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57. 手芸コンテスト後編

 続いての評価対象は私達が作った邪神のぬいぐるみ。正直不安しかありません。主にデザインに。一体どうなってしまうのでしょう。


「これは……!なんというおぞましさだ! 世界の全てを呪っているかのようなオーラを感じるっ!! このぬいぐるみを作ったのは誰だ!!!」


 レーベンさんが吠えました。今までにない気迫に、会場がビリビリと震えます。


「私ですわ」


 ユーリさんが名乗り出ました。さすがボスおばさん、人々の注目を集めても堂々とした態度です。面の皮が装甲レベルの厚さです。


「お主が作った邪神、見事なり! かつてない一品だ! 儂には分かる。あれには魂が宿っている!!」


 あ、そう言えば以前あのぬいぐるみと話をしたのでした。確かにそのときにスキルで魂を付与しています。


「あの……」

「なんだね作者よ?」

「邪神じゃなくてドラゴンです」


 ユーリさんから驚きの事実、なんとあの邪神はドラゴンだったのです!


「これのどこがドラゴンだ! デザインがなっとらん! 次っ!」


 哀れ、邪神もといドラゴンの評価は最後の最後に暴落したのでした。



 その後、ほとんどの出品者がレーベンさんのダメ出しに沈没していきました。そして評定は最後のぬいぐるみに移りました。そのぬいぐるみはウサギのぬいぐるみでした。白い毛に長い耳、そして赤いつぶらな瞳がかわいいです。


「ねえ、あんなぬいぐるみあった?」

「気づかなかったわ。地味ね」

「投票数0なんだけど、ウケる」

「そう言えば展示してあったわ。忘れてたけど」


 私の耳に野次馬のひそひそ話が聞こえてきました。どういうことですか。あんなにかわいいのに評価されないなんて理解できません。完成度も今までの中で最高のはずです。


「……素晴らしい!!!」


 レーベンさんの声が再び会場に響き渡りました。野次馬たちが一斉に黙ります。


「これを作ったのは誰だ!?」


 レーベンさんが辺りを見回しました。


「私が制作しました。」


 そういって進み出てきたのは一人の男性。癖のある赤毛、甘いマスク、すらっとした体形の好青年です。


「お主、名はなんという?」

「チャーリーと申します」

「チャーリーよ、お主の作品実に見事なり! 洗練されたデザイン、サラサラのさわり心地、丁寧な縫い上げ、どれをとっても最高の一品だ!」


 レーベンさんの評価に、野次馬たちが再びザワザワし始めました。


「うそだろ!? あんな地味なぬいぐるみが!」

「一体どうなっているの!?」

「あんな存在感がないのに!」


「口を慎めい!!!」


 レーベンさんが一喝し、またも会場に静寂が訪れました。


「地味だと? 存在感がない!? 見当違いもたいがいにしろ! それでも手芸者か!!」


 そう言うレーベンさんはウサギさんを抱きしめていました。言ってることと見た目のギャップがすごいです。


「これは存在に違和感が全くないのだ! 普通はどんなに精巧に作ってもそれは作り物、布や綿の具合、変形によって歪みが生まれるものだ。だがこれにはそれがない! だからこそ自然さが生まれている! そこにあるのが当たり前すぎて印象に残りにくいのだ! そうだな?チャーリーよ!」


「その通りでございます。一見地味、しかしそれは精巧すぎるが故なのです。理想との差を特徴として捉えるのであれば、これは理想そのもの。ゆえに特徴がないと錯覚してしまうのです」


 ほほう、中々いいことを言いますね。野次馬たちにもっと言ってやってください。


「ところでレーベン氏、ぬいぐるみの頭を撫でて頂けますかな?」


 チャーリーさんがレーベンさんにそう言いました。


「む、頭だと? どれどれ……」


 レーベンさんはそう言うとウサギさんの頭を撫でました。


「こ、これは!!?」


 突如としてレーベンさんの服が内側から盛り上がり、破けて裸となりました! い、いったい何が!


「これはっ!? ただのウサギではなくホーンラビット!! 頭を撫でて初めて気づかせる仕掛けだと!?」


「その通り。これは魔物の一種ホーンラビットのぬいぐるみなのです。額に極小の角を潜ませてあります」

「そうか! ホーンラビットは年に一度角が生え代わる! 生え変わったばかりの角は体毛に隠れ、見た目では普通のウサギと区別ができない!! ただのかわいいウサギと思わせて、撫でて初めて気づく魔物の一面! なんという見事な演出だ!!」


 当たり前のように解説しているレーベンさんですが裸です。筋肉ムキムキの老人が裸でウサギを抱いている光景がそこにありました。



 こうしてチャーリーさんは優勝しました。賞金の10万イエーンを受け取って自慢げです。そしてレーベンさんは猥褻物陳列罪で逮捕されました。拘束されたときの問答により、興奮すると服を破ってしまう癖があると言うあまりにもあんまりな理由が語られました。故意で無いにしろ、乙女に全裸を見せた罪は重いです。変態に人権は無い。


「チャーリーさん、優勝おめでとうございます」


 私はチャーリーさんに声を掛けました。どうしても言いたいことがあったからです。


「ありがとう。君のような素敵な女性にそう言われると照れてしまうよ」

「おや、お上手ですね」

「いえいえ、本心ですよ」

「本当にお上手でしたよ。自分が作ったわけではない物を、さも自分が作ったかのように振る舞うのが」

「……あ?」


『捕獲してください』


 わたしがロープにそう言うと、ロープに付与したスキル「拘束 LV3」の効果によってチャーリーさんは手足を縛られました。バランスを崩したチャーリーさんが倒れます。


「一体何を!?」


 驚くチャーリーさんの前に立ち、私はある事を教えました。


「あのウサギのぬいぐるみ、私が作った物なんですよ」

「な!!!?」


 そう、チャーリーさんは以前私が売り払ったぬいぐるみを買い、それを自分の作品だと偽って出品していたのです。私のぬいぐるみが優勝だと評価してくれたのが変態と詐欺師だけというのは複雑な心境です。


 チャーリーさんも逮捕され、衛兵に連れていかれました。審査員と優勝者の逮捕によってコンテストは中止となり、私の手元にはチャーリーさんから取り上げた10万イエーンだけが残りました。喜んでいいものでしょうか……。


「ユーリさん、レヅさん、もしよかったら食事に行きませんか。奢りますよ」


 心のしこりを振り払い、私は二人に声を掛けました。賞金が手元に残らなければじきに忘れるでしょう。私たちは高級料理店へと向かったのでした。


なぜか料理漫画みたいになりました。どうしてこうなった。


祝、10万文字突破!

これからもマリーンをよろしくお願いいたします。

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