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44. 研修終了

 アリ達の前に立ったのはパルムさんでした。フードで素顔を隠し、寡黙で、謎多きCランク冒険者です。


「実力周知」


 パルムさんがそう言うと、私の頭の中に情報が流れ込んできました。


「これは……ステータス!? いや、威嚇系スキルでしょうか」


 見ると、他の人たちも同様に驚いていました。私たちの頭に流れ込んできたのは、パルムさんの戦闘能力でした。鑑定のように項目と数値で表されているのではなく、感覚的というか、気配というか、なんかそんな感じです。


 この人はやばい。私たちはそのときパルムさんにそんな印象を持っていました。


 そして、アリたちも私たち同様に動きを止めていました。パルムさんを中心にして私たちを囲んだままこちらを警戒しています。


 私達が感じているパルムさんの力は、一言で言うなら猛毒。パルムさんから危険な毒の気配を感じます。


 私はメガネをかけ、パルムさんのステータスを鑑定しました。



===============================

 人間 パルム 女 17歳

 レベル:46

 状態:普通


 HP:301/322

 MP:394/417

 筋力:138

 耐久:102

 俊敏:284

 知力:151


 スキル:『魔眼 LV5』『実力周知 LV3』『猛毒付与 LV3』

     『混乱付与 LV2』『麻痺付与 LV2』『苦痛付与 LV1』

     『沈黙付与 LV1』『幻覚付与 LV1』『盲目付与 LV1』

     「動悸付与 LV9」「酩酊付与 LV6」「恍惚付与 LV6」

     「酸欠付与 LV6」「短剣術 LV5」

===============================



 うわぁ。状態異常系スキルのオンパレードです。そして、『実力周知』というのは名前通り自分の能力を察知させる能力でしょう。いわばパルムさんは毒キノコ。警戒色によって自身の毒を知らせ、敵を遠ざけることができるのです。


 パルムさん、魔物を討伐したことが無いのに強いといううわさが流れるわけですね。本当の実力はAランクでしょう。


 私達を囲んでいたアリたちは、私達を避けるように進路を変えてそのままいなくなりました。こうして私達は助かったのでした。



「パルムさん、新人たち全員に麻痺をかけられますか」

「……なんで?」

「ギルド命令です。別に害を与えるわけではありません」

「……分かった」


 パルムさんはそう言うと、新人たちを一瞥しました。『魔眼』に『麻痺』を付与したのでしょう。新人たちが麻痺しました。


「ちょ!? マリーン!? 何させてるの!」


 エルーシャが驚いています。


「エルーシャ、新人たちの人数を数えてください」

「え? あ! そういえば!」

「ええ、先ほど私たちが人数を確認したときは参加人数と一致していました。が、そこにもう一人新人が逃げてきて合流しました。変ですよね」


 私は新人たちにも聞こえるようにそう言いました。


「新人が一人多い?」

「そう、何者かが新人に紛れ込んでいたんですよ。だから食器を配れば一人分足りないのに数を数えたら足りていたんです。他に無くなった物資を思い出してください」

「えーっと……花火と水筒とペンと参加者リスト?」

「その通り。そしてこの内3つは新人に配った物資と一致しています」

「どういうこと?」


「用意したんですよ。野営地内で、新人に配るのと同じ物資を。そして配布物に混ぜて数を増やしたんです。そのために、水筒をエルーシャから盗み、ペンを私から盗んだのです。地図用の紙も実は盗まれていたのでしょうね。これで配り足りない物資が花火だけになりました。これなら人数が一人多いことをごまかしやすいです」

「たしかに、「花火が足りない」って思うもんね」

「ええ、食器も他の物資も一つずつ足りなければ、人数が多いとすぐに気づいたでしょう。ですがこの工作によってごまかされていたんです」

「じゃあこの中にその犯人がいるってことか」


 エルーシャが新人たちを見渡しました。


「参加者リストを盗んだのは、点呼を取られたくなかったから?」

「そうです。名前を確認されれば自分が部外者だとばれてしまいますからね」

「じゃあどうやって犯人を捜す? 名簿はここにはないよ?」

「簡単です。街を出るための仮許可証を持っていない人が犯人です」

「なるほど! 研修の時に一時的にしか発行されないから、部外者は持ちえないもんね」


 私たちは手分けして犯人を捜し、仮許可証を持っていない人を見つけ出しました。念のため、他の新人たちも仮許可証の名前と鑑定結果を照合して、間違いがないと確認が取れました。


「ふう、いきなり麻痺させられてびっくりしたわ」

「まさか不審者が紛れ込んでいたなんてな」

「知らずに一緒に研修受けてたって考えると、怖いね」


 麻痺から解放された新人たちが騒ぎ出しました。麻痺で喋れなかった分の言葉が一気に放出されたのでしょう。


 私たちは犯人を街まで連行しました。衛兵につき出した結果、犯人は賞金首であることがわかりました。尋問により明らかとなった犯人の目的は、街に入ること。2日目の単独行動中に新人を殺して成り代わり、身分を奪って街に入ろうとしたのです。仮とは言え許可証があれば、門番に鑑定されずに入れますからね。



 研修は後日再開され、新人たちは全員Dランクへと昇格できました。私達の休暇も終了です。いつもの忙しい日々へと戻りました。


 また、ジャイアント・アーミーアントの通った跡には大規模な開拓労働力が送り込まれました。魔物が根こそぎ食いつくされたため、その一帯は一時的な安全地帯となったのです。周囲から魔物が移って来る前に、一気に切り開いてしまおうというわけです。ヨハン周辺の開拓計画が一気に進みました。


 ですが、いまだ周囲には未開拓地が広がっています。開拓都市ヨハンは今日も仕事で溢れているのでした。

新人野外研修編はこれで終了です。


次回予告:迷い人編

 今話最後に語られた大開拓、そこでは実は不思議な事件が起こっていた。そして片鱗を見せる世界の謎。過去話とは一線を画すSFすごいふしぎな問答。乞うご期待。


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