43. 迫る災害
ジャイアント・アーミーアントの知らせを受けた私たちはすぐに研修参加者を呼び戻しました。非常事態用にのろしの合図を決めて周知していたため、続々と野営地に戻ってきました。
人数も確かめ、全員いることを確認しました。私は全員に、魔物の群れが近づいていることを話しました。
「それで俺たちはどうするんだ? 街に避難するのか?」
「はい。ここは破棄してすぐに街に戻ります。今ならまだ追いつかれずに済みます」
「研修はどうなるんだ?」
「後日、安全が確認されてから再開となると思います。そのためにも全員無事に帰還しましょう。不要な物資は置いていってください」
私達はすぐに街に向かいました。街の周囲まで張ってある魔物除け結界に逃げ込めば安全です。結界と言っても魔物に忌避感を与えて遠ざかるように仕向けるだけですが、知能が低い魔物ほど効果があります。昆虫系の魔物は特に知能が低いので十分な効果があります。人間レベルの知能があれば別ですが。
来るときは数時間かかった道のりを倍の速さで戻ります。来る時よりも荷物を減らしているので可能な速度です。
「ぜぇー、ぜぇー」
エルーシャも息が荒くなっていますが、何とかついて来れています。しかし今にも倒れそうですね。
「エルーシャ、ちょっと靴に触りますね」
私はエルーシャの靴にスキル「走行 LV1」を付与しました。これで少しは楽に走れるでしょう。
「ぜぇ、ありがと、ぜぇ」
「どういたしまして」
そうして街まであと半分といったところで、私たちは一度休憩をはさみました。これ以上無理して移動すれば脱落者が出かねません。
「アリどもの進行方向がこうだったから、ここまで来れば進路から逃れられたはずだ」
ジャイアント・アーミーアントを発見した冒険者が地図を見てそう言いました。少し安心ですが、進路が変わる可能性もあるので油断はできません。
ピュー……パン!
後方から爆発音が聞こえました。私達が振り返ると、野営地の方向に花火が上がっていました。新人に渡した救援用花火です。
「おい! 全員いたんじゃないのか!?」
「点呼! 点呼取れ!」
私たちに戦慄が走ります。だれかを置き去りにしていた可能性が出てきました。
「……大丈夫だ。全員いる」
しかし、人数を確認した結果全員揃っていることがわかりました。
「じゃあさっきの花火は何だったんだ?」
「誰かが向こうにいるのは間違いない。救援を呼んでるんだ!」
ドーン。
花火の方向から爆発音がしました。遠くありません。
ドーン、ドーン!
音が近づいてきました。これは、誰かが戦っているのでしょうか。
「おい! あれを見ろ!」
冒険者の一人が音の方向を指さしました。木々の向こうから誰かが走ってきます。
「見覚えがある! 新人の一人だ!間違いない!」
そしてその後ろから、ジャイアント・アーミーアントの群れが迫ってきていました。
「まずい! アリを引き連れてきてるぞ! 攻撃して怒らせたんだ。」
「に、逃げろ!」
私たちは一斉に逃げ出しました。下水道のネズミの群れなど比べ物になりません。まさしく災害が迫っていました。が、もともと疲労がたまって休憩していた私達にはきつい逃走。アリたちのほうが速いです。かといって戦うだけの体力も残っていません。
「てめえ! よくもアリどもを連れてきたな!」
新人の一人が、アリを引き連れてきた新人に怒鳴りました。逃げてきた彼が私たちに追いついたのです。
「知るか! 出くわしたから逃げて来たんだ! お前らこそよくも俺を置いていったな!」
彼が私たちに追いついたということは、アリたちもすぐ後ろに迫ってきているということ。すぐ後ろでギチギチとアリの威嚇が聞こえます。
「くそっ! 戦うしかないのか?」
「しかたねえ! 俺たちが時間を稼ぐから、新人たちは逃げろ!」
そう言い武器を構える冒険者たち、しかしその顔は絶望に染まっています。
その時、
「……大丈夫。固まってて」
そう言いアリたちの前に出た人物がいました。その人物は、パルムさんでした。




