45. 大開拓
迷い人編、全4話始まります。
みなさんこんにちは。マリーンです。私は今、冒険者たちと共に新人研修跡の野営地に来ています。ジャイアント・アーミーアントよって魔物が食い尽くされ、今ここは魔物がいない安全地帯となっていました。よって現在、ヨハンの開拓労働力はここに集中投入されて大規模な伐採が進められていました。一斉開拓は全3日間。今日はその初日です。
とはいえ魔物も生き物。時間が経つにつれて周囲から移動して来るため、いつまでも安全とはなりません。私は警護担当の冒険者たちを指揮し、周囲の索敵をさせていました。
ズドン。
大きな音と共に大木が倒れました。見ると、ずんぐりした男性が斧を振るい次々に木を倒しています。彼はBランク冒険者のドーウさん。通称、木こりのドーウ。普段からよく開拓労働の依頼を受けており、開拓中に遭遇した魔物を倒してギルドに卸している人です。
ドーウさんが斧を振るごとに斧が光を放ちます。あれはスキル「斧技」でしょう。武技系スキルを持っていると、武器を使って特定の技を発動できるようになります。彼が発動しているのは恐らく強力な一撃を振るう類の技です。草刈りでもしているかのように次々に木々が刈られていきます。
あの調子なら予定より早く開拓が進みそうですね。開拓の流れとしては、まず森の中を一周するように木を切り進んでいきます。そうして囲った領域と外との境界に、切り倒した木を積み上げて防壁を作り、魔物が出入りできなくします。中の魔物を一掃してから、中の木を全て切り倒します。こうすることで、開拓中に魔物に襲われる機会を減らして作業をすることができます。
今回の開拓は周囲が安全地帯ということで、500メートル×500メートルというかなり広い領域を囲う計画です。魔物と戦えない人員もつぎ込んで一気に切り開きます。
そうして開拓が続く中、ある冒険者のパーティーが狩った獲物を持ち帰りました。熊です。そう、魔物ではないただの熊。さらに別のパーティーは鹿を仕留めました。さらに鳥も何匹か。全て、魔物がいなくなった森で狩ったものです。
夜になりました。ヨハンまで戻るには時間がかかるので、夜は野営地で過ごします。狩られた動物の肉が振る舞われバーベキューとなりました。
バーベキューには2種類の人間がいます。焼くのに専念する人と、食べるのに専念する人。私が狙うのは当然、食べるのに専念する側。つまり勝ち組です。奉仕されたい。誰よりも楽をして生きたい。
「おいねーちゃん! こっちにも肉追加!」
私の願いはあっけなく崩れ落ちました。ここにいるのはほとんどが男性。女性は生活面のサポートで来ている人がほとんどです。洗濯とか食事の用意とか。そのせいで、肉を焼くのは女性の役目という空気が出来上がっていたのです。気づいたら調理器具と生肉を持たされ焼く係となっていました
結局私が食事にありつけたのは、皆が食べ終わった後。肉は残っていませんでした。
翌日防壁による囲いが完成し、中の安全を確認していた冒険者からある知らせがもたらされました。囲いの中に男性が一人倒れていたというのです。私は治癒士を連れて現場へと向かいました。
案内された場所につくと他の冒険者も集まっており、一人の男性が介抱されていました。見たところ、どうやら意識はあるようです。
特に外傷などはなく、治癒士の検査でも異常はありませんでした。とりあえずは一安心です。
「それで、なぜこんな森の中で倒れていたのですか」
私がそう聞くと、その場の全員が困った顔をしました。
「それがな、こいつ、覚えていないんだよ」
介抱していた冒険者の一人がそう言いました。
「なぜここに居たのか分からないという事ですか」
「あの、そうではなくてですね、その、自分が誰なのかも覚えてないんですよ」
発見された男性がそう返答をしました。頭を掻きながら、申し訳なさそうにキョロキョロしています。
記憶喪失、頭を強く打ったり精神に強いダメージを受けると起こる症状として知られています。最近の記憶だけ無くなる軽度の物から、自分が何者であるかすらわからなくなる重度の物までいろいろあります。どうやら彼は、後者のようでした。
とはいえそれは自己宣告。記憶喪失を訴える人の大半は犯罪者と相場が決まっています。罪を逃れるために何も知らないことにしてしまう最終奥義です。怪しい。いったい何者なのでしょうか。
疑わしきは罰せよと言いたいところですが、本当に記憶喪失なだけかもしれないのでまずは彼に許可をもらい鑑定してみることにしました。
「これは……」
彼のステータスを見て私は困惑しました。彼のステータスは、名前の欄が空白でした。




