42. 消える物資
そして翌朝、特に魔物に襲われるということもなく無事朝を迎えることができました。朝食を取った後、新人たちを集めて朝礼を開きました。
「えー、昨日も説明した通り、今日から明日の朝まで一人で狩猟採取を行ってもらいます。なにを狙うかは自由です。取れたものはギルドで買い取ります。また、いくつかのミッションを達成してもらいます。まず一つ目は、水の確保です。後で配る水筒に水を満たしてもらいます。次にマップの制作。自分が移動した範囲の地図を作ってもらいます。次に……」
こうして説明が終わると、必要な物資の配布に移りました。配るのは空の水筒、地図を描く紙とペン、緊急時に位置を知らせる花火です。
「あれ? 花火が一個足りない……」
物資の受け渡しをしていたエルーシャがそう言いました。最後の一人に渡す花火が足りないようです。
「準備の時に数え間違えたのでは」
配布物を準備したのはエルーシャです。
「いや、食器のこともあったから昨日確かめたんだけど、その時は人数分あったんだよ」
「妖精の仕業でしょうかね」
「はぁー、もう子供じゃないんだから、空想と現実の区別ぐらい付けなよ」
エルーシャがやれやれといった風に肩をすくませました。なにこいつむかつく!
「あ、おれ火魔法使えるんで、花火無くても同じ感じに位置を知らせられますよ」
新人の一人がそう名乗り出たので、その人は花火無しになってもらえました。やむを得ずの判断です。
そして新人たちは各々森へと入っていきました。新人じゃない冒険者も安全を確保するために森に散らばっていきました。
まだ二日目は始まったばかり。そして私たちは待機という名の休憩という名の休日です。他の職員や護衛の冒険者の目があるので派手なことはできませんが、せいぜい楽しむとしましょう。まる一日休みなんて一か月ぶりです。つまり前回の研修ぶりです。職場環境の見直しを求めたいです。
「あれ? どこ行ったのかな?」
エルーシャがそう声をあげました。また何かをなくしたようです。
「今度は何をなくしたのですか」
「いや、私の水筒が無くなっちゃって……」
「ギルドの備品の水筒ですよね」
「そう」
職員はギルドの物品を使用しているので、先ほど新人に配ったのと同じ水筒を使っています。他の職員が間違えて持っていったのでしょうか。
そう思って他の職員に聞いてみましたが、だれもエルーシャの水筒を持っていませんでした。一体どこに行ったのでしょうか。
そうして探し始めて10分、新たな事実が発覚しました。私のペンがありません。
「なぜ次から次へと物が無くなるのでしょう」
「泥棒かな?」
「だったら街でもっと金目の物を盗むでしょう」
「妖精?」
「論外」
もしかしたら、他にも無くなっているものがあるかもしれません。私たちは物資の確認を行いました。結果、ある書類までもが無くなっていることがわかりました。その書類とは、研修の参加者リストです。
「写しはギルドにありますが、また面倒な物が無くなりましたね」
これでは新人の採点ができません。困りました。
「マリーン、食器の確認終わったんだけど……」
「どうしましたか」
「人数分、あったよ?」
「……」
足りなかった食器が足りている……。
「今朝の食事までは足らなかったですよね」
「うん」
私たちは困惑に包まれました。無くなった物は全てバラバラ。同じ研修中に無くなったということ以外、関係性は見当たりません。
「おーい! 大変だ!!」
そのとき、野営地に一人の冒険者が駆け込んできました。索敵に出ていた内の一人です。
「ジャイアント・アーミーアントがいた! こっちに向かってるぞ!」
「なんですって!?」
ジャイアント・アーミーアントとはアリの魔物です。いわゆる軍隊アリで、一匹が人間サイズの大きさであり、数百から数千匹の群れで行進して動物を食い尽くす災害レベルの魔物です。群れ全体の脅威度はAまたはSランクです。
それがこちらに向かっていたのでした。




