62. 依頼・依頼・依頼
皆さんこんにちは。マリーンです。私は今、依頼を受けるためとある屋敷に来ています。屋敷の主はスワン男爵。30歳中ごろの男性です。
私は応接室に案内されスワン男爵と向き合いました。
「それで、依頼というのはどういった内容でしょうか」
「実は先日、娘が事故で怪我をしてしまいまして、片腕を失ってしまったのです」
「それは……何とも大変ですね」
スワン男爵は目を伏せました。娘の事に心を痛めている様子です。スワン男爵は目をあげてこちらを見ると、身を乗り出しながら口を開きました。
「そこで娘の傷をいやすため、ある薬草を採取してきてほしいのです」
「ある薬草、ですか」
「ええ、エリ草という薬草です。エリ草で作られたポーションは最上級の回復薬となり、その回復薬は体の欠損すら治すと言われています」
最上級のポーション、つまりエリクサーです。欠損の再生どころかどんな状態異常や呪い、病気も癒せる代物です。
「知っています。しかしエリ草の生息地は国の機密となっていてどこにあるのか分かりませんよね。国に掛け合って薬を貰ったほうがいいのでは」
「いいえ、私のような爵位が低い貴族では取り合ってもらえません。自分で用意するしかないのです」
「しかし、エリ草がどこにあるか分からないのでは採取のしようもありません」
「いえ、あるコネからエリ草が自生している場所の情報を入手しました」
スワン男爵はさらに身を乗り出しました。私はつられて体をのけぞらせました。だって近いんですもの。顔が。
「そ、それでその場所というのは」
「世界樹の迷宮の最下層です」
世界樹の迷宮、世界でもトップレベルの難易度のダンジョンです。大森林地帯の奥地にある世界樹の根元から地下へと続くダンジョンであり、強大な魔物がゴロゴロいるやばいところです。
「……Sランク案件になりますね」
この依頼を受けられるのはSランク冒険者のルークさんだけでしょう。むしろルークさんでも危ないです。たとえ指名依頼であっても本人が依頼を受けるのを拒否することはできますし、そもそも私が依頼を受け付けないことも可能です。
しかし、そうは簡単にいかないのが今回の悩ましいところです。なぜなら依頼主は貴族。冒険者ギルドなんて武装組織が存在できるのは彼ら貴族が、ひいては国が後ろ盾となっているからです。各ギルドのギルドマスターには貴族関係者が着いており、管理されているからこそある程度の自由が与えられているのです。つまりスワン男爵はオーナーの一人。無碍にはできないのです。
「お金ならいくらでも用意します。どうか娘を助けてください」
「分かりました。Sランク冒険者のルークさんに指名依頼を出しましょう」
これでよし。私は快く依頼を受け付けました。もしルークさんが依頼を拒否しても、恨まれるのはルークさんのみ。私、安全。
「しかし、もう少し早ければすぐに何とかなったかもしれないですね」
私はスワン男爵にそう言いました。
「そ、そうなのですか? いったいどういう事で?」
「孤児院の子でナッツという女の子がいるのですが、その子が珍しいスキルを持っていまして」
「はあ」
「【再生】というスキルです。もしかしたら娘さんの怪我も治せるかもしれません」
「なんと! 今その子はどこに居るのですか!?」
「それが、数日前に誘拐されてしまったのですよ。まだ行方は知れていません」
「……そう、ですか」
私は作成した書類をまとめると立ちました。
「では私はこれで失礼します。ルークさんに依頼を出さないといけませんので」
「ええ、よろしくお願いします」
こうして私は屋敷を後にしました。
「世界樹の迷宮? いいよ」
ルークさんは依頼を快諾してくれました。結構危険な場所のはずですが、まるでお使いに行くかのようです。ルークさんは早速世界樹の迷宮に向かいました。フットワークが軽いですね。
ルークさんへの依頼が終わると、私はEランク冒険者のマントンさんを呼び出しました。そしてある依頼を頼みます。
「え、大丈夫ですかい? そんなことしてバレたらやばいんじゃ……」
「そこを何とか。報酬は弾みます」
私はマントンさんに金貨を握らせました。マントンさんの顔色が変わります。
「分かりましたぜ。早速監視してきます」
「ええ、内密にお願いしますね」
マントンさんを送り出した私は次の依頼に取り掛かりました。ナッツの捜索です。先日逮捕されたスキル狩り。彼らから得られた供述により、人身売買組織の存在が浮かび上がってきました。詳細はスキル狩り達も知らなかったようですが、ある程度組織の活動場所は絞れました。
武器良し、防具良し、アイテム良し。私は装備を整えると早速捜査に向かいました。




