49. センス大爆発
手芸倶楽部編、全5話です。
注)本編でのおばさんに関する表現はフィクションであり、現実のおばさんや思想とは一切関係ありません。
「よし、これで完成です」
私は縫い針をピンクッションに刺して糸くずを払い除けました。目の前の机に鎮座しているのは自作のウサギのぬいぐるみ。出来立てほやほやの一品です。
ここは私の自宅。私は仕事が終わってから就寝までの少ない時間を使って、夜な夜な趣味の手芸に取り組んでいました。今回の品は自信作です。両手で抱きかかえて感触を確かめました。ふむ、いい感じの抱き心地です。
このままベッドに入って抱きながら寝たい所ですが、それはできません。なぜならこのぬいぐるみは納品するからです。私は趣味の手芸で作った作品を度々商店に買い取ってもらっていました。これも明日持ち込む予定です。ですのでこのウサギさんにはきれいな体のままでいてもらわなければいけません。
ギルドの仕事が始まる前に売りに行くので、明日は朝一で起きないといけません。私は手早く裁縫道具を片づけると、すぐに眠りにつきました。
次の日予定通り早めに起きた私は、いつも作品を納品している服飾店に向かいました。心を込めて作った私の作品は、いわば私の子供と言っても過言ではありません。どうか素敵な人に買われてほしいものです。
そうして売った我が子ははした金で買い取られました。ちっ。店長は相変わらず査定が厳しいです。材料費よりは高いけど制作の苦労には見合わない、といった感じですね。今度こそは高額な査定結果を出せると思ったのですが。
「どうしたらもっと高く買い取ってくれますか」
私は店長に聞いてみることにしました。
「あんたは裁縫の腕はいいが、センスがねぇ。デザインが奥ゆかしすぎるというか、まあ、はっきり言ったら地味なんだよ。自然体過ぎて客の目に留まらない。もっと人目を引くようなデザインじゃないと売れないよ」
「デザインですか……」
「そうだ、手芸倶楽部に行ってみたら? 他の人と意見交換したらいいんじゃない? 紹介するわよ?」
そう言って店長さんは住所の書かれたメモを渡してきました。手芸倶楽部の活動場所のようです。詳しく聞いてみると、ヨハンにはこういった団体がいくつかあるそうです。今回紹介されたのは手芸倶楽部リリーという団体でした。倶楽部、いいかもしれませんね。一度見学に行ってみますか。
私はメモを受け取ると店を後にしました。
数日後、私は午後に休暇を取り、紹介された場所を訪れました。ちょっと高級な住宅街の一角、そこの一軒家がクラブの活動場所でした。どうやら会員の家を使って活動しているようです。私はさっそく倶楽部へと足を踏み入れました。同じ趣味の人間の集い、ちょっと楽しみです。
帰りたい。私はものの数分でそう思いました。倶楽部の構成員は3名。その3名共が、私には近づきがたい人種でした。
「ロングスカートも地味ね~」
「あらヤだっ! あなたのバッグ、安物じゃない!」
「もっとキラキラした格好じゃないとモテないわよ~」
おばさんでした。それも、強烈に濃いおばさんでした。私はおばさんに囲まれてファッションチェックをされていました。数々のダメ出しに私の心はヒビだらけです。
そうだ! 彼女たちはきっと、おばさんという状態異常にかかっているのでしょう。はやく治してさし上げないと。しかし若さが足りない。
「御覧なさい。このカーディガン。素敵なヒョウ柄でしょう?服にもパワーが必要なのよ」
そう言って派手なヒョウ柄を見せつけてくる彼女は倶楽部の会長、ボスおばさんです。この家は彼女の住居でした。
「素晴らしいヒョウ柄ね会長。カリスマ性が隠しきれてないわ!」
そう言う彼女は、化粧と香水の強烈な臭いを振りまく取り巻きおばさんAです。
「あなたももっとセンスのある服選びをしないとだめよ!」
私にそう言うのは、宝石がギラギラしたアクセサリを大量に身につけた取り巻きおばさんBです。
「それで、皆さんはどんな作品を作られているのでしょうか」
秘儀、会話の流れぶった切り!
「ふふっ、気になる? 気になるわよね! 私達は今、ドラゴンのぬいぐるみを作っているのよ!」
「もうすぐ手芸コンテストがあるの。今回のテーマはぬいぐるみなのよ!」
「あらやだ、早く作業に取り掛からないと。もうすぐ期日なのに!」
おばさんたちはそう言うと作業室に移動しました。囲まれていた私も一緒に連行されます。
「御覧なさい! まだ未完成だけど、これが私たちの作品よ!」
そういってボスおばさんが見せたのは、……ナニコレ。
「何って、ドラゴンじゃない」
「ちょっとアレンジ加えてるけど、ドラゴンよ」
「未完成だから全体像がつかみにくいけど、ドラゴンよ」
そこにあった物をできるだけ正確に言葉で説明してみましょう。大きさは一抱えほど。各パーツごとに違うカラフルな色で出来ていて、しかもヒョウ柄特有の黒ぶち模様がついていて、水晶などの宝石が要所に埋め込まれているドラゴンの形をした体に、なんか羽毛とかヒレとか触手とかが生えている、未完成の何か。
「最初はベタなデザインで作ってたんだけど、それじゃ味気ないと思ったのよね~。だから私達らしいデザインにしたの」
おばさんAが自慢げにそう言いました。
「さすがね! 英断よ!」
ボスおばさんはそれを絶賛。
「会長に褒められるなんでうれしいわ!」
「どう? すごいでしょ!」
私に共感を求めてくるの、やめてほしいです。
「見た人にこれだけの圧倒感を与えるぬいぐるみは、世界中探してもこれだけよ」
圧倒感というか、見ていて落ち着かない禍々しさを感じます。
「これが私たちのドラゴンよ!」
いや、どう見てもドラゴンじゃないです。邪神的な何かにしか見えません。




