67. 2組の男女
「行きましたか」
「ああ、行ったな」
フォールにより破壊された建物の瓦礫を押しのけ、二人の男女がはい出てきました。マリーンです。私とエドガーさんは無事生き埋めを脱することができました。
生き埋めになる直前に土魔石で地面に穴を開け、その中に避難し入り口をふさぐことで難を逃れたのです。そしてフォールが去ったのを見計らい、土魔石を使って瓦礫を動かし地上に出てきたというわけです。
「危なかったですね」
私は服を払い砂汚れを落としました。パラパラと砂や砂利が零れ落ちていきます。この様子だと髪にもかなりついてそうですね。不快です。
「ああ。この後はどうする?」
エドガーさんが折れた剣を鞘にしまいながらそう言いました。どさくさの間に折れてしまったようです。
「もちろん後を追います。あの強さなら犯罪ギルドの中でも高い立場である可能性が高いです。本拠地を知っていてもおかしくありません。しばらく泳がせましょう」
惨敗はしましたが、これは好機でもあります。なんとしてもフォールから情報を得なければ今までの行為も無駄になります。
「分かった。そうしよう」
こうして私たちはフォールの追跡を始めました。
ニーモがクラークの元につき数時間、まだ犯罪ギルドの調査は進んでいなかった。クラークは商会の表の事業にも関わっているため、昼間はそちらの仕事をしなければならないのだ。
「現場での調査は部下がしているので、今は情報が集まるのを待ちましょう」
クラークにはクラークの事情があるためニーモは黙ってそれに従った。一人で調査に言ってもいいのだが、ニーモの役割は商会への警告だ。あくまで商会が犯罪ギルドを排除するのが前提であり、それをさせるためにニーモが送られたのだ。だからクラークの後をついて回ることで暗に催促するのみにとどめる。
「まるで秘書ができたみたいですね」
「冗談はいいので早く他の仕事を片づけてください」
ニーモがクラークについて商会内を移動していると、ある人物がクラークを呼び止めた。クラークよりいくらか若いチンピラ風の男だ。商会の中において他の従業員と比べて場違いな風貌だった。
「クラーク、なんだこの女は? いつからお前に秘書なんて上等なものが着いた?」
「彼女は派遣従業員のニーモです。私の助手をしてもらっています」
クラークが即興でニーモの設定を作り説明した。ニーモもそれに合わせて挨拶をする。
「ニーモさん、彼はグレンです。会長の実子で一応私の弟ということになります」
「ああん!? だれが弟だと?」
グレンがクラークに詰め寄った。クラークの胸倉をつかむ。
「養子のお前が兄貴面してんじゃねーよ! 調子に乗んな!」
「すいません。気を悪くしてしまいましたか」
「その態度が調子に乗ってるっつんだよ! すました顔しやがって!」
クラークの謝罪にグレンはさらに不機嫌になった。
「俺よりちょっとばかし前から働いてるからって、自分が上だなんて思ってんじゃないだろうな?」
「いえ、私はただの養子であると弁えていますよ」
グレンの絡みをクラークは軽く受け流していく。埒があかないと思ったのか、グレンはクラークに文句を言いつつも去っていった。
「見苦しいところを見せてしまいましたね。グレンは私に敵対心を抱いているようでして、よく絡んでくるのですよ」
「そうですか」
「私は幼い頃、裏の人身売買で会長に買い取られて養子になりました。グレンはその後出来た子供です」
クラークは自分の身の上話を語り始めた。
「会長に買われるまではひどい生活でした。食事も満足にもらえず、大人からの暴力を日常的に受けていました。なので私は会長に恩を返すためにこうして働いているわけです。そのために裏の仕事にも手を染めました」
「その話、長くなりますか? 興味ないのですが」
ニーモは話を遮ってそう言った。クラークの過去話は彼女の琴線には触れなかったのだ。
「……そうですか」
クラークは少し話し足りなさそうな顔をしつつも再び自分の仕事に戻った。そしてニーモはクラークの後をついていくのだった。
そしてしばらくし、ある情報がクラークに届いた。彼の部下が犯罪ギルドの取引情報を掴んだのだ。
「商会との裏取引が減っていた相手を張っていたのです。予想通り、犯罪ギルドと繋がっていました」
「なるほど」
「私は現場に行きますが、ニーモさんもついてきますか?」
「もちろんです」
こうしてニーモたちは取引現場へと向かった。マリーンだけでなくニーモもまた、犯罪ギルドへと一歩一歩近づいているのだった。
「あの建物ですね」
「ああ、あそこが拠点か」
どうも、マリーンです。私とエドガーさんはフォールを追跡した末に、ある建物にたどり着きました。倉庫街の一角。こっそり近づいて中の様子を確認したところ、フォールが中に居ました。周囲の男たちに何か指示を出しています。
「拠点が分かったのなら次は制圧です。戦力を整えましょう。私は冒険者を集めます」
「了解だ。俺は衛兵を集めよう」
私とエドガーさんは一旦戻ることにしました。次は制圧戦です。犯罪ギルドとの決戦が、刻一刻と近づいていました。




