68. 不意打ち
マリーンです。犯罪ギルドの拠点を突き止め冒険者ギルドに戻ると、私にある情報がもたらされました。最近街を騒がせている切り裂き魔と放火魔が犯罪ギルドに所属しており、その放火魔にAランク冒険者が二人掛かりで挑み負けたというのです。
その情報と私が持ち帰った情報を合わせて考慮した結果、かなりの大部隊を制圧のために動員することになりました。
結果、冒険者40名ほど、衛兵隊は60名ほどの大所帯となりました。ちなみに冒険者の内Aランク冒険者は2名、Bランク冒険者は15名、残りはCランクです。貴重なAランク冒険者が2名も戦闘不能になっていたのが少し痛いです。
私達はいくつかの部隊に別れて犯罪ギルドの拠点をこっそりと包囲しました。各部隊が無人となった建物に身を潜めています。私は作戦指揮所で先に来て拠点を監視していた班から話を聞きました。
「では、敵の主力と思われる放火魔と切り裂き魔も中に居るのですか」
「はい。それらしき人物が中に入るのを見ました。それ以外に40名あまりが敵拠点に入っています」
あのフォールレベルが3人、同時に相手をするのは少し躊躇われます。出来ればバラバラの状態で各個撃破したい所です。
「だが奴らは毎晩のように死者を出している。日が伸びればそれだけ犠牲者が出てしまう以上、延期はできん」
私が悩んでいると、衛兵隊の隊長がそう言いました。確かにその通りです。
「ええ、このまま制圧しましょう」
冒険者ギルド側の現場責任者である私の同意を聞いた隊長が、各隊に指示を出しました。後は合図の先制攻撃を待って突入です。敵の不意を突いて一気に制圧する作戦です。
その時、隣の建物で火が上がりました。他の部隊が潜伏している建物です。続いて私たちのいる建物にも火が上がりました。またある所からは建物が崩れる轟音。他にもあちこちから戦闘音が聞こえてきました。
こちらの方が不意打ちされた。私たちがそう気づくのにそう時間は掛かりませんでした。
冒険者・衛兵の混合部隊は突然の急襲により混乱を極めていた。不意をつくつもりが自分たちが不意をつかれたのだ。そして包囲のため各隊に分散していたために仲間の様子も把握することができない。彼らの混乱は仕方がないものだった。
「うふふ、慌ててるわねえ」
建物に火を放ったフレイズは、あちこちから聞こえる騒音に耳を傾けるとにんまりと笑った。火事は野次馬がいるほど映える、被害者がいればもっと映えるとフレイズは考えていた。久しぶりの大規模な火事にご満悦である。
建物から慌てて出てきた冒険者や衛兵に犯罪ギルド員が襲い掛かる。数で負けている犯罪ギルドだったが、奇襲による混乱で優勢に立つことに成功していた。
「かわいそうにねえ。まさか、自分たちの情報が筒抜けだったなんて」
犯罪ギルドは実は誰でも入会することができる。ゆえにギルドと名乗っているのだ。組員の中には小遣い稼ぎに入会しつつ別に本業を持つ者もいるため、冒険者にも数名の加入者がいた。こうした広い情報源もまた犯罪ギルドの強みであった。
「とは言っても、このままだと時間が経つほど向こうが立て直して不利になるのよねえ。私達が支えないと、ね!」
フレイズは態勢を立て直し連携をし始めた衛兵たちに向かって炎を吐いた。衛兵たちがたまらず逃げ出し散り散りになったところを他の犯罪ギルド員が襲い掛かる。
体勢を立て直され不利になったところに幹部が襲い掛かり、再び犯罪ギルドが優位に立つ。そんな光景が四方で見られた。そう、犯罪ギルドの幹部4人が全員揃って戦いに参加していたのだ。
あるところではザキリが、あるところではフォールが、そしてあるところではウィードが衛兵と冒険者を蹴散らしていた。制圧部隊が犯罪ギルドの有利を崩すには数の利だけでは足りなかった。強大な相手と戦うには、強大な味方が必要なのだ。
無論、制圧部隊にも強者は居ないわけではない。例えば衛兵隊の中で最強と言われるエドガー、例えば様々なアイテムを持つマリーン、例えばAランク冒険者。だが彼らだけではこの状況をひっくり返すには足りなかった。
このままでは部隊が崩壊する。そうでなくてもすでに大勢の負傷者が出ている。しかし撤退しようにも敵が襲い掛かって来るため出来ない。制圧部隊はそんな状況に置かれていた。
しかし、そんな絶望的な状況は、ある三人が現れることによりひっくり返る。




