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47. 湧き肉

「ということがあったんですよ」

「ふーん、迷い人ねぇ」


 開拓から帰った私はエルーシャと夕食を食べていました。場所はギルドの定食屋です。開拓中に狩られた動物の肉がギルドにも卸され、この定食屋で食べられることになりました。それを聞いたエルーシャが食べてみたいと言い出したのです。


「うーん、なんか獣臭い気がする……」

「まあ、畜産の牛や豚と比べたら味は落ちるでしょうね」

「これなら魔物肉のほうが美味しいな」

「そうですか」


 ヨハンで食べられている肉の多くは畜産動物の肉です。冒険者が狩った魔物の肉だけでは住民全員の食べる肉を補えないからです。ヨハンは街の外が魔物で危険なため農業も酪農もなく、食料は買い入れに頼っているのが現状です。


「それにしても、このあたりの森で魔物じゃない動物が獲れたのって初めて聞いた気がするわ。魔物しかいないんだと思ってたけど、実は動物も居たんだね」


 エルーシャが熊肉を頬張りました。筋が固いようで、噛み切るのに苦労しています。


「なに馬鹿なことを言っているんですか。居るわけないでしょう。動物なんて」

「はぁ? だって獲れてるじゃん。魔物から逃れて例の安全地帯に集まったんでしょ?」


 エルーシャが熊肉を見せびらかしてきます。この熊肉が目に入らぬかとでも言いたげです。入れたらタレが目に染みそうです。


「エルーシャは教育受けてないのでしたっけ」

「当然じゃん。うちの親にそんな金ないよ。家業の手伝いで帳簿の付け方と計算を覚えたくらい」

「ひょっとして他の人も同じように、魔物から逃げてきた動物が集まったのだと思っているのですか」

「当たり前じゃん。普通に考えれば分かるでしょ。常識だよ常識」


 エルーシャ、私の正気を疑うような目で見るのはやめてください。教育を受けていないがために間違った知識を持ってしまったのだと思うと哀れに思えてきます。


「ですが、普段冒険者が狩ってくるのは魔物だけですよね」

「魔物のほうが多いからでしょ」

「そもそも動物を森で見たという話もありませんが」

「隠れてるんじゃない?」

「ずっと瘴気にさらされて動物が魔物化せずに生きていけるでしょうか」

「それは……。じゃあマリーンは動物がどこから来たって言うのさ」

「それはもちろん、







 何もないところから湧いて出たんですよ」






「は?」

「宗教学、哲学、魔術。これら全ての学問でこの説は支持されています。ウォッチ教の聖典では動物は神からもたらされた物だとされていますし、卵が先か鶏が先かの議論では鶏が先だと結論付けられていますし、鑑定原理では……」

「ストップストップ! 意味わかんない! どういうこと!? 動物だって子供を産んで増えるでしょ?」


 エルーシャが話を遮ってきました。まあ、いきなり結論だけ言ってもそうなるでしょうね。


「確かに動物は子供を産んで増えます。これは観測された間違いのない事実です」

「そうでしょ!」


「では聞きます。ある鶏には親の鶏がいます。その親はどこから生まれたのでしょうか」

「親の親」

「では親の親の親、というように先祖をさかのぼっていきます。では、世界で最初の鶏はどこから生まれたのでしょうか」

「世界で最初の鶏?」

「そうです。先祖をさかのぼって行きつく最初の親、つまり真祖です」

「親がいないってこと?」

「そうです」

「いや、だからって無から生まれたってのは荒唐無稽過ぎるよ!」


「では別の例で考えましょう。私達人間は魔物の住む領域を開拓して生存圏を広げています。動物は開拓によって魔物がいなくなり瘴気が無くなった土地にいます。過去に行くに従って生存圏は狭くなっていきます。するといつかは生存圏が無い時代までさかのぼることになります。人間の生存圏が無いということは世界は瘴気で溢れているため、動物が生きていられる環境が無いという事です。よって動物は無から発生したという事になります」


「そんな訳あるか!」

「あなたが思っている反論もそれ以外の全ての反論も検証された上での結論なんですよね。はい論破」

「絶対間違ってるよそれ!」


 エルーシャが頭を抱えました。

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