58. エルーシャと迷子
エルーシャ回です。
やっほー、エルーシャだよ。みんな元気? 私はね、倒れそう。今はヨハン建設祭二日目の早朝、今から祭りの警備に行かないといけないんだ。
え? なぜ朝から疲れてるのかって? 実は私の親は定食屋をやってるんだけど、祭りの間は屋台を出してるんだよね。だから事前に料理の下ごしらえをしておかないと客を捌けないんだ。だから今日一日分の下ごしらえを手伝ってたんだよ、徹夜で。
昼間はギルドの仕事があるから夜しか手伝えないんだけど、いくらなんでもきつい。こんなことなら休暇申請しとくんだったよ。マリーンは昨日の午後取ってたみたいだし。
「大丈夫かエル? 何ならギルド休んだほうがいいんじゃないか?」
同じく徹夜明けの親父が心配してくれるけど問題ない。なぜなら徹夜に慣れているから! ……就職先間違ったかなぁ。
「大丈夫。今から行ってくるよ」
「そうか、気を付けてな」
「うん」
私の担当箇所は中央広場とその周辺。屋台が集まっていてステージでは出し物が行われている祭りのメイン会場だ。当然人の数も多い。朝っぱらから多くの人が集まっていた。そこかしこから笑い声が聞こえてくる。
「お姉ちゃんどこー!」
するとその喧騒に混じって子供の声が聞こえてきた。男の子の声だ。どうやら姉とはぐれてしまったみたい。声のする方に行くと、10歳くらいの男の子が姉を呼びながら右往左往していた。
「僕、お姉ちゃんとはぐれちゃったの?」
私がかがんで目線を合わせながら聞くと、涙目で「うんっ、うんっ」と頷いて来た。ちょっとかわいい。私に弟が居たらこんな感じなのかな?
「お姉さんだれ?」
「私はエルーシャ。ここの警備員なんだ。僕の名前はなんて言うの?」
「エランドっていいます。お姉ちゃんどこか知らない?」
「うーん、分からないな。どこではぐれたの?」
「さっきまでここにいたのに居なくなっちゃったの」
「お姉ちゃんってどんな人? 見た目を教えてくれるかな?」
聞き出した特徴によるとお姉ちゃんは15歳位の女の子で、髪は肩くらいの長さの茶髪、目はブラウンらしい事が分かった。
「お姉ちゃんの名前はなんていうの?」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんだもん」
そして名前は不明。実の姉じゃないのかな? 結局名前は分からなかった。
「よし、じゃあお姉ちゃんが見つかるまで私が一緒に探してあげるよ」
「ほんと!? ありがとう!エルーシャ!」
こうして私とエランドは一緒にお姉ちゃんを探し始めたのだった。
「それでね! お姉ちゃんはいつも話し相手になってくれるの! ずっと一緒なんだよ!」
エランドはお姉ちゃんの事を夢中で話してくれた。お姉ちゃんとは相当仲がいいみたい。今日の祭りも二人で来たらしい。
「へえ、そうなんだ。いいお姉ちゃんだね」
「うん! 会いたいときはいつでも来てくれるの! でもさっきまでいつもみたいに二人で話してたのに、急にいなくなっちゃったの」
「そっか、なら近くにいると思うんだけどなあ」
私達はしばらく周囲を探し回ったんだけど、結局お姉ちゃんを見つけることはできなかった。私達は仕方なくエランドの家に帰ってみることにした。もしかしたらそっちに行ってるかもしれないしね。
そうしてエランドの家に向かう途中、私たちは人だかりに遭遇した。なんだろう?
「犯人はあなたです」
「な、なぜわかった!?」
そこに居たのは私の友達のマリーンだった。あいつまた事件に遭遇したみたい。トリックを暴かれた犯人は衛兵に連れられていった。
「マリーン、おつかれさん」
「おや、エルーシャですか。なぜここに」
「迷子の子を家に送ってるんだよ。その途中」
「子供って、どこですか」
「え?」
あれ? さっきまで居たのに、どこ行っちゃったんだろう?
「大丈夫ですかエルーシャ。疲れすぎで幻覚が見えているのでは」
「本当だって! さっきまで一緒に居たんだよ!」
私は知っている。マリーンは仲がいいに人ほど揶揄する。天邪鬼だよなあ。私がマリーンに経緯を話すと、マリーンはこんなことを言い出した。
「先日孤児院の子供が行方不明になったそうです」
「え、そうなの?」
「無関係だとは思いますが、一応早く探したほうがいいですね。昨日今日と事件が多発していて物騒ですし」
私はマリーンにエランドとお姉ちゃんの特徴を伝えると手分けして探すことにした。はぐれたのはついさっき。きっと近くにいるはず。可能性は低くても、万が一があったら大変だ。私は無意識に小走りになっていた。
そうして辺りを探していた私の目に、チンピラによって路地裏に引きずり込まれるエランドが映った。ちょ、まじか!
「エランド! 大丈夫!?」
私が路地裏に飛び込むと、口をふさがれて捕まっているエランドがいた。その周りにはチンピラが3人。
「まずい! 見られたぞ!」
私を見たチンピラが動揺する。が、私も動揺していた。どうしよう、勢いで追いかけたけど、どうやって助けよう。
一応護身用にナイフを持っているけど、実戦は未経験だ。戦闘スキルは「短剣術 LV1」だけ。家の手伝いで野菜を切ってたらなぜか習得していたなんちゃって戦闘スキルだ。
やるしかないのか。こいつらを料理しろという事か。出来るのか? 私に?
ガンッ!
無理だった。私の後頭部にチンピラの振った角材が命中した。やばい、意識がっ……。立っていられなくなった私は地面に倒れていた。
「おい、こいつどうする?」
「殺すか?」
「ここで殺したら目に付く。どうするにしろ、いったん移動するぞ」
最後にチンピラたちの声を聞きながら、私は気を失ったのだった。




