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66. 重力を享受しろ

 人身売買の捜査を始めて2時間、私とエドガーさんは襲ってきた何組かの犯罪ギルド員を返り討ちにし逮捕していました。しかしその全てが組織の末端。犯罪ギルドについての重要な情報は得られていませんでした。


「おい、マリーン。いつまで俺を戦わせる気だ?」


 連戦でさすがに疲れたのか、エドガーさんがうんざりとした表情でそう言いました。


「ここまでやって重要な情報が手に入らないとは思っていませんでした。1人くらい本拠地でも知ってると思ったのですが」

「つまり、現状だと終わりが見えないという事か……」


 エドガーさん、心なしかぐったりしています。ですが問題ありません。彼を鑑定したところ、HP、MP共に十分残っています。まだ働かせられます。頑張れ公僕!


「犯罪者狩りのせいでここらの人気が無くなってしまいましたね。少し移動しましょうか」


 私がそう言って歩き出したその時、


「危ない!!」


 突如エドガーさんが私をつかんで私もろとも伏せました。私達の上を斬撃が通り過ぎていきます。これは飛斬、すなわち斬撃を飛ばす武技です。斬撃はそのまま飛んでいき、建物に深い切れ込みを作りました。


 斬撃が飛んできた方を見ると背が高い男が一人立っていました。手には大剣、編まれた黒髭が特徴的な人物です。


「お前たちが、俺たちのことを嗅ぎまわっている二人組だな」


 男はそう言うと悠々と歩いてきました。まだ距離があるのに、首元に刃を突きつけられているかのような圧迫感を感じます。おそらく敵側の重要ポストについている人物でしょう。それだけの強さを感じます。


「お前、塔斬りのフォールか!」


 エドガーさんが男を見てそう言いました。


「何者ですか」

「高額賞金首の一人だ! 別の街で建物を次々斬り倒して手配された。賞金180万!」


 私の質問にエドガーさんが手短に答えます。予想以上の大物でした。


「その通り、俺の名はフォールだ。悪いがお前たちには死んでもらう」


 フォールが大剣を構えました。そこにエドガーさんが斬りかかります。風魔法を推進力にした高速の斬りかかり、フォールはそれを楽々大剣で受けます。


「速さは中々だが軽いな。軽すぎる」


 フォールはそう言うと打ち合わせていた大剣を力づくで振り抜きました。エドガーさんが押し飛ばされます。


「このっ!」


 エドガーさんは力で勝てないと判断し、機動力を生かしてフォールを翻弄し始めました。敵の強さ的に私も参戦したほうが良さそうなのですが、下手に攻撃するとエドガーさんに当たりそうです。


「スピードに自信があるようだな。面倒だ。なら……」


 フォールが剣を振りました。斬撃が私の方に飛んできます。


「うわっ!」


 私はとっさにスリングショットを放ちました。弾は土魔石。魔石が岩に覆われ飛んでいきます。人の頭ほどの岩の塊が殺人的速度で斬撃に当たりました。斬撃は岩を抵抗なく切り裂きそのまま私に向かってきました。


「マリーン!」


 エドガーさんが斬撃に追いつき剣で受け止めました。斬撃に押されながらもなんとか押し止め防ぎきります。


 しかし、その代償としてエドガーさんの剣に深いヒビが入りました。あと一振りでもしたら折れてしまいそうです。


「休んでいる暇なないぞ? それっ!」


 そこにフォールがもう一度飛斬を放ちました。横一文字の斬撃が私たちに迫ります。


「一旦逃げるぞ! 今の状態でお前を守りながらじゃキツい!」


 エドガーさんは私を肩に担ぐとフォールに背を向け空に飛び上がりました。私は後ろ向きに担がれているためフォールが見えます。やられっぱなしは癪に障るのでそのままスリングショットで火魔石を放ちました。


「貴様!! 誰の許可を得て空を飛んでいる!!! ぶっ殺してやる!!!!」


 突如としてフォールがキレだしました。なにあれ怖い。意味がわかりません。


「ふんぬっ!!!」


 フォールが特大の斬撃を放ちました。火魔石を切り裂き私達に向かって飛んできます。エドガーさんが慌てて回避しました。


「墜ちろ! グラビティ―フィールド!!!」


 フォールがそう言い手をかざすと、私達に上から負荷がかかりました。重力魔法のようです。エドガーさんが重さを支えきれず墜落。私達は地面に叩きつけられました。


「この不信神者め!! この世で最も平等に与えられている神からの施しに逆らうなど赦せん!!!!」


 フォールが意味不明なことを叫びながら近づいてきます。しかし私達は高重力に押さえつけられて満足に逃げられません。逃げ足が遅すぎます。


「この世で最も平等に与えられるもの!! それは重力だ!! 人はもっと重力を享受すべきなのだ!! それを人間どもは! 重力に逆らって塔だの何だの建ておって!! 挙句の果てに空を飛ぶだと!? 重力に対する冒涜だ!!!」


 狂ってる。そう思いました。ウォッチ教にそんな教えはありません。どこの邪教徒なのか、はたまた自論なのか知りませんが、そんな話を押し付けられても困ります。それどころか殺されそうです。


「重力の重さを思い知って死ね!!!」


 フォールが再び斬撃を放ちました。二発。しかしその斬撃は私達を逸れていきます。斬撃は私たちがいる道の両側の建物に命中しました。レンガ造りの建物がスッパリと輪切りになります。追加で放たれた斬撃により建物が細切れになりました。


 建物が崩壊し私たちの頭上に降り注いできます。私とエドガーさんは逃げられません。私達はそのまま大量の石材に押しつぶされたのでした。


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