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88. 魔王たちの動向

再構築編、全8話。始まります。

 オリピュロス国家連合、通称魔王連合とは。


 それは魔人たちにより構成された小国家群である。かつて人間から排斥された魔人たちが興した集落が起源とされ、樹海に火山地帯、荒野に囲まれた厳しい土地の中細々と発展して来た歴史を持つ。国の長は代々国内最強の者が務めており、その長は魔王と呼ばれる。


 その一国、エロース国で今まさに、魔王たちによる集会が開かれようとしていた。



 会場の会議室には既に4人の魔王が座っている。そしてそこに最後の一人が着いた所であった。



「待たせたわね。早速だけど始めましょうか」


 そう言って他の魔王を見回した絶世の美女は、淫魔王ナイトメア。種族はサキュバスである。人間と変わらぬ体を持ち、そのドレスからは豊満な胸が隠しきれず胸元があらわになっていた。



「遅いぞ。開催地の代表なら一番に来ておくのが礼儀という物」


 額から2本のツノを生やした赤髪の男がそう言った。鬼魔王オグニ、種族は鬼。発言からわかる通りの堅物である。



「この俺を待たせるとはいい度胸だな?」


 続いて怒りを口にしたのは両腕に黒い鱗を生やした大柄の男。さらにこめかみには1対の角と臀部には鱗に覆われた太い尾を生やしている。竜魔王ブレス、種族は竜人である。



「まあまあ、お二方。ここで言い争ってもさらに時間を浪費するばかりです。我々も暇ではないのですから、ここは水に流して話を進めようではありませんか」


 そう言って助け船を出したのは藍色の肌の男。理知的な笑みを浮かべながら二人をたしなめるこの男は悪魔王デヴィル。種族は悪魔である。



「悪魔王の言う通りだ。魔王同士で揉めてどうする」


 悪魔王に続きそう言う血色の悪い痩せ男は血魔王ブラッド。種族は吸血鬼である。この5人が今代の魔王であった。



「誰に向かって口をきいている。消し飛ばされたいのか?」


 しかし二人の魔王にそう言われて尚竜魔王は引き下がらない。そうできるだけの力が竜魔王にはあるからだ。悪魔王と血魔王は放たれた殺気に冷汗を流す。


「竜魔王、敵は別にいるだろう。この世界の存亡に関わる事だ。足並みを乱すのは止めろ」


 竜魔王の殺気をものともせず鬼魔王がそう言った。二人が睨み合い会議室に緊張が満ちる。


「やめて。待たせた私が悪かったわ。後でお詫びに秘蔵のワインをあげるから、今回はそれで許して?」


 淫魔王が竜魔王にそう言った。酒の話を聞いた竜魔王は殺気を収めふんと鼻を鳴らす。


「ありがとう。それでは改めて始めましょうか。議題は、異世界人についてよ」



 異世界人。この世界に無い知識を持ち、また例外なく強力なスキルを持つ存在である。その存在は一般に知られてはいないが、歴史に名を遺す偉人の中には異世界人だったのではないかと思われる者もおり、この世界に少なくない影響を与えてきた。


「ウォッチ教国で神託が下りたわ。今送り込まれている異世界人は6人だそうよ」

「6人だと? 前回の倍ではないか」


 淫魔王からの情報に血魔王が驚きを示す。過去同時に存在が確認された異世界人は最大で3人。それを考えれば6人という数は明らかな異常事態であった。


「私たちがやる事は変わらないわ。異世界人を見つけ出して殲滅する事よ」

「とはいえ奴らはこの世界の住人に紛れ込んでいる。見つけ出すのは困難であろう?」


 淫魔王の言葉に血魔王が反論した。異世界人は多くが黒目黒髪である。しかしこの世界にも黒目黒髪の人物はそれなりに居るため、一目で見分けることはできない。


「でも放っておく訳にはいかないわ。今回の異世界人も互いに殺しあう事が予想されるわ。世界にどんな悪影響を与えるか予想がつかないもの」

「不正スキルか」


 異世界人の持つスキルは不正スキルと呼ばれる。そして不正スキルは世界を崩壊させ得る程の力を秘めていた。


「悪魔王、異世界人の絞り込みはできたかしら?」

「ええ、怪しい人物をリストアップしました。後は直接出向いて確かめる必要があります」


 悪魔王はそう言ってリストを配った。各国の強者がのべ10名。どれもここ数年で急激に名をあげた人物だ。


「異世界人同士が接触する前に決着をつけたいわ。だから手分けしての捜索になるわよ。異世界人なら即抹殺。いいわね?」


 淫魔王はそう言って魔王たちを見回す。そして宣言した。


「異世界人をを駆逐するわよ!」



 戦いが、近づいていた。







「ナイトメアよ、ずいぶんと楽しそうな事をしておるのう」


 集会が終わった淫魔王が執務室に戻ると、上がりこんでいた老人が声をかけてきた。


「お爺様……」

「また異世界人が現れたようじゃの。どこに居るのかはもう分かったのかのう?」


 ケタケタと笑うその老人は淫魔王の祖父アルプであった。そして先代の魔王の一人でもある。種族はインキュバスであり、かつて最強と呼ばれた人物でもある。


「……特定はできていません。可能性のある人物をこれから調査する段階ですわ」

「ほっほっほ、怪しい奴は皆殺しにすればよいじゃろうに」

「お止めください。人間との関係が悪化してしまいますわ」


 物騒なことを言うアルプを淫魔王が窘めた。かつて魔族と人間は戦争をしていたが、ここ数十年は比較的平和であったため軍事衝突はしていない。淫魔王は今の状態を維持したいと考えていた。


「時代は変わったのう。昔は強さだけが正義じゃったが、今は魔王に政治も求めるのじゃからな」

「無駄な血が流れない事は人口が少ない魔族にとっては重要な事ですわ」

「じゃが退屈じゃ」

「……」


 最強と呼ばれた元魔王アルプには別の呼び名もあった。最凶。戦いを楽しむその姿は敵味方から恐れられ、隠居している現在でもその性質は失われていない。


「わしも異世界人狩りをしてもよいかのう?」

「……お好きになさって下さい。そのかわり無関係な人は無闇に殺さないでいただけると助かりますわ」

「まあ良いじゃろう。邪魔したの」


 アルプはそう言うと執務室の出口に向かった。そして最後に振り返るとこういった。


「ところで朝飯はまだかいのう?」

「もう食べられましたよ」


 そうじゃったかいのう、そう言ってアルプは執務室を出ていったのであった。

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