいしてよ! 一緒に悩ませてよ! 親友でしょ!?」
「……しん、ゆう?」
エルーシャがしんゆう? 親友? どこからが親友でどこからがそれ以外? 親友の定義とは? 生まれてこのかた1人も友人がいなかった私に親友?
「違うなんて言わせないから! 友人ってのはいつの間にかなっているもんなんだよ! 私はマリーンが大事でマリーンも私が大事、そうでしょ!?」
私はエルーシャが大事。
胸がスッと透くようでした。そうだったのですか。私が悩みを隠そうとしたのは、エルーシャに心配をかけさせたくなかったからだったのですね。
「エルーシャの言う通りです……。私たちは親友だったのですね。」
「そうだよ!」
「これからも親友でいてくれますか?」
「もちろんだよ! 馬鹿!」
私はエルーシャに抱きしめられました。この時、私たちは本当の意味で親友となれたのです。
私はエルーシャに全てを話しました。自分だけが持つ間違った記憶の事を。自分が直面している状況を。
エルーシャは最後まで黙ってそれを聞いていました。
「そうだったんだ。私は信じるよ。マリーンの記憶」
「私の記憶が間違っているとは思わないのですか?」
「少なくとも間違いの原因があるはずじゃん」
原因ですか。一番最初の記憶違いが反乱騒動なので、その時期に何かあったのかもしれません。その次がファフロツキーズで……あれ?
「エルーシャ。さっき言っていた、この前私一人で抱え込んだ事って何の事ですか?」
おかしいです。エルーシャが言っているのは、私が反乱騒動で街に潜伏した時の事です。そして反乱騒動が無かったのなら潜伏自体が無かったはずなのです。
「それは……あれ? なんだっけ?」
エルーシャが言葉に詰まりました。
「おかしいな。マリーンに心配させられたはずなんだけど……」
何かあったのは覚えているのに、何があったのかは思い出せないようです。でも確かにあった。
遂に見つけた反乱騒動の痕跡でした。




