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78. 夢の世界へ

夢世界編、全4話です。

 皆さん、こんにちは。マリーンです。私は今日もギルドで仕事をしています。


 お忘れかもしれませんが、私は依頼管理課の配属です。住民から持ち込まれる依頼を受理し、冒険者が達成するまでのもろもろの作業を行うのが私の仕事です。


 しかし、持ち込まれる依頼の中には、誰なら達成できるのか分からない、と思えるような依頼も存在します。例えば特定のスキルなり技術なりが必要になる依頼です。


 そう言う依頼が持ち込まれれば達成できそうな冒険者を探し、もし居なければ達成できそうなギルド外部の人材を探し仲介するのも私たちの仕事です。


「マリーン、この依頼なんだけどさ……」


 そして今、エルーシャが一つの依頼を私に見せてきました。依頼内容は、眠りから覚めなくなった甥を目覚めさせてほしい、という物でした。


「普通に起こそうとしても起きないんだって。治癒院でもお手上げだったらしい。完全に植物状態」


 そう、この依頼はまさに、誰なら依頼を達成できるか分からない依頼なのでした。


「この依頼を私に見せて、一体どうしろと」

「マリーン受けてくれない?」

「なぜ私に。そもそもどうやって目覚めさせればいいのですか」

「マリーンのスキルなら何かできる気がする!」


 エルーシャは私のスキルをなんでもありの便利道具作成能力と思っているようでした。


「私のスキルはそこまで万能じゃないのですがね」

「頼むよ~。他にできそうな人知らないんだもん。受けてくれないなら代わりの人紹介してよ~」

「はぁ……仕方ないですね」


 こうして私は依頼を引き受けたのでした。




「粗茶ですが」

「ありがとうございます」


 私は依頼主の家に来ていました。お茶を出してくれた女性がテーブルの向かいに座ります。彼女が今回の依頼主。40歳くらいの女性で名前をスーンさんと言います。


 事情を聴くと、昏睡したのはスーンさんの甥のサッシュさんだそうです。先日サッシュさんの祖父が亡くなり、まだ15の成人を迎えていないため引き取ったそうですが、その後昏睡してしまったとのことです。


 サッシュさんは14歳。健康で、病気などにより昏睡したわけではなさそうでした。


 私はサッシュさんを見せてもらいました。ベッドに横たわりピクリとも動きません。僅かに上下する胸から、呼吸はしていることが分かりました。


 鑑定してみても異常は見られません。やはり肉体的原因ではないようです。


『おそらく精神的な物だろうな。祖父の死が関係しているのかもしれん』


 鑑定メガネがそう言いました。私も同感です。しかし、どうすれば目を覚まさせられるでしょうか。


『私にいい考えがある』


 メガネが自信ありげにそう言いました。




 私が周囲を見渡すと街並みが広がっていました。視界がぼやけてはっきりと物が見えません。さらにあらゆる物がゆらゆらと歪み、蜃気楼を見ているかのようでした。


 自分の手を見ると、自分自身ははっきりと見え歪みもありませんでした。私はそれに少し安堵します。


 私は今、サッシュさんの夢の中に居ました。



 メガネの出した案は、サッシュの夢に潜入して直接精神に語り掛け呼び起こす、という物でした。外から起こして起きないなら内側から起こせばいいという発想です。私はメガネに言われるままに、スキルを使ってある物を作りました。


 名付けて夢枕です。対の枕で寝ることにより、夢を共有することができます。……私のスキルって、私が思っていた以上に何でもできますね。下手をすると、なんでも秘密道具に頼ろうとするダメ人間になってしまいそうです。



 とまあ、そう言うわけでサッシュさんの夢に潜入した私ですが、まずはこの夢の主人公たるサッシュさんを見つけないといけません。が、そうこうしている間にも風景が歪んでいき、やがて別の場所になっていました。あった物が消えていき、無かった物が現れてくる、そんな光景に、私はひどく曖昧な世界であると感じました。


「夢など曖昧なものだ。そもそも人一人では世界を厳格に定義しきれん。ぼやけて見えるのもそのためだろう」


 声がした方を向くと、燕尾服にシルクハット、モノクルという出で立ちの中年男性が立っていました。私同様、姿がぼやけておらずくっきりと見えます。


「その声、まさかメガネですか」

「如何にも。人間ソムリエとして、夢世界旅行は逃がせんイベントだ。人の内面を覗けるいい機会だからな」

「あなた、さてはそのために夢に潜るなんて案を出しましたね」

「そんなのは些事に過ぎん。さあ、この世界を探検しようではないか」

「……勝手な行動は止めてくださいね」

「私はあくまで見学だ。主に同行するとも」


 メガネはそう言いながら体をギクシャクと動かしていました。初めての人間の体に慣れようとしているようです。


「しかし、サッシュさんはどこに居るのでしょうか。手掛かりがあるといいのですが」

『それなら世界がくっきり見える方に行けばいいのです』


 私の疑問に、いつの間にか私の肩に乗っていた小動物が答えました。象の鼻に牛の尾、虎の足を持つこの動物は獏という動物でした。声からして夢枕のようです。


『夢世界の中心から離れるほど夢は曖昧になるのです。そしてその夢世界の中心に夢を見ている本人がいるのです』

「なるほど、自分を中心に夢を見ているという事か。ならここはさしずめ、夢の辺境と言ったところか」

「この場所はサッシュさんの夢にとってはあまり意味を持たない場所なのですね」


 その時、ゴゴゴゴゴゴゴ、という音と共に、暗闇が世界を飲み込みながら私たちに迫ってきました。


「なんですかあれは!」

『この場所は夢から消えるみたいなのです。あの暗闇に飲み込まれたら、記憶からも消え去るのです。今マスターは夢と精神が直結しているので、飲み込まれたら精神が消えるかもしれないのです』

「そういうのはもっと早く言ってください!」


 暗闇は私たちのすぐ目の前まで迫っていました。


「逃げるぞ!」


 私たちは暗闇から一目散に逃げ出したのでした。



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