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65. 4人の幹部

 ある倉庫街の一角。そこに何人かの男たちが集まっていた。いずれも裏社会に生きる人間だ。彼らは犯罪ギルドの一員であり、彼らがいる場所は犯罪ギルドの拠点として使われていた。厳重に拠点を秘匿する犯罪ギルドにおいて拠点に居るという事は、それだけで彼らが犯罪ギルドで高い位置にいる事を示している。


「おい、聞いたか? ザキリさんがとうとう衛兵と事を構えたらしいぜ?」


 男の一人がそう話題を振ると周囲の男たちがついにか、という表情を見せた。


「あの人は混じり気の無い殺人鬼だからな。いつかこの日が来るとは思ってたぜ」


 別の男が声を小さくしてそう返した。


「ザキリのやばさは一級品だからな。正直仲間だとしても関わりたくない」

「あの人の部下になって帰ってこなかった奴も多いって聞くぜ?」

「怖えーな。幹部ともなると、良くも悪くも普通からかけ離れるもんだ」


 男たちの間に共感が広がる。彼らは確かに下っ端と比べれば高い地位にいる。しかし、さらにその上の幹部と呼ばれる連中に比べれば彼らは木っ端も同然だった。彼らにとって幹部への畏怖は当然だった。


「実際のところよ、幹部で一番やばいのって誰なんだろな?」

「そりゃあお前、……誰だろうな?」


 男たちの間にしばしの沈黙が起きた。犯罪ギルドの幹部は4人。その全員が化け物並みに強く、そして異常な人物だった。簡単には比べられるものではない。


「俺は、フレイズさんだと思う。毎日何かを燃やして喜ぶ愉快犯だぜ? しかもオネエだ。」

「いや、フレイズはまだ話が通じる方だろ。……仕草はオカマのそれだが。」


 男たちの脳内にくねくねするフレイズの姿が思い浮かんだ。男たちのテンションが下がる。


「幹部は4人共ヨハン以外の場所から移って来たのは知ってるよな? フレイズは今まで各地を転々としながら放火を繰り返してらしい。奴の放火で一番大きな事件では、村一つ丸々燃やしたらしいぜ?それで一気に有名になって、今では200万の賞金首だ」


 ある男がフレイズの逸話を話した。村一つ、その規模の大きさに男たちが生唾を飲み込む。


「あの人、気に入った男を性的に誘うらしいぜ?」

「……」


 男たちは無意識に尻を塞いだ。もし自分が気に入られたら……。そう思うと冷汗が止まらない。



「話が通じないと言ったら、やっぱりウィードが一番だろ」


 話題が別の幹部に移った。一人の男が普段のウィードを思い返し唸りこむ。


「確かにウィードさんは話ができる人じゃねえが、やばいか? いや、確かに正気じゃないが、ただの麻薬中毒者にしか見えねえぞ?」

「いや、それはウィードさんの普段の姿だ。あの人は一見ガリガリで弱そうな体つきだが、実は滅茶苦茶身体能力が高いらしい。レンガを握りつぶしたなんて逸話もある」

「まじかよ! どんなステータスだ!?」

「以前調子に乗った新人が、幹部を倒して自分が幹部になろうとしたことがあってな、麻薬吸いながら寝てたウィードに剣を突き立てたんだよ。そしたら剣のほうが折れたんだ。信じられるか? しかも首だぞ? 首に剣を突き立てられたんだ。」

「信じらんねえ……」



「いや、俺はやっぱりザキリが一番やばいと思う」


 ある男の発言により、話題は再びザキリに戻った。


「ザキリさんは言葉は通じるが会話が通じないサイコパスだ。あの人は他人を殺すのに罪の意識がないから質が悪い。そう思わないか?」

「確かに、罪悪感あったら人を解体なんて真似しないよな。きれいに部位ごとに分けるらしいぜ? まともな神経じゃない」


 男たちは改めて幹部のやばさを再認識した。犯罪ギルドは無法者の集団である。その実態は犯罪者の寄り合い所であり、犯罪者たちが好き勝手に手を結んだり情報のやり取りをするための組織だ。通常ならばそんな犯罪者たちを纏め上げる事はできないだろう。犯罪ギルドが成り立っているのは幹部の力があったからだった。



 その時、彼らの居る拠点に伝達係がやってきた。男たちが知らせを聞く。


「犯罪ギルドを探っている二人組だと?」

「はい。若い男女のようです。しかも男のほうは衛兵らしいです」


 伝令係の言葉に男たちに動揺が広がった。もし衛兵にに犯罪ギルドの存在が知られたのであれば、これから先彼らの活動がやりづらくなる。


「おい、どうするよ?」

「下手につつくよりは様子を見たほうがいいんじゃないか?」

「だが好き勝手に捜査されるのはやっかいだぞ」

「確実に排除できるのか?逃げられたら事だぜ?」


 男たちの話し合いはやがて堂々巡りとなった。その男女に手を出すリスクと手を出さないリスクがせめぎあう。そこに一人の人物が声をかけた。


「なら儂が殺しに行こう。それなら文句あるまい?」

「フォ、フォールさん!!? いつからここに!?」


 男たちが慌てて直立した。彼らの元に現れたフォールこそ、犯罪ギルド最後の幹部であった。高い身長にがっしりした体格、長い黒髭を三つ編みにした40代ほどの男だ。そして背中には身長ほどもある大剣を背負っている。


「さっき来たばかりだ。お前たちの話し合いが聞こえたので声を掛けさせてもらった」

「そ、そうでしたか」


 男たちは内心で胸を撫で下ろした。もし幹部の話題まで聞かれていたらどんな反応をするか分かったものではない。幹部相手には波風立たないようにする事が犯罪ギルドで生き残るコツである。


「おい、そこの伝令。その二人組のところに案内しろ」


 フォールは連絡係に案内され拠点を後にした。幹部が去ったことで、残った男たちの緊張が解ける。


「あー……びっくりしたぜ」

「来たのがフォールさんでよかったな。他の幹部だったらどうなってたか予想がつかねえ」

「フォールさんが幹部の中で一番まともだよな」


 安堵した男たちの口からフォールについての評判がでる。しかし相手は幹部。フォールがまともだという言葉には待ったが掛けられた。


「フォールさんだってやべえぞ。普段はあんな感じだが、実は幹部の中で一番の癇癪持ちだ。いつどんな理由でブチ切れるか分かったもんじゃない」

「この前表通りの建物が崩壊したことあったろ? あれ、鳥が飛んでるのを見たフォールさんがなぜかブチ切れて、飛んでる鳥ごと建物斬ったらしいぜ」

「意味わかんねー。怒る基準どこだよ?」

「やっぱフォールさんも幹部なんだな……」


 男たちは改めて思った。うちの幹部、やばい奴しかいない、と。

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