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52. 古傷を縫う


「そんな……、二人ともどうして」


 ボスおばさんが犯人AとBに聞きました。ショックを隠せないといった表情です。


 私も動機は気になるところです。同じ手芸を嗜む者として、自分の作品にこんなひどい事をするのは許せません。私は少し怒っていました。


 犯人たちはだんまりでした。ボスおばさんが何度も問い詰めますが、一向にしゃべろうとしません。


「黙っていたら、あなた達もぬいぐるみと同じ目に合わせますよ」


 私は鉈を取り出してにっこりしました。コミュニケーションの基本は笑顔からですよね。


「ひいいいいぃぃぃ!!」

「殺されるぅ!!!!」


 犯人たちは逃げ出しました。おばさんとは思えない瞬発力。そして全力疾走。家を飛び出して走り去っていきました。


「あ、あなた……」


 ボスおばさんが鉈を見てたじろいでいました。


「すいません。ちょっと脅して口を割ろうとしたのですが、逃げてしまいました」


 私は鉈をしまいました。ちょっと暴力的になっていましたね。反省です。


「それにしても、ずいぶんあちこち斬られてますね」


 私は話をそらして邪神のぬいぐるみを見ました。


「ボロボロね」

「何とか直してみましょう」

「手伝ってくれるの?」

「まあ、ぬいぐるみがかわいそうなので」

「……ふふっ、意外と優しいのね」

「意外とは何ですか、意外とは」

「あら、ごめんなさい?」


 私達はぬいぐるみの修復を始めました。こぼれ出た綿を戻し、斬られた布部分を縫合していきます。が、すぐに問題発生。


「これじゃあ修復跡が目立ってしまうわね……」

「そうですね」


 二人でいろいろ工夫してみましたが、修復跡を消すことはできませんでした。


「どうしましょう……」


 ボスおばさんが残念そうにしています。そう言えばコンテストに出すのでしたね。減点要素はできるだけなくしたい所です。


「そうだ、傷跡を残せばいいんですよ」


 私はあるアイデアを思いつきました。


「どういう事なの?」

「切れた部分に、こうして、ああして……」


 私は傷跡に縫い針を通していきました。


「これは!」

「そうです。斬られた部分を古傷に見えるように修復することで、より野性味ある自然なデザインになります」


 布の傷の修復跡として目立つから良くないのです。動物の傷らしくすればいいのです。


「これなら何とかなるわ!」

「残りの傷も治していきましょう」


 私たちはどんどん傷を直していきました。傷か多かったために時間がかかり、修復作業は深夜まで続きました。


「ふふっ」

「どうかしましたか」

「いえ、ごめんなさい。昔を思い出しちゃって。こんな風に二人で夜なべして作品を作ったことがあるのよ」

「二人で……、倶楽部の会員ですか」

「元、だけどね。この倶楽部もその二人で作ったの。で、夜なべして作った作品で、コンテストで優勝したのよ」


 ボスおばさんは静かに微笑みました。


「どうしてその人はやめてしまったんですか」

「分からないわ。今日逃げた二人が入ってきた頃だったかしら。何も言わずに出て行っちゃったの。それ以来会えてないわ。引っ越したらしくて」

「……」

「さ、これでこちらは終わったわ。そっちので最後ね?」

「ええ、もう終わります」


 修復が終わると、ボスおばさんは邪神のぬいぐるみを抱えて傷が残っていないか確かめました。どこにも残っていません。あるのは歴戦を思わせる古傷だけです。無傷だったころよりも高いクオリティーになりました。


「ありがとう、こんな遅くまで」

「いえ、好きでやったことなので」


 センスは私の理解を越えていますがね。


「ところで、今日の犯人の二人のこと気になりませんか」

「それは、確かに気になるけど、もうここには来ないだろうし仕方ないわよ」

「そこでなのですが、一つ提案があります」


 私はボスおばさんと向き合いました。ここからは営業の時間です。


「二人の身辺調査を冒険者ギルドに依頼してみてはどうでしょう」


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