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53. おばさんの目にも涙

 ぬいぐるみ切り裂き事件から数日後、私は再び手芸倶楽部リリーを訪れていました。犯人の二人の身辺調査が終わったからです。私はボスおばさんが淹れたお茶に口を付けました。今回はおいしく味わって飲めます。


「数日ぶりですね。コンテストへの納品は無事済みましたか」

「ええ、お陰様で、無事出すことができたわ。早速だけど、調査の結果はどうだったのかしら」


「詳しくはこちらの資料に書いてありますが、要点を説明しますと、犯人二人は他の手芸倶楽部に所属していました」

「他の倶楽部? 新しいところに入ったの?」

「いえ、どうやらずっと前から所属していたようです」


「ずっと前から?」

「はい。彼女たちはいわゆるスパイと言うやつです」

「スパイって、敵に紛れ込んでなにかするって言うあの?」

「そうです。彼女たちの目的は、コンテストのライバルを蹴落とすことです。だから優勝経験のあるあなたを狙ったのです」

「そんなことを!?」


「問い詰めて聞き出したわけではないので状況証拠からですが、ほぼ間違いないでしょう。少なくともこのクラブへの害悪行為をしていたのは確実です」

「害悪行為?」

「以前このクラブに所属していた元会員に話を聞いてきました。元会員がここを辞めた理由も分かりました」

「居場所が分かったの!? 引越ししたみたいで私も分からなかったのに!」

「ええ、服飾関連の仕事をしているとあたりを付けて、あとは商業ギルドのつてで」


 私はお茶を一口飲むと、報告を続けました。


「元会員の彼女は、まず犯人たちから嘘を吹き込まれました」

「嘘?」

「あなたが陰で彼女を笑いものにしている、貶している、などと言った話です」

「ええ!? そんなことしてないわよ!」

「分かっています。もちろん犯人たちの作り話です。犯人たちはそうやって彼女に不信感を植え付けていきました」

「そんなことが……」


「その後彼女は犯人たちから嫌がらせを受け始めました」

「そんな!」

「行為は次第にエスカレートしていきいじめへと発展しました」

「ああっ、なんてこと!」

「犯人たちは彼女に、そのいじめがあなたの指示によるものだとも言ったそうです」

「知らなかった……。気づいてあげられなかった……」


 ボスおばさんは頭を抱えました。ショックが大きかったようです。私はボスおばさんが落ち着くまで少し待ってから報告を続けました。


 今回の事件は、私が見学に来たことで、コンテストへの出品そのものを辞めさせてその責任を私に被せようと突発的に起こしたのでしょう。というか、あの邪神のデザインもコンテストの評価を落とすためなんだろうなぁ、と私は内心で思いました。


「犯人たちの逮捕は難しいです。実被害を出したのはぬいぐるみの破壊だけで、彼女たちも制作者であるためです。法的に見れば、自分で自分の物を壊しただけと判断されるでしょう」

「そう、仕方ないわね……」


「最後にこちらをどうぞ」


 そう言って私はあるメモを渡しました。


「これは?」


 ボスおばさんは怪訝そうにメモを見ました。そこに書いてあるのはある住所です。


「元会員の今の住所です。聞き込みの時に今回の事情は伝わっています」

「そこまで……」


「私の仕事はここで終わりです。この住所を知ってどうするかはあなたに任せます」

「ありがとう」


 ボスおばさんの目から涙がこぼれました。ボスおばさんは顔をぬぐうと、硬貨の入った小袋を取り出しました。


「これで依頼達成ね。お疲れ様。成功報酬よ」

「いえ、またいつでもご依頼ください」


 私はそう言いながら金額を確認しました。全部で20万イエーン。うふふ。


「それとこれ、あなたへのチップよ」


 ボスおばさんはさらに小袋を渡してきました。


「そんな、悪いですよ」


 一旦は断る、それがチップを受け取る時のマナー(嘘)。


「いいから受け取って。あなたは依頼以上の仕事をしてくれたわ」

「それでは、ご厚意に甘えて」


 臨時報酬ゲット。いいことはするものですね。


「どうかしら、もしよければまた倶楽部に来てくれてもいいのだけど。歓迎するわ」

「……私の求めるセンスとは違うので」

「そう、分かったわ。じゃあせめてコンテスト当日には来てほしいわ。今度のヨハン建設祭で、一般投票をかねて公開されるの」

「ええ、それくらいなら」


 あの邪神のデザインで良い結果が取れるとは思えませんが、それは言いますまい。


「では私はこれで」


 私はそう言って椅子から立ち上がりました。そしてボスおばさんに見送られて倶楽部を後にしたのでした。



 帰宅後、私はチップの入った小袋を開けました。さて、いくら入っているのか楽しみです。


 おおっ、おおおっ! おおおおっ!!


 金貨がザックザク! 金貨一枚で1万イエーンなので……なにか一緒に入ってますね。カードケースでしょうか。私はケースを開けてみました。中からカードが出てきます。


=================

 手芸倶楽部リリー 名誉会員証

       No.001:マリーン

=================


「いらない…………」


 私はカードケースをそっと閉じたのでした。


これで手芸倶楽部編は終了です。

謎解きが論理パズルのようになりました。正直者と嘘つきを仕分けるあれです。

主人公はうそつき村の住人ですね(笑)。


次回予告:

 ヨハンの建設記念日を祝う祭り、それがヨハン建設祭。その日が訪れたことで街はお祭りムード一色だった。しかし人が集まれば事件も集まるもの。マリーンは次々起こる事件を解決できるのか!? 次回、短編集!

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