64. 釣れて生首
どうも、マリーンです。私は今、商業地区はずれの路地裏で人身売買について探っています。どうやって探っているかと言うと、聞き込みです。なんか裏社会に関わってそうな人たちに手当たり次第に話しかけています。現在手掛かりはゼロです。そろそろ成果が出てほしいのですが。
あっちをうろうろ、こっちをうろうろ。
「おい、女。俺たちのこと探ってるらしいじゃねえか」
そこに声をかけてきた連中が居ました。ガラの悪い5人の男が私を囲みます。敵意増し増し。やっとですか。
私を囲んでいた連中は、次の瞬間には落とし穴に落ちていました。土魔石が土魔法で地面に穴をあけたのです。5人が穴に落ちたところで穴が塞がり、首だけが地面から生えている状態になりました。ここまで0.3秒。
「遅かったですね。あんなに大っぴらに聞き込みしていたのに」
私は間抜けな生首たちを見下ろしました。私はわざと犯人に捜査がばれるように行動したのです。そして女一人だと油断して釣られてきたところを捕獲。完璧です。
「て、てめえ!何をする!」
「ここから出しやがれ!」
「こんなことして、ただで済むと思うなよ!」
怪奇、喋る生首!シュールです。
「さて、あなたたちに聞きたいことがあります。素直に吐くなら良し、吐かないならば痛い目にあってもらいます」
「けっ、女風情に何ができるってんだ? 夜の相手なら大歓迎だぜ?」
チュドン。男の顔にエアーボムが炸裂。男は鼻血を噴きながら白目になりました。
「卑猥な冗談は嫌いです。で、私は人身売買のルートを探っているのですが、あなたたち知ってることを吐いてください」
男たちが一斉に黙りました。冷や汗を流しています。どうやら立場を理解したようです。しかしそのまま誰も口を開きません。互いに目配せをしています。
「最後まで黙っていた人にはさらに痛い目にあってもらいます」
「は、話す! だからやめてくれ!」
「あ!てめえ! 裏切る気か!」
「だったら俺も話す! 話します!」
一人が抜け駆けしたのを皮切りに、男たちは次々と情報を吐いてくれました。私に取り入ろうと必死です。そして彼らの証言から、ある組織の存在が明らかとなりました。
「犯罪ギルド、ですか」
「そうです! 俺たちはそこで雇われただけなんです!」
男たちの証言によると、彼らは犯罪ギルドの組員として運び屋をやっているそうです。金や物の受け渡しは、運び屋が間に何組も入ることで捜査が入っても辿れなくしているそうです。彼らは犯罪ギルドの重要な情報は一切知らされていませんでした。狡猾な手口です。
そのとき、誰かがこちらに向かってきました。男たちの仲間でしょうか。
「おい女! そこで何をしている!?」
私にそう言ってきたのは一人の男性。衛兵の制服を着ています。はて、どこかで見覚えがあります。
「おまえ、マリーンか! 一体これはどういう状況だ!?」
どうやら向こうは私を知っているようです。いったいどこで会ったのでしょうか。
「どちら様でしたっけ」
「エドガーだ! 覚えてないのか!?」
「そんな風の人は知りません」
「覚えてるだろうが!」
エドガーさん。フルーさんの事件で私を吹っ飛ばし魔人の事件で魔人と戦った衛兵で、風魔法の使い手です。
「それで、あなたはなぜこんなところに」
「……巡回中に市民から、変な女が人身売買について聞きまわっていると通報を受けてな。お前か?」
「ええ、まあ。捜査中です」
エドガーさんが生首たちを見ました。衛兵の登場に顔を青くしています。
「こいつらはなんだ?」
「人身売買の関係者です」
かくかくしかじか。私は男たちから聞き出した情報を話しました。
「なるほど。犯罪ギルドか。事情は把握した」
「そうですか。では彼らの逮捕をお願いします。私は捜査の続きを行うので」
「まて、相手は正体不明の組織だ。一人では危険だから俺も同行する。こいつらを詰所に引き渡してくるからちょっと待ってろ」
エドガーさんは掘り起こした男たちを縛り空を飛んでいきました。ぶら下げられた男たちが悲鳴を上げています。そして数分後、再び私の元に戻ってきました。
「待たせたな。行くぞ!」
捜査を始めて一時間、お供が一人増えました。私達の捜査はまだ始まったばかりです。私達は犯罪ギルドの情報を求めて歩き出しました。
パーシャル商会に来たニーモは会長の執務室に通された。正面のデスクに座っている初老の男がパーシャル協会の会長、セドリックだ。ヨハンの裏社会のトップである。
「それで、冒険者ギルドの裏の使いが何の用だ」
セドリックは葉巻に火をつけるとそう言った。部屋の中に紫煙が漂う。カーテンが閉められた部屋は薄暗く、壁際に並べられた装飾品が窓から漏れたわずかな光を反射していた。
「分かっていることをわざわざ聞かないでください。時間の無駄です。私が来た時点で、あなたはもっと焦るべきです」
「……どうやら権力者たちはこの商会の利用価値をまだ認めているようだな。わざわざ警告に来てくれるとは」
パーシャル協会による裏社会の支配が崩れてて来ていることはセドリックが一番良く知っている。そしてそれにより自分の立場が危うくなることも当然理解していた。権力者から釘を刺されるまでも無く、パーシャル商会は既に敵となる組織を調べ始めていた。
「まずは現状を。それを聞いた後はそちらに協力するよう言われています」
ニーモは腹の読み合いを続けずに単刀直入に用件を言った。商会と敵対するために来たわけではないのだ。
「……今台頭してきている奴らは自らを犯罪ギルドと名乗っている。今までこちらに所属も敵対もしていなかったフリーの犯罪者を吸収して一気に勢力を伸ばしたのだ。今ではこちらの傘下だった組織もいくつか取り込み好き放題やっている」
セドリックは忌まわしげにそう言うと煙を大きく吐き出した。
「犯罪ギルドの詳細は調べがついていますか?」
「いま調べているところだ。やつらは何も知らない下っ端を使うことで念入りに実体を隠している。調べるには時間が必要だ」
「そうですか」
「奴らの調査は息子のクラークがやっている。協力するというのならクラークの元につくがいい。おい」
セドリックが声をかけると、ニーモの後ろで待機していた男が進み出てきた。
「私がクラークです。話の続きは私が」
長身ですらっとした体形、茶髪をきっちりとセットし身だしなみを整えた男がニーモに礼をした。一応は今回の派遣でニーモの直属の上司ということになる。
「ええ、よろしくお願いします」
ニーモはクラークに連れられて執務室を後にしたのだった。




