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73. 決着

 制圧部隊本隊がいる西側の膠着はまだ続いていた。戦況を動かす鍵であるザキリが時間稼ぎに徹しているためである。このままでは他の犯罪ギルド幹部が介入してくる。そうなれば自分たちが負けてしまうと考え焦っていたエドガーだったが、その状況はある知らせにより一変する。


「全隊、朗報だ! ここ以外の戦場は我々の勝利で決着が着いたぞ! 残りはここだけだ!」


 伝令から報告を受けた隊長が声を張り上げた。それを聞いた制圧部隊員は戦意を漲らせ犯罪ギルド側は動揺する。


「そんな、他の幹部がやられたの?」


 ザキリが信じられないといった顔をした。雑兵が束でかかってもあの幹部たちを倒せるとは考えられない。という事は幹部を倒せるほどの強者が敵に居るということになる。ザキリはこの時点で勝利を諦め、逃走することを決心した。もたもたしていれば幹部を倒せる程の実力者がここに来る。そうなれば勝ち目はない。


 問題は、ザキリが逃走してもエドガーが追ってくることである。エドガーの方がザキリより速い。それ以外の敵はともかくエドガーだけは倒す必要がある。


「しかたないな。速攻で卸そう」


 ザキリはここにきてついにエドガーとの決着をつけることにした。足を止め、周囲の人間に飛斬を放ち敵味方問わず斬っていく。そうして周囲に空間を作ると、追ってきたエドガーに正面切って向かい合った。


「君の望み通り戦ってあげるよ」


 ザキリが両手の剣を構えた。周囲に纏っていた斬撃を消し剣で戦う姿勢を見せる。それを見たエドガーも剣を構えて対峙した。


 両者の間に満ちる緊張。その中でエドガーは、ザキリが瞬きをしたのを見逃さなかった。その一瞬の隙をつき突進する。風を推進力にした全速力の突進が両者の距離を一瞬で縮める。


「掛かったね」


 しかしザキリは勝利を確信した。エドガーに突っ込ませるためわざと瞬きしたのだ。ザキリが『斬撃操作』を発動すると、数多くの飛斬がエドガーを囲み潰すように殺到した。


 ザキリは罠を仕掛けていた。先ほど周囲に放った飛斬、開けた場所を作るために放ったと思われたそれは、空中で停止しその向きを反転していた。そしてエドガーが突っ込んできたところで停止を解除したのである。


 嵌められた。エドガーは瞬時に状況を把握した。エドガーを取り囲む無数の斬撃は、エドガーの剣一本では対処不可能だった。逃げ場も無い。エドガーは死を悟った。


「伏せてください!」


 そこに声が響いた。マリーンの声だった。エドガーはマリーンを信じしゃがみこむ。


 エドガーの足元に何かが撃ち込まれた。マリーンが撃ったものである。その途端、周囲の地面がせり上がりエドガーを包み込んだ。そして斬撃からエドガーを守る。


 マリーンが撃ち込んだのは土魔石だった。エドガーを守った土壁が地面に戻る。


「しぶといな! エッジレイン!」


 ザキリが剣をクロスさせ飛斬を放った。その斬撃は無数に分裂し雨あられとエドガーに迫る。


 しかし、


「一方向からなら避けられる!」


 エドガーは斬撃を回避した。そしてザキリの背後に回り込み斬りつける。


「くっ!」


 ザキリは振り返り剣を防ぐと斬り返した。だが剣は虚しく空を切った。エドガーがまたしてもザキリの背後に回り込んだのだ。目で捉えることはできても体が追い付かないほどの速度。否、目でも追えていなかった。ザキリが背に防御の意識を向けた時には、エドガーは既に正面に移動していた。ザキリのすぐ目の前でありながら、その瞬間、防御はがら空きになっていた。


「ソニックブレード!」


 エドガーが剣技を放つ。剣は音を置き去りにしながら、ザキリの首を両断したのだった。





 皆さんお疲れ様です。マリーンです。現在建物の屋上です。眼下には激戦の跡が広がっています。犯罪ギルドからの奇襲を受け劣勢に立たされていた制圧部隊でしたが、多くの犠牲を出しながらもなんとか勝利を収めることができました。


 強かったです。幹部。なにやら東側では建物が次々倒壊してましたし、南ではひっきりなしに爆発や火柱が上がっているのが見えました。超大型魔物でも襲来したのかという有様でしたが、あれが幹部の仕業だったとして、どうやって倒したのでしょうね。そんな戦力は制圧部隊には無かったと思うのですが。


 ともかく勝ちは勝ちです。生き残った犯罪ギルド員は既に投降し、敵の拠点も制圧が完了したようです。後は拠点の押収物や捕らえられた人たちの証言から残党を捕らえていけば事態は収束するでしょう。こうして犯罪ギルドは壊滅し、事件は無事解決したのでした。




 とはなりませんでした。いえ、犯罪ギルドについては解決したのですが、私の仕事はまだ解決していません。ナッツがまだ行方不明なのです。


 戦いの翌日、犯罪ギルドから押収した取引物の在庫表にナッツの名前がある事が確認できました。しかし、そのナッツの姿が無いのです。犯罪ギルドに捕らえられているはずのナッツはどこに行ったのでしょうか。


 もう一つ疑問な点があります。犯罪ギルドのトップが誰なのかもまだ分かっていません。警察は犯罪ギルドが犯罪者の寄り合い所であるため特定のボスはいないと考えているようです。あの凶悪な幹部たちを従えられる者がいるのかと考えると、ありえなくはない気もします。


 ですが、居る気がするんですよね、トップ。さらに言えば、大規模な犯罪を行うのであれば何かしらの後ろ盾なりコネなりがあると思うのです。それも権力者の。そうでなければ関税を抜けるのも苦労しますし、それが攫った人間を連れてでは尚更です。もし私が人攫いであれば、自分の住んでいる街で攫った人を同じ街で売ったりしません。攫った人間の知り合いが居ない所で売らないと見つかってしまう危険があるからです。


 しかし、そんな存在を示唆するものは見つかりません。ただの私の妄想なのか、はたまた証拠が無いだけなのか。正直言って手詰まりです。


「こうなれば、もう一方の調査結果に期待するしかありませんね」


 私が始めに打っておいた手、手掛かりが得られるかどうかは、それが実を結ぶかどうかにかかっていました。


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