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51. 嘘つきはだれか

 休憩から戻った私達が見たのは、ずたずたに切り裂かれた邪神のぬいぐるみでした。切り裂かれた傷口からは綿がはみ出ています。ぬいぐるみの隣には、犯行に使われたであろう裁ちばさみ。人の手による事件であることは明らかです。


「ちょっと! どういうつもりよ!」

「こんなことして許されると思っているの!?」


 おばさんAとBが私に向かって批難してきました。私が犯人だと疑われているようです。


「待ってください、なぜ私にそんなことを言うのですか」


「あんた以外誰がやったっていうのよ!」

「そうよ! 部外者はあなただけなのよ!」


 やれやれ、ヒステリックおばさんの相手は疲れますね。


「証拠はあるのですか。証拠は。無ければただの言いがかりですよ」


 証拠などあるはずがありません。誰も見てない内に、現場に元々あった道具でやった、ただそれだけの犯行なのですから。


「私達が嫌味や悪口言ったのを恨んだのでしょ! あなたには動機があるわ!」


 悪口言っている自覚があったなら言わないでほしかったです。


「トイレに行くと言って席を外したじゃない! その時にやったのね!」


「……あなたがやったの?」


 さらにボスおばさんまでもが私を疑い始めました。


「ですが、トイレに行ったのは三名いますよね」


 そう、私がトイレから戻った後、おばさんAとBも順にトイレに行ったのです。そもそもそんなしょうも無い動機で私がそんな事をするはずがありません。やるなら計画的に行います。最低限、アリバイは確保します。事件現場に残ることもしません。


 私は、犯人ではありません。


「なに? 私達を疑っているわけ!? 信じられない!」

「いいから早く認めなさいよ!」


 あくまで私を犯人にするのですか。ではこちらも反撃するとしましょう。


「私の後にトイレに行かれたのはあなたでしたよね」


 私はおばさんAにそう言いました。


「だから何? 往生際が悪いわよ!」


「私はトイレを流すときに水をすべて使い切ってしまったのですが、桶に井戸から新しく水を汲んで来たにしては、帰ってくるのが早くなかったですか」

「!!?」


 おばさんAが一瞬固まりました。が、すぐに否定してきました。


「ちゃんと井戸から汲んだわよ! みんなを待たせるのは悪いと思って、急いでね!」


「彼女の言っていることは本当でしょうか」


 私は続いておばさんBにそう聞きました。おばさんAが本当に水を汲んできたのなら、おばさんBがトイレに行ったとき桶に水が入っていたはずです。


「……ええ、本当よ。私が行ったときは桶に水があったわ」


 おばさんBがそう証言しました。


「そうですか。では念のためトイレに確認に行きましょうか」


 私はそう言ってトイレに向かいました。


「ああでも!」

「……なんでしょうか」


 トイレに向かおうとした私は、おばさんBの声に立ち止まり振りむきました。


「私も水を使い切っちゃったわ。水が少なかったから。だから今トイレに水は無いの」


「そうそう! 私が井戸で汲んだ時、急いでいたから少ししか汲んでないのよ」


「なるほどなるほど。はい、ダウト」


 間抜けな嘘つき発見です。さて嘘つきは誰でしょうか。私です。



「すいません。さっきのは嘘なんです。じつはトイレの水を使い切っていません。普通にいっぱい残ってました」


「なっ!!?」

「へ?……あぁ!!」


 私の告白でおばさんAとBはあることに気づき、顔をゆがめました。そう、彼女たちの証言とは違って、今トイレには水があるのです。わたしはボスおばさんをトイレに連れていき、それを確認させました。


 順に解説しましょう。犯人はおばさんAとBの二人でした。二人は順にトイレに行く振りをして、トイレに行かずにぬいぐるみを破壊したのです。私が水を使い切ったという話を聞き、おばさんAは井戸から水を汲んだと嘘をつきました。おばさんBそれをかばうために、自分がトイレに行ったときには水が汲まれていたと話を合わせたのです。


 が、実際には二人はトイレに行っていないので、水は私が使い切ったままという事になります。私がトイレに確認に行こうとしたため、おばさんBはさらに嘘をつきました。自分も水を使い切ったからおばさんAが汲んだ水は残って無い、と。


 おばさんAは私が水を使い切ったという嘘に騙されました。トイレに行っていれば水が残っていたと知っているはずなので、おばさんAはトイレに行っていないと分かります。おばさんBはトイレの水を使い切ったと証言をしましたが、実際にはトイレに水が残っています。よっておばさんBもトイレに行っていない事が分かるのです。



 なお、そんなことをしなくても私は最初から犯人がおばさんAとBであると知っていました。だからこそ二人そろって罠に嵌めたのですが、なぜ最初から知っていたのか。それは、ぬいぐるみ本人に聞いたからです。ええ、スキルを使えば一発でした。


 問題は、私がその事を言っても信用されないという点でした。私のスキルは認知度ゼロ、そんなスキルの効果を言ったところで相手にされないのがオチです。。どうやって犯人を特定してかつ納得させるかが重要でした。


 が、先ほども言いましたがこの事件に証拠はありませんでした。誰も見てない、席を外したものは誰でもできる、そんな事件だからです。


 証拠がないなら作ればいいのです。


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