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90. 鮮明に間違った記憶

 次の日、毎度のごとくファフロツキーズがファフロって来ました。今回落ちてきたのはブリザード。氷属性の巨大トカゲです。


 私は冒険者を集めて駆除に行こうとしましたが、問題が起きました。いつもは何人かの冒険者がギルドでたむろしているのですが、今日は誰一人として居ません。


 森は過酷な場所です。狩りを生業としている冒険者も5日に1回は休日を入れるのが一般的です。そうでないと心と体が摩耗して事故につながるからです。


 しかし今日に限ってギルドで休んでいる冒険者が居ませんでした。いつもはその場で集めても人数を揃えることが出来ていたのですが、駆除対策に何人か待機させておくべきでしたね。


 仕方がないので私一人で駆除に行きましょうか。幸い降ってきたブリザードは3体だけらしいです。人手が必要というわけではありません。



「GUEEEEEEEEE!」


 対峙したブリザードの身長は4mほど。見た目はトカゲですがサイズは大きめのワニくらいでした。その内の一体が口を開けて私を威嚇しています。


 私はその口の中に向けて鉄球弾を撃ちました。が、ブリザードの前に氷の壁が生まれ防がれます。


 一筋縄ではいかないようです。おそらくAランク冒険者と対等くらい。


「丁度いいですし、強化したアイテムの威力検証をしましょうか」


 私は鉈を手に取りました。以前はスキル「剣術 LV6」だけ付与していましたが、今はレベルアップさせて『剣豪 LV1』と「剣技 LV10」「頑丈 LV10」を付与してあります。


 鉈が空を切ると、斬撃が飛んで行きブリザードの張った氷壁を叩き斬りました。2度目の斬撃でブリザードを仕留めます。


「切れ味に難がありますね。後で切れ味も強化しておきましょうか」



 ツモアに殺されかけ、犯罪ギルドの幹部に遅れを取り、私は戦力の強化に踏み切りました。身を守るためには必要な武力。安全を優先するなら過剰戦力位がちょうど良いのです。このところ魔力を消費して強化を続ける毎日です。


 私は続いてブレスレットをかざしました。数珠つなぎの風魔石に付与したスキルは強化の末「風魔法 LV8」となっています。それが12個。


 一斉に放たれた風魔法エアーキャノンが2体目のブリザードに命中しました。氷壁の守りを砕きブリザードを打ちのめします。


「なかなかの威力ですね」

「GUEEEEEEEE!!?」


 ブリザードの最後の1体が仲間の惨劇を見て逃げ出しました。巨大な図体に似合わぬ速度でみるみる離れていきます。


 私はスリングショットを構えました。強化によってスキルは『的中 LV1』「射程延長 LV5」「曲射 LV5」となっています。


 弾はEランクの土魔石。スキルは「土魔法 LV1」を付与しました。さすがに使い捨ての弾には強いスキルを付与していられません。


 放たれた魔石はブリザードの頭上で軌道を曲げ急降下しました。そしてブリザードは岩を纏った魔石に頭を押しつぶされて即死しました。



「まあ、こんなものですか」


 今回は武器の威力を試しましたが、アクセサリや衣服にもスキルを付与してあります。こちらは防御関連が主です。死にたくないので手は抜けません。私は全身をガチガチに固めていました。


 おそらく今の私は犯罪ギルド幹部と同じ位の強さでしょう。このままアイテムを強化し続ければもっと強くもなれるでしょうね。


 ですが問題もあります。アイテムたちの命を維持するために定期的に魔力を注がないといけません。維持に必要な魔力は付与したスキルの強さに比例するので、いずれ維持に精一杯になり強化に回す魔力が無くなります。


 そして現時点でほとんど維持に精一杯でした。これ以上強化をするには魔力を増やす必要があり、そのためには魔物を倒してレベル上げをする必要があります。


「検証はここまでですね」


 こうして私はブリザードの駆除を終えたのでした。





「どうして今日はギルドに冒険者が残っていないのでしょう」


 私はエルーシャにそう聞いてみました。今は昼食時。冒険者がいないためギルドは閑散としていました。


「そりゃ皆して狩りに行ってるからでしょ。昨日は狩りの成果がほとんど無かったからね、今日は稼がないと生活費が無くなるって思ったんじゃない?」

「いや、昨日はいつもと同じ位に討伐された魔物が持ち込まれていたでしょう。狩りが不作なんて事はなかったですよ」

「何言ってるのさ。一人以外、誰も成果なかったじゃん」


 またです。


 このところ私の認識は否定されてばかりです。私が確かに記憶していたと思う事を、しかし皆違うと言うのです。


 ただの記憶違いと思えないほど私の記憶は鮮明です。特に反乱騒動ははっきりと思い出せます。しかし反乱騒動があったと思っているのは私だけでした。


 まるでよく似た別の世界に一人迷い込んでしまったかのような疎外感を感じます。この世界で私だけが違う記憶を持っているという孤独感がそこにはありました。


「他に最近大きな出来事はありませんでしたか。ちょっと自分の記憶に自信が持てなくなってきました」

「うーん、狩りの成果が一人以外無かったって言ったじゃん? その一人が誰か分かる?」

「知りません」


 私がそう答えると、エルーシャは信じられないといった顔をしました。


「まじで!? 大量に降ってきた魔物をたった一人で殲滅して街を守った英雄だよ? 本当に覚えてないの? 昨日の事だよ?」

「街を守ったって……。せいぜいサソリが数十匹くらい降ってきただけじゃないですか」

「何言ってるのさ。数百匹は降ってきたじゃん。かなり危なかったんだよ?」


 まったく記憶にありませんでした。もしかして私は記憶障害になってしまったのでしょうか。


「それで、その人物は一体誰なのですか」


 私はエルーシャにそう聞きました。もしかしたら何かのきっかけで思い出すかもしれません。私には手掛かりが必要でした。


 その時、ギルドに入ってきた人物が私の目に映りました。黒髪の青年です。その顔を私は知っていました。驚きで私の頭が真っ白になります。


「あ、ちょうど来たね」


 私の表情に釣られて後ろを見たエルーシャが青年に気づきました。そして顎で青年を指します。


「あの人さ。名前はレイジっていうんだ。最近この街に来たSランク冒険者だよ」



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